「よし」
気合いを入れたところで、改めて考えてみる。
生活に必要なものは衣食住。
これは前世「ニホン」において学んだ事だ。
では、今の状況はどうだろう。
「衣」:着ている装備、着替えも何着か持ってきているので大丈夫。
「食」:先ほど食べた濃厚な魔力で出来た果物や野菜がある。最高。
「住」:今いるここ。神獣もいて、安全以外の何物でもない。はっきり言って最高。
「完璧じゃねえか!」
結論に至ってしまった。
あれ、ここって天国か何かですか?
「だがしかし!」
俺はこれで満足して終わるような男ではない。
『衣食住』が揃っているなら、そこからさらに快適にしてみせようじゃないか!
歳月を全て魔法に費やしてきた男の真骨頂、とくとご覧あれ!
「あれは、何をしておるのだ?」
「さあ……」
後方からはそんな声もするが、今に見ておけよ。
動き出した俺は、まずはフェンリルさんに聞いてみる。
「ここの木は使っても良いんだよね」
「ああ、構わんぞ。だが一体何を?」
「まあまあ」
確認を取った後、俺は十本ほどの木を前にして地面に手をつく。
「……ふむ」
高さはそれぞれ大体十メートルといったところか。
それなら、
「──ッ!」
これぐらいかな?
「何をしたのだ、エアルよ」
「よく見てて」
外見上はまだ何も変化がない。
しかし段々と……
「来た来た」
「なんと!」
十本の木が一斉にこちらに傾き始める。
「よっと」
すかさず『収納魔法』の空間を前方に展開。
その空間に触れた木々は、しゅんっと音と共に姿を消していく。
正確には異空間で保存される形となる。
収納魔法は楽でいいねえ。
「す、すごい力だ」
「へっへーん。そうでしょ!」
「ああ。それにその前のことも、何をしたと言うのだ。魔力を操っていたようだが……」
フェンリルさんは不思議そうな顔でボソボソ話す。
魔法はさっぱりらしいが、魔力の流れには敏感なんだね。
「これは収納魔法でー、木を切ったのは魔力をちょっと操作したのさ」
『操作だと?』
「うん。この木の魔力を根本に集中させ続けると、やがて膨れ上がってパンパンになる。その外へ逃げようとする力を利用して綺麗に切断したんだよ」
『な、なるほど……と納得してよいのか」
口をぽかんと開けているフェンリルさん。
それにはすかさずシャーリーが付け加えた。
「フェンリルくん、エアルは基本的におかしいのよ」
「そうらしいな……」
「おいおい」
自由に使えれば本当に便利なんだけどなあ、魔力操作。
魔力操作。
魔法を使う際の基礎的能力ではあるが、それを極めれば割とどんなことも出来る。
魔力が何たるかを考え抜いた結果に得た操作精度だけど、普通は出来ないらしい。
この世界での「魔力」とは生命そのもの。
人にとっては血液と同等に大切なものだ。
俺がその気になれば、人に触れるだけで魔力を逆流させて、命を絶たせることだって出来る。
……まあ、そんな恐ろしいことはしないとして。
そうして、フェンリルさんがまた尋ねてくる。
「それは分かったが、これから何をすると言うのだ?」
「見ててくださいよフェンリっさん」
「フェン……?」
そう宣言して、ニヤリとした顔を浮かべる。
ここからは一気にいくぞー!
「おりゃ!」
異空間に収納した木々を一気に放出。
──さらに、
「せーい! とう!」
空中でそれらを切断・接着させて形を整えていく。
これも魔力操作によるものだ。
「な、なな……!」
「えー……」
フェンリルもシャーリーも、目の前の光景に信じられないという目を向けながら、俺の作業をじっと見つめる。
ちょっと誇らしい、けどちょっと照れくさい。
「仕上げ!」
そうしてあっという間に形は整った。
最後にそれらを固定させて、どしーんとその場に建てた。
するとどうなるか……。
「じゃーん! 木で出来た家『コテージ」です!」
「なんだと……!」
「うっそお……」
二人はまたも口をあんぐりと開けて固まってしまった。
特にフェンリルさんなんかは、コテージと俺とで何度も視線を往復させながら聞いてくる。
「お主、本当に人間か……?」
「そうだけど」
「ううむ……」
頭を抱えるフェンリルさんは横目に、俺はシャーリーの方を向く。
「あった方が助かるでしょ? コテージ」
「助かるけど……いえ、もうツッコんだら負けかな。うん、ありがとう!」
シャーリーは基本的に優しい。
こうしてフェンリルさんに連れて来てもらって文句を言うような人ではない。
だから「雑魚寝は嫌」なんかは言えなかったと思う。
ならば彼女の要望ぐらいは応えてあげたい。
こんな俺に付いて来てくれたんだしな。
「って、そうだ」
せっかくならフェンリルさんにも聞いてみよう。
「フェンリルさんは何か希望とかある?」
「希望だと? まさか我にも作ってくれると言うのか?」
「もちろん! 安全な所に連れて来てもらったし、お礼をしたくて」
「ならば、そうだな……」
フェンリルの要望を聞き、早速作業に取り掛かる。
思いの外、要望が多くて笑ってしまったけど、それぐらい素直だとやる気が出るってもんだ。
シャーリーには先に休んでもらい、俺は作業を続けた。
「出来たーーー!」
あれから少し。
フェンリルさんのサイズに合わせて大きめに作ってみた。
「これは中々のものを……!」
「でしょ~」
意外とミーハーな反応をくれるフェンリルさん。
俺も頑張った甲斐があるなあ。
「入っていいのか!」
「もちろん!」
洞窟の近くに作ったのは、フェンリルサイズの『犬小屋』。
神獣様を入れておくには少々可愛すぎると思うのだが、要望通りにした結果なので仕方がない。
要望があまりにも犬小屋過ぎたので、実は前世の犬小屋って完成形なのでは……?
なんて考えたりもしたほどだ。
「ハフ~!」
「ははっ、ほんとに犬みたいだ」
フェンリルさんはワクワクした顔で入っていく。
これは完全な『ハウス』だね。
「ワフゥ~ン」
そうしてすぐさま、自分の腕を枕にして丸くなる。
よほど気持ち良いのか自然と目も閉じていった。
どこまでも犬だなあ。
「クゥ~ン」
「……可愛い」
とにもかくにも、これでみんなの寝床は無事確保した。
ひとまずはこれで落ち着け──
「きゃああああ!」
「!?」
だけど、その瞬間に悲鳴が聞こえてくる。
これはシャーリーか!
果物が採れるエリアの方からだ!
「シャーリー!」
「エ、エアル。あれ……」
「──!」
すぐさまシャーリーの元に駆けつけ、彼女が指差した方向に目を向ける。
するとそこには──
「モグモグ」
リスのような小動物がいた。
気合いを入れたところで、改めて考えてみる。
生活に必要なものは衣食住。
これは前世「ニホン」において学んだ事だ。
では、今の状況はどうだろう。
「衣」:着ている装備、着替えも何着か持ってきているので大丈夫。
「食」:先ほど食べた濃厚な魔力で出来た果物や野菜がある。最高。
「住」:今いるここ。神獣もいて、安全以外の何物でもない。はっきり言って最高。
「完璧じゃねえか!」
結論に至ってしまった。
あれ、ここって天国か何かですか?
「だがしかし!」
俺はこれで満足して終わるような男ではない。
『衣食住』が揃っているなら、そこからさらに快適にしてみせようじゃないか!
歳月を全て魔法に費やしてきた男の真骨頂、とくとご覧あれ!
「あれは、何をしておるのだ?」
「さあ……」
後方からはそんな声もするが、今に見ておけよ。
動き出した俺は、まずはフェンリルさんに聞いてみる。
「ここの木は使っても良いんだよね」
「ああ、構わんぞ。だが一体何を?」
「まあまあ」
確認を取った後、俺は十本ほどの木を前にして地面に手をつく。
「……ふむ」
高さはそれぞれ大体十メートルといったところか。
それなら、
「──ッ!」
これぐらいかな?
「何をしたのだ、エアルよ」
「よく見てて」
外見上はまだ何も変化がない。
しかし段々と……
「来た来た」
「なんと!」
十本の木が一斉にこちらに傾き始める。
「よっと」
すかさず『収納魔法』の空間を前方に展開。
その空間に触れた木々は、しゅんっと音と共に姿を消していく。
正確には異空間で保存される形となる。
収納魔法は楽でいいねえ。
「す、すごい力だ」
「へっへーん。そうでしょ!」
「ああ。それにその前のことも、何をしたと言うのだ。魔力を操っていたようだが……」
フェンリルさんは不思議そうな顔でボソボソ話す。
魔法はさっぱりらしいが、魔力の流れには敏感なんだね。
「これは収納魔法でー、木を切ったのは魔力をちょっと操作したのさ」
『操作だと?』
「うん。この木の魔力を根本に集中させ続けると、やがて膨れ上がってパンパンになる。その外へ逃げようとする力を利用して綺麗に切断したんだよ」
『な、なるほど……と納得してよいのか」
口をぽかんと開けているフェンリルさん。
それにはすかさずシャーリーが付け加えた。
「フェンリルくん、エアルは基本的におかしいのよ」
「そうらしいな……」
「おいおい」
自由に使えれば本当に便利なんだけどなあ、魔力操作。
魔力操作。
魔法を使う際の基礎的能力ではあるが、それを極めれば割とどんなことも出来る。
魔力が何たるかを考え抜いた結果に得た操作精度だけど、普通は出来ないらしい。
この世界での「魔力」とは生命そのもの。
人にとっては血液と同等に大切なものだ。
俺がその気になれば、人に触れるだけで魔力を逆流させて、命を絶たせることだって出来る。
……まあ、そんな恐ろしいことはしないとして。
そうして、フェンリルさんがまた尋ねてくる。
「それは分かったが、これから何をすると言うのだ?」
「見ててくださいよフェンリっさん」
「フェン……?」
そう宣言して、ニヤリとした顔を浮かべる。
ここからは一気にいくぞー!
「おりゃ!」
異空間に収納した木々を一気に放出。
──さらに、
「せーい! とう!」
空中でそれらを切断・接着させて形を整えていく。
これも魔力操作によるものだ。
「な、なな……!」
「えー……」
フェンリルもシャーリーも、目の前の光景に信じられないという目を向けながら、俺の作業をじっと見つめる。
ちょっと誇らしい、けどちょっと照れくさい。
「仕上げ!」
そうしてあっという間に形は整った。
最後にそれらを固定させて、どしーんとその場に建てた。
するとどうなるか……。
「じゃーん! 木で出来た家『コテージ」です!」
「なんだと……!」
「うっそお……」
二人はまたも口をあんぐりと開けて固まってしまった。
特にフェンリルさんなんかは、コテージと俺とで何度も視線を往復させながら聞いてくる。
「お主、本当に人間か……?」
「そうだけど」
「ううむ……」
頭を抱えるフェンリルさんは横目に、俺はシャーリーの方を向く。
「あった方が助かるでしょ? コテージ」
「助かるけど……いえ、もうツッコんだら負けかな。うん、ありがとう!」
シャーリーは基本的に優しい。
こうしてフェンリルさんに連れて来てもらって文句を言うような人ではない。
だから「雑魚寝は嫌」なんかは言えなかったと思う。
ならば彼女の要望ぐらいは応えてあげたい。
こんな俺に付いて来てくれたんだしな。
「って、そうだ」
せっかくならフェンリルさんにも聞いてみよう。
「フェンリルさんは何か希望とかある?」
「希望だと? まさか我にも作ってくれると言うのか?」
「もちろん! 安全な所に連れて来てもらったし、お礼をしたくて」
「ならば、そうだな……」
フェンリルの要望を聞き、早速作業に取り掛かる。
思いの外、要望が多くて笑ってしまったけど、それぐらい素直だとやる気が出るってもんだ。
シャーリーには先に休んでもらい、俺は作業を続けた。
「出来たーーー!」
あれから少し。
フェンリルさんのサイズに合わせて大きめに作ってみた。
「これは中々のものを……!」
「でしょ~」
意外とミーハーな反応をくれるフェンリルさん。
俺も頑張った甲斐があるなあ。
「入っていいのか!」
「もちろん!」
洞窟の近くに作ったのは、フェンリルサイズの『犬小屋』。
神獣様を入れておくには少々可愛すぎると思うのだが、要望通りにした結果なので仕方がない。
要望があまりにも犬小屋過ぎたので、実は前世の犬小屋って完成形なのでは……?
なんて考えたりもしたほどだ。
「ハフ~!」
「ははっ、ほんとに犬みたいだ」
フェンリルさんはワクワクした顔で入っていく。
これは完全な『ハウス』だね。
「ワフゥ~ン」
そうしてすぐさま、自分の腕を枕にして丸くなる。
よほど気持ち良いのか自然と目も閉じていった。
どこまでも犬だなあ。
「クゥ~ン」
「……可愛い」
とにもかくにも、これでみんなの寝床は無事確保した。
ひとまずはこれで落ち着け──
「きゃああああ!」
「!?」
だけど、その瞬間に悲鳴が聞こえてくる。
これはシャーリーか!
果物が採れるエリアの方からだ!
「シャーリー!」
「エ、エアル。あれ……」
「──!」
すぐさまシャーリーの元に駆けつけ、彼女が指差した方向に目を向ける。
するとそこには──
「モグモグ」
リスのような小動物がいた。