「シャーリー、大丈夫だよ」
俺がシャーリーに声をかけると、彼女は恐る恐る目を開く。
「……え?」
そして思わず言葉を漏らす。
そんな反応になるのも仕方ないだろうな。
なんたって、
「ははっ、なんだよこいつ~」
「クォ~ン」
目の前で俺と、伝説の神獣フェンリルが戯れてるのだから。
正確には、フェンリルは俺の顔や体をペロペロ、俺はフェンリルの腹辺りをさすさすしている。
でも……うん。
「ちょ、ちょっと離れてね」
「クォ~ン」
俺はぐいぐいとフェンリルを引きはがす。
体内からミシミシっと音が聞こえた気がしたからだ。
「……ぐっ」
『強化魔法』を最大限にかけていなかったら、今頃全身の骨が粉々だったかな。
それからしばらく。
「このこの~」
「クォンッ!」
俺とフェンリルがじゃれ合い、
「……」
それを距離が空いた場所から見守るシャーリー。
怖いのも無理はないよな。
なんたってフェンリルは『神獣』。
魔獣の中でも最上級として称される伝説上の生き物なんだ。
でも、そんなフェンリルが……
「我をもっと撫でるのだ」
「ははっ。見た目の割に甘えん坊だなあ」
まさかこんな甘えん坊だとは誰も思わないだろう。
しかも人語を話せるらしい。
「ニンゲンは久しぶりなのだ!」
「そうかそうか!」
フェンリルが現れたタイミング。
あの時、『……ゲン』と何かをボソボソつぶやいていたことに気づいた。
その言葉は『ニンゲン』だったんだ。
「君は最初から戦う気もなかったんだよね」
「うむ」
それに、感じる魔力の流れから、襲う気が無いのも序盤で気づいた。
シャーリーの心臓には悪かったかもしれないが、俺は確信を持って近づいたのだ。
「クゥ~ン」
フェンリルがすーっと下ろしてきた頭部分を、俺も楽しみながら撫でてやる。
「ああ……モフモフ」
やばい、癖になりそう。
そういえば俺も、前世では猫ちゃんや犬ちゃんをモフモフしていたなあ。
実に懐かしい感覚だ。
故郷のグロウリアには、家畜用の魔物しかいなかった。
つまり『ペット』や『愛玩動物』という概念は存在しなかったんだ。
そんな俺は、前世ぶりにモフモフと出会い、癒されていた。
「あ~、モフモフモフ~」
すっかり恐怖心が消えていた俺は、フェンリルの体の上で寝転がり、目一杯それを堪能する。
だが、それをじーっと見ていたシャーリー。
「も、もふもふ……?」
癖になりそうなその言葉を繰り返しながら、首を傾げる。
ペットの概念がないので、当然「モフモフ」の概念も存在しないからね。
「そうだよ、モフモフ」
「も、もふもふ……」
あまりにも目につかないので思い出すことがなかったが、本来モフモフは至高、人生の癒しなのだ。
長らく忘れていたよ。
「よし」
とりあえず堪能するのはここまで。
いつまでもこうしていたいが、聞きたいことも山ほどある。
後でまたモフらせていただくとして、今状況確認から。
俺はフェンリルさんに再度向き合った。
「ねえ、君はどこから来たの?」
「我はここよりさらに奥へ行った先に住処がある」
なるほど、やはりこの魔の大森林に棲んでいるのか。
「ふーん。じゃあ名前は?」
「そんなものはない。我はフェンリルには変わりないからな』
「……そっか」
神獣はそう何匹もいるものじゃない。
だから付ける必要がないと。
「どうして俺のところに? 結構遠くから一直線に来ていたよね」
「ほう。我をそんな遠くから探知していたのか。ニンゲンにもそんなことが出来る者がいるとはな」
「そ、そりゃどうも」
いきなりのお褒めの言葉に少々照れる。
だが、質問に答えてもらっていない。
「俺を探して来たんだよね? やっぱり、異物だと思ったから?」
「……それなのだが」
「?」
しかし、答えてもらうよう促すと、急に歯切れが悪くなったフェンリルさん。
何か言いにくいことでもあるのかな。
「ねえねえ」
「……」
でも、俺もタダでは食い下がらないぞ。
サバイバルにおいて一番重要なのは『情報』だ。
俺もシャーリーの命を預かっているんだからな。
「ふーん。じゃあ仕方ない」
「エアル?」
ここまでくれば俺も手段は択ばない。
両手を横に広げて、俺は演技を開始した。
「そっかー、そうだよな〜。所詮、俺たちは出会ったばかり」
「?」
「これ以上撫でるのも迷惑そうだし、もう出来ないな~」
「なっ!? そんなことは!」
お、食いついた。
だけどもう一押し。
「ないって言うの? 俺の所に来た理由も教えられない関係だって言うのに?」
「ぐっ、それは……」
どうやらフェンリルは、揺らいでいるようだ。
よしよし、これならあと一息だ。
「はあ」
何やってのんよ、という顔でシャーリーがこちらを見るが、もう少し待ってろって。
俺がなんとしても聞き出してやるから。
そうして根負けしたのか、フェンリルが口を開く。
「ぐっ……分かった」
「お!」
「では話すとしよう……」
相変わらず歯切れは悪いけど、なんとか話す気になったみたい。
俺は相づちを打ちながら耳を傾ける。
「実は、お主の魔力が少々特別のようなのだ」
「え、魔力が?」
そんなことを言われたのは初めてだ。
けどまあ、何を言われてもおそらく驚きはしない。
魔力や魔法についてはたくさん学んだつもりだ。
「うむ。お主の魔力が──」
「うんうん」
だが伝えられたのは、予想の斜め上の答え。
「我をあまりにも魅了する匂いを放っておるのだー!」
「「……」」
その言葉に、ふとシャーリーと顔を見合わせる。
聞いた言葉を頭で整理する時間だ。
そして、次に声を上げたのは全く同じタイミング。
「「えええええーーー!?」」
俺がシャーリーに声をかけると、彼女は恐る恐る目を開く。
「……え?」
そして思わず言葉を漏らす。
そんな反応になるのも仕方ないだろうな。
なんたって、
「ははっ、なんだよこいつ~」
「クォ~ン」
目の前で俺と、伝説の神獣フェンリルが戯れてるのだから。
正確には、フェンリルは俺の顔や体をペロペロ、俺はフェンリルの腹辺りをさすさすしている。
でも……うん。
「ちょ、ちょっと離れてね」
「クォ~ン」
俺はぐいぐいとフェンリルを引きはがす。
体内からミシミシっと音が聞こえた気がしたからだ。
「……ぐっ」
『強化魔法』を最大限にかけていなかったら、今頃全身の骨が粉々だったかな。
それからしばらく。
「このこの~」
「クォンッ!」
俺とフェンリルがじゃれ合い、
「……」
それを距離が空いた場所から見守るシャーリー。
怖いのも無理はないよな。
なんたってフェンリルは『神獣』。
魔獣の中でも最上級として称される伝説上の生き物なんだ。
でも、そんなフェンリルが……
「我をもっと撫でるのだ」
「ははっ。見た目の割に甘えん坊だなあ」
まさかこんな甘えん坊だとは誰も思わないだろう。
しかも人語を話せるらしい。
「ニンゲンは久しぶりなのだ!」
「そうかそうか!」
フェンリルが現れたタイミング。
あの時、『……ゲン』と何かをボソボソつぶやいていたことに気づいた。
その言葉は『ニンゲン』だったんだ。
「君は最初から戦う気もなかったんだよね」
「うむ」
それに、感じる魔力の流れから、襲う気が無いのも序盤で気づいた。
シャーリーの心臓には悪かったかもしれないが、俺は確信を持って近づいたのだ。
「クゥ~ン」
フェンリルがすーっと下ろしてきた頭部分を、俺も楽しみながら撫でてやる。
「ああ……モフモフ」
やばい、癖になりそう。
そういえば俺も、前世では猫ちゃんや犬ちゃんをモフモフしていたなあ。
実に懐かしい感覚だ。
故郷のグロウリアには、家畜用の魔物しかいなかった。
つまり『ペット』や『愛玩動物』という概念は存在しなかったんだ。
そんな俺は、前世ぶりにモフモフと出会い、癒されていた。
「あ~、モフモフモフ~」
すっかり恐怖心が消えていた俺は、フェンリルの体の上で寝転がり、目一杯それを堪能する。
だが、それをじーっと見ていたシャーリー。
「も、もふもふ……?」
癖になりそうなその言葉を繰り返しながら、首を傾げる。
ペットの概念がないので、当然「モフモフ」の概念も存在しないからね。
「そうだよ、モフモフ」
「も、もふもふ……」
あまりにも目につかないので思い出すことがなかったが、本来モフモフは至高、人生の癒しなのだ。
長らく忘れていたよ。
「よし」
とりあえず堪能するのはここまで。
いつまでもこうしていたいが、聞きたいことも山ほどある。
後でまたモフらせていただくとして、今状況確認から。
俺はフェンリルさんに再度向き合った。
「ねえ、君はどこから来たの?」
「我はここよりさらに奥へ行った先に住処がある」
なるほど、やはりこの魔の大森林に棲んでいるのか。
「ふーん。じゃあ名前は?」
「そんなものはない。我はフェンリルには変わりないからな』
「……そっか」
神獣はそう何匹もいるものじゃない。
だから付ける必要がないと。
「どうして俺のところに? 結構遠くから一直線に来ていたよね」
「ほう。我をそんな遠くから探知していたのか。ニンゲンにもそんなことが出来る者がいるとはな」
「そ、そりゃどうも」
いきなりのお褒めの言葉に少々照れる。
だが、質問に答えてもらっていない。
「俺を探して来たんだよね? やっぱり、異物だと思ったから?」
「……それなのだが」
「?」
しかし、答えてもらうよう促すと、急に歯切れが悪くなったフェンリルさん。
何か言いにくいことでもあるのかな。
「ねえねえ」
「……」
でも、俺もタダでは食い下がらないぞ。
サバイバルにおいて一番重要なのは『情報』だ。
俺もシャーリーの命を預かっているんだからな。
「ふーん。じゃあ仕方ない」
「エアル?」
ここまでくれば俺も手段は択ばない。
両手を横に広げて、俺は演技を開始した。
「そっかー、そうだよな〜。所詮、俺たちは出会ったばかり」
「?」
「これ以上撫でるのも迷惑そうだし、もう出来ないな~」
「なっ!? そんなことは!」
お、食いついた。
だけどもう一押し。
「ないって言うの? 俺の所に来た理由も教えられない関係だって言うのに?」
「ぐっ、それは……」
どうやらフェンリルは、揺らいでいるようだ。
よしよし、これならあと一息だ。
「はあ」
何やってのんよ、という顔でシャーリーがこちらを見るが、もう少し待ってろって。
俺がなんとしても聞き出してやるから。
そうして根負けしたのか、フェンリルが口を開く。
「ぐっ……分かった」
「お!」
「では話すとしよう……」
相変わらず歯切れは悪いけど、なんとか話す気になったみたい。
俺は相づちを打ちながら耳を傾ける。
「実は、お主の魔力が少々特別のようなのだ」
「え、魔力が?」
そんなことを言われたのは初めてだ。
けどまあ、何を言われてもおそらく驚きはしない。
魔力や魔法についてはたくさん学んだつもりだ。
「うむ。お主の魔力が──」
「うんうん」
だが伝えられたのは、予想の斜め上の答え。
「我をあまりにも魅了する匂いを放っておるのだー!」
「「……」」
その言葉に、ふとシャーリーと顔を見合わせる。
聞いた言葉を頭で整理する時間だ。
そして、次に声を上げたのは全く同じタイミング。
「「えええええーーー!?」」