学校に行くと、今朝のニュースで持ち切りだった。
学校でこんなにもニュースの話が出ているのは、きっとそれがクリスマス関連の事だったからだろう。
「カラオケでオールすればいいんじゃね?」
そんなバカみたいなことを口走っている彼らに、お願いだから家で過ごしてくれと心の中で願った。
冬休み明け、学校に来たらクラスメイトが死んでいました、なんて、年明け早々重すぎる。辛すぎる。しんどすぎる。苦しすぎる。
まぁ、私に友達などいないのだけど。
「おはよう、琴菜」
「おは、よう」
隣の席に重たそうなスクールバッグを下ろし、いつも通り私に笑って声をかけてくれるのは、飯原星矢くん。
スポーツ万能で優しくて、気遣い上手。それにノリもいい。少女マンガから出てきたような、陽の部類に入るモテ男子の彼は六月にこのクラスにやってきた転校生で、その日から何故か毎日の日課のように、私に向けた「おはよう」と「また明日」を欠かさない。
そして、私はその笑顔にまんまと堕ちてしまったという、笑顔をくれる人なら誰でもいいみたいな理由で彼を好きになった。
付き合える訳でもないし、付き合うわけでもない。そういう願望がないとは言えないけど、どちらに傾いても付き合うことはない未来は見えていた。
「今朝のニュース観た?」
彼は周りのみんなと同じ話題を口にした。
「うん。クリスマスのニュースだよね」
クリスマスに大切な誰かと出かける習慣がない私は、彼の話を聞くのに徹するつもりだった。
誰と出掛けて、何をするつもりだったのか。そういう内容の話になりそうというのは、彼のあからさまに残念そうな顔を見て察しがついていた。
「琴菜は予定あった?」
毎回、ブラッククリスマスの通知が来る度、昨日までキラキラしていた未来の予定は過去形に変わる。
まだ一ヶ月も先なのに、たくさんの人の予定を狂わせる、今日のようなニュースは大嫌いだ。
「まだ特になかったな。星矢くんは?」
「好きな子、誘う予定だった」
彼の、どこかで想い人がいるとわかっていながらも、直接的な表現の衝撃的な内容に思わず持っていたシャーペンを落としてしまった。
「そっか、そうだったんだ」
驚きのあまり、いつもは上手く隠せる色恋のちょっとした動揺も、頭が真っ白になって次の言葉が思い浮かばなかった。
「どうした?」
えと、その、えっと。
間が空けば空くほど、次の言葉に悩んで、やけに時間の経過が早く感じてさらに焦る。
こんなに焦るとバレてしまう。バレてはいけないのに、最悪な形で好きバレしてしまう。
それだけは意地でも避けなければいけない。
「二十三日なら、いいんじゃない?」
私は割とブラッククリスマスについて詳しい方だと思っている。
何年か前に個人的に調べたことがあるからだ。
ブラッククリスマスは数年に一度ある残虐的なクリスマス。
起源は、約六十年前の有名な未解決事件である『笹幸家一家放火殺人事件』だと言われており、クリスマスイブとクリスマスの二日間に渡り、大手部品会社の社長一家と、副社長である弟一家が放火殺人により亡くなったことが始まりらしい。
決まり事は二つ。
・稼働日は予告状が降った年の十二月二十四日と二十五日の二日間。
・零時をまわった瞬間から明け方までと、十七時から二十三時五十九分まで。というように、二日とも二部制で時間が決まっていること。
「だから、イブの前日なら大丈夫だよ」
久しぶりにペラペラと詳しいんだぞと自慢するように話してしまった。
「そうなんだ。じゃあ、誘ってみようかな」
彼は私のことを疑うこともなく、嫌な顔ひとつしないで、笑顔で言った。
「……うん、それがいいよ」
好きな人が好きな人を追う背中を押すのは、想像していたよりも苦しいものだった。
それが初恋の人だから、きっと尚更。
せめてもの悪あがきで、あなたに誘われたら嬉しいに決まってる、なんて言ってみようかと思ったけど、げんなりされたら嫌だからやめておいた。
学校でこんなにもニュースの話が出ているのは、きっとそれがクリスマス関連の事だったからだろう。
「カラオケでオールすればいいんじゃね?」
そんなバカみたいなことを口走っている彼らに、お願いだから家で過ごしてくれと心の中で願った。
冬休み明け、学校に来たらクラスメイトが死んでいました、なんて、年明け早々重すぎる。辛すぎる。しんどすぎる。苦しすぎる。
まぁ、私に友達などいないのだけど。
「おはよう、琴菜」
「おは、よう」
隣の席に重たそうなスクールバッグを下ろし、いつも通り私に笑って声をかけてくれるのは、飯原星矢くん。
スポーツ万能で優しくて、気遣い上手。それにノリもいい。少女マンガから出てきたような、陽の部類に入るモテ男子の彼は六月にこのクラスにやってきた転校生で、その日から何故か毎日の日課のように、私に向けた「おはよう」と「また明日」を欠かさない。
そして、私はその笑顔にまんまと堕ちてしまったという、笑顔をくれる人なら誰でもいいみたいな理由で彼を好きになった。
付き合える訳でもないし、付き合うわけでもない。そういう願望がないとは言えないけど、どちらに傾いても付き合うことはない未来は見えていた。
「今朝のニュース観た?」
彼は周りのみんなと同じ話題を口にした。
「うん。クリスマスのニュースだよね」
クリスマスに大切な誰かと出かける習慣がない私は、彼の話を聞くのに徹するつもりだった。
誰と出掛けて、何をするつもりだったのか。そういう内容の話になりそうというのは、彼のあからさまに残念そうな顔を見て察しがついていた。
「琴菜は予定あった?」
毎回、ブラッククリスマスの通知が来る度、昨日までキラキラしていた未来の予定は過去形に変わる。
まだ一ヶ月も先なのに、たくさんの人の予定を狂わせる、今日のようなニュースは大嫌いだ。
「まだ特になかったな。星矢くんは?」
「好きな子、誘う予定だった」
彼の、どこかで想い人がいるとわかっていながらも、直接的な表現の衝撃的な内容に思わず持っていたシャーペンを落としてしまった。
「そっか、そうだったんだ」
驚きのあまり、いつもは上手く隠せる色恋のちょっとした動揺も、頭が真っ白になって次の言葉が思い浮かばなかった。
「どうした?」
えと、その、えっと。
間が空けば空くほど、次の言葉に悩んで、やけに時間の経過が早く感じてさらに焦る。
こんなに焦るとバレてしまう。バレてはいけないのに、最悪な形で好きバレしてしまう。
それだけは意地でも避けなければいけない。
「二十三日なら、いいんじゃない?」
私は割とブラッククリスマスについて詳しい方だと思っている。
何年か前に個人的に調べたことがあるからだ。
ブラッククリスマスは数年に一度ある残虐的なクリスマス。
起源は、約六十年前の有名な未解決事件である『笹幸家一家放火殺人事件』だと言われており、クリスマスイブとクリスマスの二日間に渡り、大手部品会社の社長一家と、副社長である弟一家が放火殺人により亡くなったことが始まりらしい。
決まり事は二つ。
・稼働日は予告状が降った年の十二月二十四日と二十五日の二日間。
・零時をまわった瞬間から明け方までと、十七時から二十三時五十九分まで。というように、二日とも二部制で時間が決まっていること。
「だから、イブの前日なら大丈夫だよ」
久しぶりにペラペラと詳しいんだぞと自慢するように話してしまった。
「そうなんだ。じゃあ、誘ってみようかな」
彼は私のことを疑うこともなく、嫌な顔ひとつしないで、笑顔で言った。
「……うん、それがいいよ」
好きな人が好きな人を追う背中を押すのは、想像していたよりも苦しいものだった。
それが初恋の人だから、きっと尚更。
せめてもの悪あがきで、あなたに誘われたら嬉しいに決まってる、なんて言ってみようかと思ったけど、げんなりされたら嫌だからやめておいた。