「いや、それは……」
「だって、なぁ?」
「だっても何もない。だいたい、家で子どもたちの面倒を見てくれている奥さんが可哀想じゃないか。毎晩出歩いたら」
「……でも、俺たちが働いて得た金で生活してるんだぞ?」
「そうだよなぁ、ちょっとくらい使っても文句は言えねぇと思うけどなぁ」
「仕事で溜まった鬱憤もな、気を晴らす為にも酒は必要なんだよ。ほら、薬みたいなもんだろ」
「おっ、アルバロお前良いこと言うじゃねぇか!」
「そうだ、薬だ! 俺たちには薬が要る!」
「だろ〜?」
「その薬が、なんで男たちだけにあるんだろうな」
ぴしゃり、エステラは再び水を差した。
「はぁ……金を稼ぐのは素晴らしいことだが、おじさんたちが今こうしてここに居られるのも、奥さんが子どもたちを寝かしつけてくれているからだろう。それに、その汗まみれの服を毎度洗濯してくれているのは誰だろうな。それが無ければ、今頃全員外も出歩けないはずだけど」
「エステラの言う通りだな」
カウンターから出てきた店主が、空いた皿を下げながら笑った。
「レナトまでそんなこと言うのかよ」
「言うさ。わかったら、お前ら全員今日くらい早く帰ったらどうだ?」
「でもよー、俺たちが居るからお前の店は繁盛してるんだろ? んなのによ、帰れなんて言われちゃ寂しいぜー」
「そうだ、そうだ! それに客は少ないより多い方が良いだろ?」
「俺たちはこの店の為を思って、毎晩通ってるんだよ!」
「感謝しろよ、レナト!」
口々に宣う男たちに、エステラと店主は顔を見合わせ、揃って溜め息をついた。
「いーや、それは思い違いだな。俺は最近、お前らが長居するせいで仕込みが大変で困ってるんだ。お前らのおかげで、毎日どれだけの酒を仕入れてると思ってるんだ」
「そうだよ。それにレナトおじさんの料理は美味しいから、飲んだくれが居座らなくても充分やっていけるよ。私が保証する」
「ありがとうよ、エステラ。そういうわけだから、お前ら。いい加減早いうちに家に帰れ」
「それで洗濯でもしなよ。奥さんを労って、子どもたちとも遊んであげてね」
二人からの口撃に、その席の男たちだけでなく店内に居た心当たりのある人間は全員、黙って肩をすくめたのだった。