「どういうこと!?」
驚き声を上げた後も、すかさず聞き返す。
待て待て、意味が分からない。
なんだ「匂い」って。
これじゃまるで「驚きはしない」とか考えていたのがフリみたいじゃないか!
だが、どうやら困惑しているのはフェンリル同じらしい。
「かくいう我も驚いておるのだ。なにしろ……」
「わっ!」
「こんなにも良い匂いのする魔力は初めてなのだ」
フェンリルさんはすんっと鼻を鳴らしてから、確信を持って答えた。
なんだか照れるような恥ずかしいような感覚だな。
「とにかく、そういう理由でお主を追いかけて来たのだ」
「……なるほど」
やっと言えた、とすっきりした顔になるフェンリルさん。
おかげでこっちは混乱状態なんですけどね。
「ち、ちなみにどんな匂いなの?」
もはや自分での何の質問なのか分からない。
それでも、体臭が気になるのと同じでなんとなく聞いてしまう。
「そうだな……甘くて、うっとりしてしまうような香りだ」
「そ、そうですか」
「うむ」
それからフェンリルさんは目を細めながら語り出す。
「始めは感じた事のない魔力を探知しただけであった。だが、興味本位で近づくほどに、我の足が自然と加速してな」
「……」
「途中で魔力が一気に放出された時は、理性を失いかけて思わず全速力になってしまったのだ」
最後の方、たしかにフェンリルさんは俺の魔力探知をかいくぐるほどに速かった。
あれはそういうことだったのか。
「とにかく、お主には特別な魔力が備わっているのかもな」
「俺にそんな魔力が……」
嬉しいか嬉しくないかはさておき。
いきなり神獣と会って襲われなかったことには感謝すべきだろう。
「……っ」
今なおビリビリ伝わってくる存在感。
襲ってくる気配がないだけで、俺がどうにかできる魔獣じゃなさそうだしな。
ここは『甘い香りを放つ魔力』とやらに感謝しておこう。
「では、我からもよいだろうか」
「ああ、うん。どうぞ」
「お主たちはどうしてここに?」
「……!」
その質問には一瞬戸惑う。
けど、別に話して困る事もないか。
「実はね──」
「そんなことがあったのだな」
あれから少し。
森を奥へと進みながら、俺も追放された経緯について話していた。
どうやらフェンリルは「ニンゲン」に興味があるらしい。
なんでだろう。
「ニンゲンの上に立つものがそんな者たちだったとは」
「それについては別に良いんだ。俺も元からこの場所に興味があったからね」
「ほう。それは嬉しい限りだ」
「あ、そうだ」
そうして話し終えると同時に、俺はとある事を思い出す。
「これについて、何か知らないかな?」
「む?」
取り出したのは『森のけんじゃのたんけんきろく』。
この森に興味を持つきっかけとなった幻の本だ。
「……ふむ。『けんじゃ』か」
「そうなんだよ」
けどまあ、そんなに都合よく知ってるわけが──
「知っておるぞ」
「え!?」
だが、返ってきたのは意外な返事。
俺は思わずフェンリルさんに近づく。
「本当か!?」
「うむ。そのけんじゃとやらが、我がニンゲンに興味を持つ理由だからな」
「まじかよ!」
これはすごい情報だ!
やっぱりこの本に書かれたことは本当だったんだ!
ならばと思い、俺はワクワクしながら尋ねてみる。
「じゃあ『けんじゃ』にも会った事があるの!?」
「いや……ない」
「え?」
しかし、フェンリルさんは大きな首を横に振った。
「期待させてすまぬな。だが我はあくまで。かつて『けんじゃ』という者が森にいたこと、またその者がとてつもない者であったという話のみ」
「話……言い伝えみたいなものなのか」
「うむ。だからこれは古い話ということになるな」
フェンリルさん基準での古い話。
となれば、それこそ何百年の話ということになるだろう。
少し期待が先行してしまったのは確かだ。
それでも、本の信憑性が高くなっただけでも収穫と考えるべきだな。
「ありがとう。助かったよ」
「うむ。役に立てたのなら良かったぞ。……それで』
「ん?」
今度はまた、もじもじとし始めるフェンリルさん。
威厳があったりなかったり忙しい神獣だな。
「お主たちは、これからどうするのだ?」
「それは……」
チラリとシャーリーの顔をうかがう。
彼女がうなずいたのを確認して、俺は話した。
「できればこの森で暮らせないかなって考えてるんだ」
「そうであるか……」
「!」
その反応にピンとくるものがある。
分かったぞ。
こいつめ、さてはまだ俺に撫でられたいな?
「ふふっ」
神獣様はどんなに恐ろしいかと思えば、可愛い奴じゃないか。
そうと分かれば俺が誘導してみるか。
「だからなー。どこかに休めるとこを提供してくれる人がいれば、そいつをずっと撫でてやるのになー」
「……!」
ちょっと白々し過ぎたか?
……いや、そんなことはなかったらしい。
フェンリルさんは口を開いた。
「良ければなのだが……我の住処へ来るか?」
「いいのか!」
「う、うむ。他に行く場所がないのであろう?」
「そうなんだよね~」
よし、寝床確保!
それで良いのか神獣様?
とは思うが、ここはありがたく厚意を受け取っておこう。
「シャーリーは大丈夫?」
「大丈夫。ま、さすがエアルね」
未だに距離を取るシャーリーだけど、フェンリルさんが悪い魔獣でないことは分かったらしい。
最初に会えたのがフェンリルさんでめちゃくちゃ助かった。
「じゃあよろしく!」
「よかろう!」
そうして俺たちは、フェンリルの住処へ案内してもらうことになったのだった。
驚き声を上げた後も、すかさず聞き返す。
待て待て、意味が分からない。
なんだ「匂い」って。
これじゃまるで「驚きはしない」とか考えていたのがフリみたいじゃないか!
だが、どうやら困惑しているのはフェンリル同じらしい。
「かくいう我も驚いておるのだ。なにしろ……」
「わっ!」
「こんなにも良い匂いのする魔力は初めてなのだ」
フェンリルさんはすんっと鼻を鳴らしてから、確信を持って答えた。
なんだか照れるような恥ずかしいような感覚だな。
「とにかく、そういう理由でお主を追いかけて来たのだ」
「……なるほど」
やっと言えた、とすっきりした顔になるフェンリルさん。
おかげでこっちは混乱状態なんですけどね。
「ち、ちなみにどんな匂いなの?」
もはや自分での何の質問なのか分からない。
それでも、体臭が気になるのと同じでなんとなく聞いてしまう。
「そうだな……甘くて、うっとりしてしまうような香りだ」
「そ、そうですか」
「うむ」
それからフェンリルさんは目を細めながら語り出す。
「始めは感じた事のない魔力を探知しただけであった。だが、興味本位で近づくほどに、我の足が自然と加速してな」
「……」
「途中で魔力が一気に放出された時は、理性を失いかけて思わず全速力になってしまったのだ」
最後の方、たしかにフェンリルさんは俺の魔力探知をかいくぐるほどに速かった。
あれはそういうことだったのか。
「とにかく、お主には特別な魔力が備わっているのかもな」
「俺にそんな魔力が……」
嬉しいか嬉しくないかはさておき。
いきなり神獣と会って襲われなかったことには感謝すべきだろう。
「……っ」
今なおビリビリ伝わってくる存在感。
襲ってくる気配がないだけで、俺がどうにかできる魔獣じゃなさそうだしな。
ここは『甘い香りを放つ魔力』とやらに感謝しておこう。
「では、我からもよいだろうか」
「ああ、うん。どうぞ」
「お主たちはどうしてここに?」
「……!」
その質問には一瞬戸惑う。
けど、別に話して困る事もないか。
「実はね──」
「そんなことがあったのだな」
あれから少し。
森を奥へと進みながら、俺も追放された経緯について話していた。
どうやらフェンリルは「ニンゲン」に興味があるらしい。
なんでだろう。
「ニンゲンの上に立つものがそんな者たちだったとは」
「それについては別に良いんだ。俺も元からこの場所に興味があったからね」
「ほう。それは嬉しい限りだ」
「あ、そうだ」
そうして話し終えると同時に、俺はとある事を思い出す。
「これについて、何か知らないかな?」
「む?」
取り出したのは『森のけんじゃのたんけんきろく』。
この森に興味を持つきっかけとなった幻の本だ。
「……ふむ。『けんじゃ』か」
「そうなんだよ」
けどまあ、そんなに都合よく知ってるわけが──
「知っておるぞ」
「え!?」
だが、返ってきたのは意外な返事。
俺は思わずフェンリルさんに近づく。
「本当か!?」
「うむ。そのけんじゃとやらが、我がニンゲンに興味を持つ理由だからな」
「まじかよ!」
これはすごい情報だ!
やっぱりこの本に書かれたことは本当だったんだ!
ならばと思い、俺はワクワクしながら尋ねてみる。
「じゃあ『けんじゃ』にも会った事があるの!?」
「いや……ない」
「え?」
しかし、フェンリルさんは大きな首を横に振った。
「期待させてすまぬな。だが我はあくまで。かつて『けんじゃ』という者が森にいたこと、またその者がとてつもない者であったという話のみ」
「話……言い伝えみたいなものなのか」
「うむ。だからこれは古い話ということになるな」
フェンリルさん基準での古い話。
となれば、それこそ何百年の話ということになるだろう。
少し期待が先行してしまったのは確かだ。
それでも、本の信憑性が高くなっただけでも収穫と考えるべきだな。
「ありがとう。助かったよ」
「うむ。役に立てたのなら良かったぞ。……それで』
「ん?」
今度はまた、もじもじとし始めるフェンリルさん。
威厳があったりなかったり忙しい神獣だな。
「お主たちは、これからどうするのだ?」
「それは……」
チラリとシャーリーの顔をうかがう。
彼女がうなずいたのを確認して、俺は話した。
「できればこの森で暮らせないかなって考えてるんだ」
「そうであるか……」
「!」
その反応にピンとくるものがある。
分かったぞ。
こいつめ、さてはまだ俺に撫でられたいな?
「ふふっ」
神獣様はどんなに恐ろしいかと思えば、可愛い奴じゃないか。
そうと分かれば俺が誘導してみるか。
「だからなー。どこかに休めるとこを提供してくれる人がいれば、そいつをずっと撫でてやるのになー」
「……!」
ちょっと白々し過ぎたか?
……いや、そんなことはなかったらしい。
フェンリルさんは口を開いた。
「良ければなのだが……我の住処へ来るか?」
「いいのか!」
「う、うむ。他に行く場所がないのであろう?」
「そうなんだよね~」
よし、寝床確保!
それで良いのか神獣様?
とは思うが、ここはありがたく厚意を受け取っておこう。
「シャーリーは大丈夫?」
「大丈夫。ま、さすがエアルね」
未だに距離を取るシャーリーだけど、フェンリルさんが悪い魔獣でないことは分かったらしい。
最初に会えたのがフェンリルさんでめちゃくちゃ助かった。
「じゃあよろしく!」
「よかろう!」
そうして俺たちは、フェンリルの住処へ案内してもらうことになったのだった。