翌日、優一には検査結果を聞きに行くと嘘をついて大学病院に向かった。朝、心配そうに見つめてくる優一をなぜか直視できなかった私は、頭を撫でてくる優一の大好きな手の匂いに泣きそうになりながらも、なんとか乗り切って家を出た。

 ふらつく足どりで、無機質に案内してくる看護師さんにされるがままにいくつもの検査を受ける。癌といってもあくまでも可能性の話だ。仮に癌だったとしても早期発見で治療をすれば問題ないという先生の言葉を、何度も心の中で神に祈るように繰り返した。

 全ての検査が終わり、いよいよ審判がくだされることになったけど、祈りもむなしく、私にくだされた結果は想像をはるかに超えるものだった。

 即刻入院を勧めてきた先生の話を断って病院を飛び出すと、近くにあった公園までなにもかもから逃げるように走っていった。

 人気のないベンチに座り、荒い息がおさまらないまま震える手で美穂に電話をかける。長いコール音のもどかしさに苛立ち始めたところで、ようやく美穂が電話にでてくれた。

『ごめん、あとでかけ直すから――』

『美穂、私、私ね――』

 仕事中だった美穂は、手があかないことを理由に折り返すことを口にした。けど、美穂の声を聞いた私は、全ての感情を嗚咽と共に吐き出した。

『優香、今どこにいるの?』

『大学病院の近くかな。私ね、妊娠じゃなくて癌だった。しかも、子宮を全摘出しないといけないんだって』

 さすがの私の異変を察知したのか、美穂は電話を切ることなくつきあってくれた。それをいいことに、私はあふれてくるぐちゃぐちゃの感情を考えることもできないまま吐き出し続けた。

『優香、今から行くからそこにいて。私が来るまでなにも考えずにそこにいるのよ』

 支離滅裂な叫びに似た私の話を黙って聞いていた美穂が、ゆっくりとした口調で釘を刺すようにさとしてきた。

『わかった、ありがとう』

 仕事の邪魔をしている自覚はあったけど、美穂が来てくれるということが嬉しかった。今の私は、もう一人で立ち上がれる気力がなかった。

 ――どうしよう……。優くん、怖いよ……

 うなだれ暗くなった視界の中に、子供用のメガホンを手にして笑う優一の姿が浮かんできた。

 その決して訪れることのない未来を想像した瞬間、私の中でなにかがゆっくりと壊れていくのをはっきりと感じた。