「さて、料理が冷めちまう。エステラ、ソーセージも美味いうちに食べな」
「うん」
「お前らも、次の一杯で帰るんだぞ」
「チッ、わかったよー」
「仕方ねぇな、今日は帰るか」
「あと一杯は飲むけどな!」
「ゆっくり飲むか!」
「何なら割って薄めりゃ量も増えるってもんよ!」
「馬鹿言え! ったく……あいつらより、精神年齢はエステラの方がよっぽど上だな。ありゃ、聞き分けの悪いガキだ」


 テーブルの方に向かって叫ぶようにして応えた店主が、今度は小声で呟くのを黙って聞く。席に座り直したエステラは「実際は歳もだけど」と内心で付け加えておいた。

 魔女は見た目に反して、人間よりもずっとずっと長く生きている。少女の見た目をしているエステラの本当の年齢は、この場に居る人間たちは誰一人として当てられないだろう。知ればきっと、椅子から転げ落ちるはずだ。


「いや、信じないかな……」
「何か言ったか? エステラ」
「ううん、何も」


 その後、魚とソーセージを平らげたエステラはカウンターの内側に入って店主から料理を習った。冬の寒さにぴったりなそれは、鶏肉と野菜を使ったスープだ。


「スープは俺の作る料理の基本だ。店に出してるのは、これをちょっと変えたレシピなんだよ。エステラも前に食べたことがあるだろう? だけど実は、元はこっちなんだ」
「あるけど、これも充分美味しそうなのに。何が違うんだ?」
「カブが入っていないのと……あと、白ワインが入ってる」

 一際煩いテーブルのある方には背を向け、小声で告げた店主に、エステラは小さく笑みを溢した。


「なるほど。それは店には出せないな」


 出せば確実に、仕込みの手間が倍増するはずだ。


「だろう? じゃあ、まずは野菜を切って──」


 エステラは教えられた通りに調理をした。鶏肉の他にジャガイモ、玉ねぎ、パースニップ、それからキャラウェイの若葉。白ワインを加えて煮込んだそれらは、完成する頃にはこの深夜にも食欲を掻き立てる、とても良い香りがした。味付けも完璧だ。


「美味しいな。店で食べられないのが勿体ないくらいだよ」
「それは良かった。身体も温まる。寒い朝に作れば、その日は一日有意義に過ごせるはずさ」