『方法ならありますよ』

 ふと声が聞こえて、足元に目を向ける。
 そこにいたのは、なんとリスのモグりんだった。

 その姿に、俺とドラノアは同時に口を開く。

「一体どうやってここに──」
『アンタこの前はよくも──』

 だけど、モグりんは丸くて小さな指を口元で立てる。

『しいー。今はそんな場合ではないと思います』
「……っ」

 たしかにその通りだけど、相変わらずちょっと賢いんだよね。
 というか今の口ぶり、ドラノアも知り合いなのか?
 急に現れては急に消え、顔も広い本当に不思議なリスちゃんだ。

 そうして落ち着いたところで、モグりんは再び口にした。

『もう一度言います。エアルさん、コノハ姫を助ける手段はあります』
「本当か!」
『はい。ですが、おそらくあなたにしか出来ないでしょう』
「どういうことだ?」

 だが俺の問いには答えず、モグりんはコノハの方を向く。

『化け狐族の姫様。エアルさん達を、ダンジョンへ案内出来ますか?』
「……!」

 その言葉に俺は思わず目を見開く。

 ──ダンジョン。
 それは、まさに俺達がここへ来た理由。
 スフィルからペンダントの話を聞き、すごい物が眠っているんじゃないかと予想していたんだ。

 しかしコノハは、了承を渋っているように見える。

「案内は出来ますが、あの場所は……」
『エアルさんなら開けられる(・・・・・)かもしれません」
「……! そういうことでしたら、わかりました」

 だけど、モグりんに説得されたコノハ。
 俺の治療も効いたのか、すっかり元気な様子でベッドから出てきた。
 それからモグりんは、ちょいちょいと指で付いて来るよう合図をしてくる。

『エアルさん、姫様を助ける手段はダンジョンにあります。付いて来てくれますか?』
「もちろん」

 元々探し求めてきたダンジョン。
 コノハを助けるのにも必要とあらば、行くしかないだろう。




 コノハの屋敷よりさらに奥へ進んだ先。
 里からは少し離れ、家も見えなくなってくる中、俺たちは異様な(・・・)道を進む。

「……」

 石造りの道に、両サイドには進む者を囲うよう建てられた朱色(しゅいろ)の鳥居。
 その数は多く、()()ほどあるかもしれない。

 ますます“和”を思わせる道を進んでいく中で、話題はフェンリルのものになる。

「本当に伝承にあるフェンリル様に会えるとは。一生の光栄でございます」
「そういえばコノハ達は、どうしてフェンリルを崇拝しているんだ?」
「里に伝わる文献、この里が作られたとされる時の本に、フェンリル様の事が載っているのです」

 コノハは思い出すようにしながら、書の一文を声に出した。

(いわ)く『フェンリルは至高。崇拝すべき神獣。そしてモフモフ』と」
「モフモフ!?」

 だけど、俺は声を上げて反応してしまう。

 だって、モフモフ(それ)は前世由来の言葉だぞ。
 偶然にそれっぽい擬音(ぎおん)が重なって……とはさすがに考えにくい。
 
「その文献より、私達はずっとフェンリル様を崇拝しておりました。ですが、『モフモフ』という単語の意味だけはずっと分からず、里でも解釈が別れているのです」
「そ、そうですか……」

 一応態度は取り繕うも、俺は自覚するほど動揺していた。

 この里で見た、露骨(ろこつ)なまでの前世との繋がり。
 さらには、そのどれも「和」を想起させるようなものばかり。

 もしかして俺は今、何かとてつもないものに足を踏み入れているのではないか。
 そんな思考がずっと頭の中でぐるぐるしている。

 そんな中──

「皆様、着きました。あれがダンジョンです」
「……!」

 さらに驚愕(きょうがく)すべきものが目に入ってくる

 ずっと続いていた朱色の鳥居を抜けた先に建つ、一際大きな鳥居。
 そしてその奥には、それとしか思えない建造物が建てられていた。

 俺は自然に言葉がこぼれてしまう。
 
「あれは……神社?」