ここは、スイル大草原の北西部に位置する小さな湖の近くにある林の中。

 エリュードは林の中を歩きながら、食材になりそうな物をひたすら探していた。

「流石に森と違って、食べられそうな物がそんなにないな。んー、こうなったら精霊に頼るしかないか。時間がもったいないしな」

 目を閉じエリュードは、両手のひらを上に向け合わせると肩ぐらいの高さまで持ってくる。

 それと同時に地の精霊に呼びかけた。

 するとエリュードの周りを、薄エメラルドグリーンの小さい光がポワッと現れ徐々に増える。

 エリュードはそれを感じ確認するとひざまずき、その光……もとい、地の精霊に祈りを捧げた。

(この地にありし、食せる物を指し示したまえ)

 その祈りにこたえ地の精霊たちは、フワフワ宙を浮きながら優しい光を放った。

 その放たれた光は、この林の中にある食材として使える物のすべてを指し示して光る。

 それを確かめるとエリュードは、その光を頼りに食材を集めていった。

「これは、思ってたよりも野草や木の実があるもんだな」

 そう言い食材を集めながら更に奥へとすすむ。

「フゥ〜、さて、こんなもんかな」

 エリュードは、そろそろ戻ろうと思い湖の方へと向きを変える。すると、背後から獣の気配を感じ振り返った。

「ちょっと待て!? 何でこんなとこに、牛猪(ウシイノシシ)がいる? それに、今まで赤い目をしたヤツはみたことがないっ!」

 牛猪は怒り狂い興奮しながらエリュードの方に突進する。


 ちなみに牛猪とは、その名の通り牛と猪が合わさったような獣であり、この世界にしか存在しない生き物だ。

 そしてこの牛猪の肉は、煮る、焼く、薫製、色々な料理に合い美味しい。


 エリュードがそれを難なく避けると、牛猪はその反動で少し先の方で止まった。

 すると牛猪は、ゆっくりとエリュードの方を向き体勢を整える。

 それと同時に牛猪は、エリュードを見据えると弾みをつけ突進した。

「クッ、流石に待ってくれるわけがないよな」

 そう言い身構える。

(この距離じゃ、弓矢や攻撃魔法だとあまりにも近い。そうなると、補助魔法とナイフを使うしかないか。だが間に合うのか?
 フゥ〜、落ち着け。今は、そんなことを考えてる暇なんかない。何がなんでも、コイツを仕留めるしかないだろうがっ!)

 牛猪はエリュードの近くまで来ていた。それをみるとエリュードは急ぎナイフを持ち構える。

(もう、そこまで来ている。でも、なんか様子が変だ。なんで、こんなに怒っているんだ? それに、目が赤いってのも気になる)

 そして牛猪は勢いをつけると、エリュードに飛びかかったのだった。