「とうちゃーく!」
エルフの里を出発してから、実に一週間ちょっと。
俺たちは、ようやく化け狐族の里の痕跡を見つけ、それを辿る事で近くまでやってきた。
「それにしても長かったなあ」
時間がかかった理由としては、里の痕跡が見つからなかったのも。
けどそれと同じぐらいに……
「エアル見てこれ! すっごく綺麗な花!」
「また変なもん取ってきやがって」
「我も見つけたぞ!」
「お前もかい!」
同行者がまあ元気なこと。
それに一週間とは言っても、別にワイルドな生活をしていたわけではない。
簡単な寝床のコテージなら俺がすぐに作れるし、収納魔法内には食料も存分に入れてきた。
料理は言わずもがな、素晴らしいシェフが二人もついているので困る事は無い。
言ってしまえば道中を楽しみ過ぎた。
けどまあ、こうして無事目標には辿り着けたのでよしとする。
街づくりも特に期限があるわけではないしな。
久しぶりの冒険だ。
のんびりするのも悪くない。
だけど、ここからは違う。
「みんな、そろそろ気合を入れよう」
「「「……!」」」
俺は少し真剣な表情で口を開く。
「この辺からは魔力の質が違う」
「ええ、そうね」
それにはドラノアも同意。
彼女も俺と同等の魔力探知を持っているから感じるのだろう。
「国境線の代わりってか」
ここを一歩超えるのと超えないのでは、明確に魔力の込められ方が違う。
整備されているみたいだ。
まるで「この先は我々の領地だ」と言わんばかりに。
──と考察していたのも束の間、
「……ッ!」
唐突に、俺の足元に一本の矢が刺さる。
直接俺たちを目掛けたわけではないようで、領地の線上にぴったりと刺さっている。
それ以上近づけさせないための警告の様な矢だ。
「止まれ!」
続けて、前方の高い木々の上の方から声がする。
見上げた先には──
「人間?」
弓矢をこちらに向けながら、俺たちを警戒する人間のような者が二名。
「……いや」
かと思ったが、微妙に違う点がいくつか見受けられる。
頭の上部についている猫耳。
後方から見え隠れする尻尾。
狐っぽい特徴と言われれば納得できる。
間違いない。
俺はその名を叫んだ。
「化け狐族……!」
「ほう」
「俺たちを知っているか」
二人の男が答えた。
やはりそうらしい。
そして、その顔はテトラさんの言っていた通りだ。
「イケメンかよ!」
今世の俺も、かなりイケメンに生まれ変わったものだと歓喜したものだ。
だが、それを優々と超えてきやがった。
それはまさに、女性向けのソシャゲとかに出るレベルのイケメン達。
近寄ったら甘い声で誘惑されそうだ。
「格好も中々……」
成人式のようなド派手さとはいかなくとも、街にいたら目立つ綺麗な和服のようなもの。
その姿は大変映えている。
それも加味して──悔しいが、めちゃくちゃかっこいい。
だが、そんな考察も他所に化け狐族の男は声を上げた。
「貴様、どういうつもりだ!」
「急に訪問してすみません! ですが、決して争いをしにきたわけではないんです!」
「黙れ!」
「うぐっ」
それでも、男は弓を引いたまま。
相当にお怒りのようだ。
「そんなことをして、許されると思っているのか!」
「そんなこと? ──ッ!」
何の話かは分からないが、男はついに弓矢を放つ。
危険を察知した俺は、シャーリーを抱えてすぐさま後方に下がった。
「……」
今のは境界線ではなく、間違いなく俺を狙っていた。
地面に刺さった矢には魔法も付与されている。
当たったらまずそうだ。
「あいつら、己の立場を分かっていないようね」
この事態に、ドラノアも少々お怒りらしい。
「やめろドラノア。ここで手を出すと交渉が決裂してしまう」
「じゃあどうしろって」
でも、ここは止めさせてもらう。
「こういう時は、俺たちに戦闘の意思がないことを伝えるしかない」
「でも!」
「とにかくダメだ」
そうでもしないと、せっかく辿り着いたこの場所へは二度と入れなくなる。
俺もまさか、化け狐族がここまで好戦的とは思わなかったけどな。
「放て!」
「「「……!」」」
そんな俺たちに、容赦なく追撃してくる化け狐族。
あちらは完全に迎撃態勢らしい。
俺はドラノアに目を配らせつつ、他に指示を出す。
「スフィルは一歩後退! フクマロはシャーリーを頼む!」
「分かりました!」
「承知!」
スフィルを下がらせ、シャーリーは一旦フクマロに預ける。
もし何かあった時、一番速くここを抜け出せるのはフクマロだからだ。
「放て!」
「甘い!」
「──ヴオオ!」
向かってくる弓矢は、俺の『風魔法』やドラノアの火の咆哮でうまくいなす。
俺たちは反撃をしないが、弓矢は止まる様子が無い。
「あいつら……」
「まだだ。抑えるんだドラノア」
だが、この攻防で一つ気づいた事がある。
こいつら、時々弓矢を放ちずらそうにしていないか?
それを証明するよう化け狐族は声を上げた。
「くそっ! 貴様ら卑怯だぞ!」
「卑怯?」
「そうだろう!」
次の発言はなんとも驚くべきものだった。
「神獣フェンリル様を盾にしやがって!」
「え」
今、フクマロのことを様付けしなかったか。
また、それに続いて他の化け狐族も叫び出した。
「ちくしょう!」
「フェンリル様、今お助けします!」
あれ、いよいよ話が分からなくなってきた。
俺はフクマロの顔を覗いてみる。
「なあフクマロ、もしかして知り合いか?」
「いや、まったくそのような記憶はないが……」
そうだよなあ、フクマロから化け狐族の話なんて聞いたことないし。
おかしいなあ。
けどまあ、ここはありがたくこの状況を利用させてもらうか。
「フクマロ、ひとこと言ってやってくれ」
「うむ」
フクマロが俺たちの前に出ることで、化け狐族は攻撃の手を止める。
そうして、一息ついたフクマロが宣言した。
「この者たちは敵ではない! どうか矛を収めよ!」
「「「へ?」」」
半信半疑だったが、フクマロが一言を放った瞬間、嘘のようにぴたっと矢の嵐が止む。
……まじで止むのかよ。
エルフの里を出発してから、実に一週間ちょっと。
俺たちは、ようやく化け狐族の里の痕跡を見つけ、それを辿る事で近くまでやってきた。
「それにしても長かったなあ」
時間がかかった理由としては、里の痕跡が見つからなかったのも。
けどそれと同じぐらいに……
「エアル見てこれ! すっごく綺麗な花!」
「また変なもん取ってきやがって」
「我も見つけたぞ!」
「お前もかい!」
同行者がまあ元気なこと。
それに一週間とは言っても、別にワイルドな生活をしていたわけではない。
簡単な寝床のコテージなら俺がすぐに作れるし、収納魔法内には食料も存分に入れてきた。
料理は言わずもがな、素晴らしいシェフが二人もついているので困る事は無い。
言ってしまえば道中を楽しみ過ぎた。
けどまあ、こうして無事目標には辿り着けたのでよしとする。
街づくりも特に期限があるわけではないしな。
久しぶりの冒険だ。
のんびりするのも悪くない。
だけど、ここからは違う。
「みんな、そろそろ気合を入れよう」
「「「……!」」」
俺は少し真剣な表情で口を開く。
「この辺からは魔力の質が違う」
「ええ、そうね」
それにはドラノアも同意。
彼女も俺と同等の魔力探知を持っているから感じるのだろう。
「国境線の代わりってか」
ここを一歩超えるのと超えないのでは、明確に魔力の込められ方が違う。
整備されているみたいだ。
まるで「この先は我々の領地だ」と言わんばかりに。
──と考察していたのも束の間、
「……ッ!」
唐突に、俺の足元に一本の矢が刺さる。
直接俺たちを目掛けたわけではないようで、領地の線上にぴったりと刺さっている。
それ以上近づけさせないための警告の様な矢だ。
「止まれ!」
続けて、前方の高い木々の上の方から声がする。
見上げた先には──
「人間?」
弓矢をこちらに向けながら、俺たちを警戒する人間のような者が二名。
「……いや」
かと思ったが、微妙に違う点がいくつか見受けられる。
頭の上部についている猫耳。
後方から見え隠れする尻尾。
狐っぽい特徴と言われれば納得できる。
間違いない。
俺はその名を叫んだ。
「化け狐族……!」
「ほう」
「俺たちを知っているか」
二人の男が答えた。
やはりそうらしい。
そして、その顔はテトラさんの言っていた通りだ。
「イケメンかよ!」
今世の俺も、かなりイケメンに生まれ変わったものだと歓喜したものだ。
だが、それを優々と超えてきやがった。
それはまさに、女性向けのソシャゲとかに出るレベルのイケメン達。
近寄ったら甘い声で誘惑されそうだ。
「格好も中々……」
成人式のようなド派手さとはいかなくとも、街にいたら目立つ綺麗な和服のようなもの。
その姿は大変映えている。
それも加味して──悔しいが、めちゃくちゃかっこいい。
だが、そんな考察も他所に化け狐族の男は声を上げた。
「貴様、どういうつもりだ!」
「急に訪問してすみません! ですが、決して争いをしにきたわけではないんです!」
「黙れ!」
「うぐっ」
それでも、男は弓を引いたまま。
相当にお怒りのようだ。
「そんなことをして、許されると思っているのか!」
「そんなこと? ──ッ!」
何の話かは分からないが、男はついに弓矢を放つ。
危険を察知した俺は、シャーリーを抱えてすぐさま後方に下がった。
「……」
今のは境界線ではなく、間違いなく俺を狙っていた。
地面に刺さった矢には魔法も付与されている。
当たったらまずそうだ。
「あいつら、己の立場を分かっていないようね」
この事態に、ドラノアも少々お怒りらしい。
「やめろドラノア。ここで手を出すと交渉が決裂してしまう」
「じゃあどうしろって」
でも、ここは止めさせてもらう。
「こういう時は、俺たちに戦闘の意思がないことを伝えるしかない」
「でも!」
「とにかくダメだ」
そうでもしないと、せっかく辿り着いたこの場所へは二度と入れなくなる。
俺もまさか、化け狐族がここまで好戦的とは思わなかったけどな。
「放て!」
「「「……!」」」
そんな俺たちに、容赦なく追撃してくる化け狐族。
あちらは完全に迎撃態勢らしい。
俺はドラノアに目を配らせつつ、他に指示を出す。
「スフィルは一歩後退! フクマロはシャーリーを頼む!」
「分かりました!」
「承知!」
スフィルを下がらせ、シャーリーは一旦フクマロに預ける。
もし何かあった時、一番速くここを抜け出せるのはフクマロだからだ。
「放て!」
「甘い!」
「──ヴオオ!」
向かってくる弓矢は、俺の『風魔法』やドラノアの火の咆哮でうまくいなす。
俺たちは反撃をしないが、弓矢は止まる様子が無い。
「あいつら……」
「まだだ。抑えるんだドラノア」
だが、この攻防で一つ気づいた事がある。
こいつら、時々弓矢を放ちずらそうにしていないか?
それを証明するよう化け狐族は声を上げた。
「くそっ! 貴様ら卑怯だぞ!」
「卑怯?」
「そうだろう!」
次の発言はなんとも驚くべきものだった。
「神獣フェンリル様を盾にしやがって!」
「え」
今、フクマロのことを様付けしなかったか。
また、それに続いて他の化け狐族も叫び出した。
「ちくしょう!」
「フェンリル様、今お助けします!」
あれ、いよいよ話が分からなくなってきた。
俺はフクマロの顔を覗いてみる。
「なあフクマロ、もしかして知り合いか?」
「いや、まったくそのような記憶はないが……」
そうだよなあ、フクマロから化け狐族の話なんて聞いたことないし。
おかしいなあ。
けどまあ、ここはありがたくこの状況を利用させてもらうか。
「フクマロ、ひとこと言ってやってくれ」
「うむ」
フクマロが俺たちの前に出ることで、化け狐族は攻撃の手を止める。
そうして、一息ついたフクマロが宣言した。
「この者たちは敵ではない! どうか矛を収めよ!」
「「「へ?」」」
半信半疑だったが、フクマロが一言を放った瞬間、嘘のようにぴたっと矢の嵐が止む。
……まじで止むのかよ。