「おおおー!」
「ふわあ……!」
深い茂みを抜け、ここまで乗せてもらったフェンリルさんの背中から降りる。
その瞬間、俺とシャーリーは思わずそんな声を上げてしまった。
「なんだこの場所ー!!」
茂みの中をくり抜いたような、大きな円形の広場。
フェンリルさんが整えたのかな。
「すっげえ綺麗……」
清流が溢れ出る泉。
秘密基地がありそうな洞窟。
木々は生えているが密集しておらず、足元は不思議と暖かい。
今までに見てきどんな場所より、美しい住処が広がっていた。
まさに『秘境』だ。
「ん?」
そして、中でも俺は泉に目を向けた。
泉からは水がゆるかなカーブを描いて吹き出す。
それと同時に、黄緑色のシャボン玉のようなものも舞い上がっていたんだ。
俺は感じ取ったことをそのまま口に出す。
「もしかして、魔力の塊が吹き出しているのか?」
「さすがだな」
「やっぱりか!」
フェンリルさんが泉に目を向け、答えるよう説明してくれた。
「普段は目の見えない形で空気中を浮遊する魔力。それが、密度が濃すぎるゆえに目に見える形になっておるのだ」
「すっげえ!」
この世界において、魔力は空気中に存在している。
だけど、小さい粒であるそれは普通見えることはない。
前世でいう『原子』みたいなものだね。
でも、今こうして泉が見えているのは、フェンリルさんが言った通り『密度が濃すぎる』ため。
前世で例えれば、酸素の塊が目に見えるみたいなものだ。
これは相当異常な現象だと言える。
魔力はあればあるほど良いので有害ではないけどね。
「文字通り、規格外ってか……」
そんな魔力が、黄緑や水色、目に優しい色を持って浮き上がる。
すごく幻想的な景色だった。
この光景に、俺はもちろん大興奮。
だけど、それ以上の反応を見せたのは……意外にもシャーリーの方。
「え、え……!? すごい、なにこれ!」
「シャーリー?」
その声に反応して方へ振り返る。
視線の先では、シャーリーがぺたぺたと自分の頬を触っていた。
「どうしたんだ?」
「す、すごいっ! すごいんだよエアル! 肌がつるっつるなの!」
「肌が?」
そんなことある?
疑問には思いながらも、俺も自分の肌の感触を確かめる。
すると……なんということでしょう。
「ええ! まじじゃん!」
頬だけでなく、腕から足、装備で隠れているはずの太ももや上半身なんかまで。
本当につるっつるだ!
まるでサロンに行った後みたいじゃないか!
「それはこの泉──『癒しの泉』の効果だな」
「泉の?」
「うむ。お主なら知っておろうが、生命はみな魔力を源に出来ておる。つまり、この濃厚な魔力の泉がお主らを潤しておるんだな。病気や怪我なんかもすぐに治るぞ』
フェンリルさんの言葉でようやく頭が追いつく。
理屈では分かるけど、こんなに魔力が集まる場所なんて行ったことがあるはずもないからな。
「驚きの連続だよ……」
とにもかくにも、この泉の効果は『美容』と『回復』。
それもほぼ一瞬でお肌はツルツル、ダメージも全回復だ。
「すごいね、エアル!」
「うん……!」
「すっげー!」
「すごい!」
今までは、フェンリルに怯えて若干無言気味だったシャーリー。
彼女もかなり嬉しそうな表情を見せる。
美容には気を使っていたし、この泉に関しては俺より興奮しているかもな。
「あ」
それから、ふと目に付いた気になる物がある。
「あれってもしかして、果物?」
少し遠くに見える、新鮮な実がなった木々。
かなりの実が成っている。
「うむ。この泉からの濃厚な魔力を存分に吸った果物でな。あれらが我の主食だ。他には野菜なんかもあるぞ」
「果物に野菜!?」
フェンリルさんのから「果物」とか「野菜」という単語が出てくるのも中々面白いが、あるものは仕方がないだろう。
俺はよだれを抑えながら尋ねてみる。
「……お、美味しいの?」
「ああ、自信を持って言える。食べてみるか?」
「ぜひ!」
そうしてフェンリルさんは、しゅばっとその場から消えた。
かと思えば、ほぼ一瞬で木を往復してきた。
「持ってきたぞ」
「「はっや~」」
それなりに距離はあるけど、往復に要したのは約二秒。
とんでもないスピードだ。
「我のことはよい。食べてみよ」
目の前に置かれたのは、なんとも瑞々しい果物と野菜。
見た目は若干違うが、果物はいちご、ぶどう、桃……と思わしき物々。
野菜はトマト、トウモロコシ、枝豆などだ。
どうやら今直接食べられそうな物を選んでくれたらしく、あちらには他にもいくつか種類がある。
「……っ」
ごくりと固唾の飲む。
そしていざ──がぶり!
「「……!」」
シャーリーも同じタイミングで大きく一口いってみたいだ。
次の瞬間には、俺たちは互いに顔を見合わせる。
そしてハモる。
「「うまー!」」
まさに絶品だった。
なにこれ、感動なんだけど!
グロウリアという大国でも、こんな美味しい物はなかったぞ!
それも素材のまんまで!
「どうなっているんだ……?」
「言ったであろう」
「正直ここまでとは思わなかったよ」
俺も日本出身ということもあり、食にはそれなりに気を使っていたつもりだ。
グロウリアの飯もかなり美味しいはずなんだけど、これはまさに“別格”。
もう同じ野菜や果物とは思えない。
ポテンシャルそのものが違う。
そう思う程に甘さや味を色濃く感じる。
そうして、
「お、お主たち……」
「?」
「この場所は気に入ってもらえたか?」
フェンリルが少し恥ずかしそうにしながら尋ねてきた。
答えはもちろん一つ。
「「うん!」」
合わせる間でもなく、シャーリーと言葉が重なる。
『癒しの泉』といい、この食べ物といい、百点以外にありえない。
シャーリーも満足そうで本当に良かった。
となれば、最後にもう一つ。
「シャーリーも、モフらせてもらえば?」
「……! モフ……」
シャーリーはチラリとフェンリルさんを覗き見る。
この魔獣が強く恐れられる世界だ。
俺は前世のこともあり、すでに心を許しているけど、そう簡単に価値観は変えられない。
だけど、真っ直ぐなシャーリーの視線にフェンリルさんも応えた。
「……うずうず」
じっと撫でてもらうのも待っている様子だ。
そんな姿に、シャーリー徐々に手を近づけていく。
そして……モフッ。
「……!」
「クゥン」
ぴくんと跳ねたシャーリーの手。
俺がふと尋ねてみる。
「どう?」
「……き、気持ち良い」
手を触れてからの彼女は、それはもう早かった。
「気持ち良い~!」
「クォ~ン!」
モフモフモフモフ……。
初めての感覚がハマったのか、シャーリーはフェンリルさんのモフに一気に体をゆだねた。
これは──堕ちたな。
「すごい! 何これ! これがモフモフ!」
「ウォォ~ン」
そんな二人のやり取りは、しばらく続いた。
「こほん。では寝床を案内しよう」
あれからしばらく。
シャーリー(とついでに俺)がモフモフを堪能したところで、お話タイムとなっていた。
「特に作ってあるわけではないが、場所は広いからな。好きに使ってくれ」
「ありがとう」
寝床も無事見つかり、引き返す予定はなくなった。
サタエル王にはあらかじめそう伝えていたし、もし俺が帰ってこなくても、一切責任を負わせないための書類も残してきてある。
心配はかけるかもしれないが、ここは泊まらせてもらうとしよう。
それに、
「ふっふっふ……」
ようやく、俺の腕の見せ所でもあるしな。
「ふわあ……!」
深い茂みを抜け、ここまで乗せてもらったフェンリルさんの背中から降りる。
その瞬間、俺とシャーリーは思わずそんな声を上げてしまった。
「なんだこの場所ー!!」
茂みの中をくり抜いたような、大きな円形の広場。
フェンリルさんが整えたのかな。
「すっげえ綺麗……」
清流が溢れ出る泉。
秘密基地がありそうな洞窟。
木々は生えているが密集しておらず、足元は不思議と暖かい。
今までに見てきどんな場所より、美しい住処が広がっていた。
まさに『秘境』だ。
「ん?」
そして、中でも俺は泉に目を向けた。
泉からは水がゆるかなカーブを描いて吹き出す。
それと同時に、黄緑色のシャボン玉のようなものも舞い上がっていたんだ。
俺は感じ取ったことをそのまま口に出す。
「もしかして、魔力の塊が吹き出しているのか?」
「さすがだな」
「やっぱりか!」
フェンリルさんが泉に目を向け、答えるよう説明してくれた。
「普段は目の見えない形で空気中を浮遊する魔力。それが、密度が濃すぎるゆえに目に見える形になっておるのだ」
「すっげえ!」
この世界において、魔力は空気中に存在している。
だけど、小さい粒であるそれは普通見えることはない。
前世でいう『原子』みたいなものだね。
でも、今こうして泉が見えているのは、フェンリルさんが言った通り『密度が濃すぎる』ため。
前世で例えれば、酸素の塊が目に見えるみたいなものだ。
これは相当異常な現象だと言える。
魔力はあればあるほど良いので有害ではないけどね。
「文字通り、規格外ってか……」
そんな魔力が、黄緑や水色、目に優しい色を持って浮き上がる。
すごく幻想的な景色だった。
この光景に、俺はもちろん大興奮。
だけど、それ以上の反応を見せたのは……意外にもシャーリーの方。
「え、え……!? すごい、なにこれ!」
「シャーリー?」
その声に反応して方へ振り返る。
視線の先では、シャーリーがぺたぺたと自分の頬を触っていた。
「どうしたんだ?」
「す、すごいっ! すごいんだよエアル! 肌がつるっつるなの!」
「肌が?」
そんなことある?
疑問には思いながらも、俺も自分の肌の感触を確かめる。
すると……なんということでしょう。
「ええ! まじじゃん!」
頬だけでなく、腕から足、装備で隠れているはずの太ももや上半身なんかまで。
本当につるっつるだ!
まるでサロンに行った後みたいじゃないか!
「それはこの泉──『癒しの泉』の効果だな」
「泉の?」
「うむ。お主なら知っておろうが、生命はみな魔力を源に出来ておる。つまり、この濃厚な魔力の泉がお主らを潤しておるんだな。病気や怪我なんかもすぐに治るぞ』
フェンリルさんの言葉でようやく頭が追いつく。
理屈では分かるけど、こんなに魔力が集まる場所なんて行ったことがあるはずもないからな。
「驚きの連続だよ……」
とにもかくにも、この泉の効果は『美容』と『回復』。
それもほぼ一瞬でお肌はツルツル、ダメージも全回復だ。
「すごいね、エアル!」
「うん……!」
「すっげー!」
「すごい!」
今までは、フェンリルに怯えて若干無言気味だったシャーリー。
彼女もかなり嬉しそうな表情を見せる。
美容には気を使っていたし、この泉に関しては俺より興奮しているかもな。
「あ」
それから、ふと目に付いた気になる物がある。
「あれってもしかして、果物?」
少し遠くに見える、新鮮な実がなった木々。
かなりの実が成っている。
「うむ。この泉からの濃厚な魔力を存分に吸った果物でな。あれらが我の主食だ。他には野菜なんかもあるぞ」
「果物に野菜!?」
フェンリルさんのから「果物」とか「野菜」という単語が出てくるのも中々面白いが、あるものは仕方がないだろう。
俺はよだれを抑えながら尋ねてみる。
「……お、美味しいの?」
「ああ、自信を持って言える。食べてみるか?」
「ぜひ!」
そうしてフェンリルさんは、しゅばっとその場から消えた。
かと思えば、ほぼ一瞬で木を往復してきた。
「持ってきたぞ」
「「はっや~」」
それなりに距離はあるけど、往復に要したのは約二秒。
とんでもないスピードだ。
「我のことはよい。食べてみよ」
目の前に置かれたのは、なんとも瑞々しい果物と野菜。
見た目は若干違うが、果物はいちご、ぶどう、桃……と思わしき物々。
野菜はトマト、トウモロコシ、枝豆などだ。
どうやら今直接食べられそうな物を選んでくれたらしく、あちらには他にもいくつか種類がある。
「……っ」
ごくりと固唾の飲む。
そしていざ──がぶり!
「「……!」」
シャーリーも同じタイミングで大きく一口いってみたいだ。
次の瞬間には、俺たちは互いに顔を見合わせる。
そしてハモる。
「「うまー!」」
まさに絶品だった。
なにこれ、感動なんだけど!
グロウリアという大国でも、こんな美味しい物はなかったぞ!
それも素材のまんまで!
「どうなっているんだ……?」
「言ったであろう」
「正直ここまでとは思わなかったよ」
俺も日本出身ということもあり、食にはそれなりに気を使っていたつもりだ。
グロウリアの飯もかなり美味しいはずなんだけど、これはまさに“別格”。
もう同じ野菜や果物とは思えない。
ポテンシャルそのものが違う。
そう思う程に甘さや味を色濃く感じる。
そうして、
「お、お主たち……」
「?」
「この場所は気に入ってもらえたか?」
フェンリルが少し恥ずかしそうにしながら尋ねてきた。
答えはもちろん一つ。
「「うん!」」
合わせる間でもなく、シャーリーと言葉が重なる。
『癒しの泉』といい、この食べ物といい、百点以外にありえない。
シャーリーも満足そうで本当に良かった。
となれば、最後にもう一つ。
「シャーリーも、モフらせてもらえば?」
「……! モフ……」
シャーリーはチラリとフェンリルさんを覗き見る。
この魔獣が強く恐れられる世界だ。
俺は前世のこともあり、すでに心を許しているけど、そう簡単に価値観は変えられない。
だけど、真っ直ぐなシャーリーの視線にフェンリルさんも応えた。
「……うずうず」
じっと撫でてもらうのも待っている様子だ。
そんな姿に、シャーリー徐々に手を近づけていく。
そして……モフッ。
「……!」
「クゥン」
ぴくんと跳ねたシャーリーの手。
俺がふと尋ねてみる。
「どう?」
「……き、気持ち良い」
手を触れてからの彼女は、それはもう早かった。
「気持ち良い~!」
「クォ~ン!」
モフモフモフモフ……。
初めての感覚がハマったのか、シャーリーはフェンリルさんのモフに一気に体をゆだねた。
これは──堕ちたな。
「すごい! 何これ! これがモフモフ!」
「ウォォ~ン」
そんな二人のやり取りは、しばらく続いた。
「こほん。では寝床を案内しよう」
あれからしばらく。
シャーリー(とついでに俺)がモフモフを堪能したところで、お話タイムとなっていた。
「特に作ってあるわけではないが、場所は広いからな。好きに使ってくれ」
「ありがとう」
寝床も無事見つかり、引き返す予定はなくなった。
サタエル王にはあらかじめそう伝えていたし、もし俺が帰ってこなくても、一切責任を負わせないための書類も残してきてある。
心配はかけるかもしれないが、ここは泊まらせてもらうとしよう。
それに、
「ふっふっふ……」
ようやく、俺の腕の見せ所でもあるしな。