ドラノアの提案から、俺たちはダークエルフのテトラさんに話を聞くことにした。
理由は、彼女が長年森を飛び回っていたらしいからだそう。
ドラノアは眠っている間にテトラさんと話していたらしい。
だからこそ知っているのだろう。
そして、今はその出発段階。
そこで必要な工程が一つ。
「……」
静かに座っているスフィルさん。
祈るようなポーズをしながら、背後には黄緑色のオーラが包む。
精霊さんの力を使役しているんだね。
精霊とは会話は出来ないと言っていた彼女だが、それは精霊側からスフィルへ言葉を受ける手段がないだけだ。
つまり、スフィルから一方通行で言葉を伝えることはできる。
「はい、もう大丈夫です。これで、これからエルフの里に伺うよう里側に伝わったはずです」
「了解」
開放的なエルフの里だが防衛手段はいくつか存在している。
その一つがこれだ。
外からエルフの里へ入るときは、事前に精霊伝てに知らせておくのだそうだ。
最近となっては、果たして森に怖い種族がいるのかは怪しい。
それでもやはり、里で安心して暮らすには必要なことなのだろう。
とにもかくにも、これで準備は整った。
「じゃあテトラさんに話を聞きに行こうか」
俺はドラノアとの一件以来、エルフの里を訪ねることにする。
「おほー! すっげえー!!」
いつもの移動手段はフクマロだったが、今回は別。
なんとドラノアがドラゴン形態となり、高い木々の上から里へ向かっている。
「気持ちいい〜!!」
「そうでしょう!」
ドラゴン形態のドラノアが嬉しそうに答える。
まさか彼女と一緒に住むことで、こんな快適な旅ができるとは思ってもいなかった。
「これが、森なんだ……」
見渡す限り、どこまでも永遠に続く高い木々。
だけどこれは本当の姿じゃない。
精霊の働きによって、幻影が見えているだけなんだ。
真の姿がどうなっているかは、ある程度近づかないと判明しない。
それこそエルフの里の『神秘の樹』、はたまた、さらにすごいものが存在するかもしれない。
考えれば考えるほどに、人智を超えた不思議な大地だ。
「いつか森の神秘も全て解けるのかな」
「さあ。でも、エアルならやっちゃいそうだわ」
「そうかな」
シャーリーがふふっと笑いながら答えた。
最高の景色に加えて、そんな謎にも心を踊らせながら、快適な空の旅を満喫した俺たち。
エルフの里へはあっという間に到着したのだった。
「いらっしゃい、エアルちゃんたち」
里長のエルフィオさんの家につくなり、俺たちは歓迎される。
話もすでに伝わっていたのか、テトラさんもすでに待機していた。
「ドラノア様……! それでうちのところに!?」
「ええ、そうよ。というか、あたしには畏まった言葉もいらないわ! あたしたち友達でしょ?」
「はい……あ、うんっ!」
ドラノアの言葉に、テトラさんは嬉しそうな表情を浮かべる。
まだ憧れ感は捨てきれていないようだけどね。
「そういうことでよろしくね、テトラ!」
「う、うん!」
テトラさんについて、最初はクールキャラなのかななんて思った。
けど、案外妹キャラというか、まあエルフィオさんにもぞっこんみたいだからな。
可愛い系のキャラなのかもしれない。
そうして、俺たちは早速本題に入る。
「それで、これを見て何か分かることとか、話を聞いたりしたことってある?」
「そうね……」
テトラさんは、スフィルのペンダントをじっくりと眺める。
やがて彼女は視線を俺たちに戻した。
「正直、エアルっちみたいに分かることは少ない」
エアルっち!?
めちゃくちゃツッコミたい呼び名だが、ここは一旦話を聞こう。
「けどこれは、『ダンジョン』の物じゃないかなと思う」
「ダンジョン!?」
それってよく言う、未知の発掘物が取れるとかいう迷宮のことか?
「多分だけどね。だって、これはエアルっちでも造れないんでしょ?」
「ああ、そうなんだ」
「そんな凄い物があるとすれば、まずダンジョンで間違いないと思う」
テトラさんは、確信まではいかなくとも、どこか根拠を持って話しているよう。
「うちはドラノアの世話をしているのは悟られたくなかったし、なるべく誰とも話さないようにしてた。けどその分、コソコソ情報収集することだけは怠らなかったの」
「ふむふむ」
「そんな中で思い当たるのは、やはりダンジョンね」
「なるほど
テトラさんの話は信用できる。
眠っているドラノアを一人で支えていたわけだしな。
ここは信頼してさらに教えてもらおう。
「じゃあその、ダンジョンというのはどこに?」
「そうね。ここからだと──」
テトラさんの説明は大変わかりやすいものだった。
俺たちの住処を中心とすると、北は森の外。
トリシェラ国をはじめとする人間界だ。
南がここエルフの里で、東には主のいた湖がある。
そして、今回の話題のダンジョンは西。
それも住処から湖までの距離よりも長く、ずっと行った先にあるという。
ただ、テトラさんも正確な位置までは分からないとのこと。
あくまで話に聞いた程度みたいだ。
「あとはたしか、里があるって話ね」
「里……!」
「ええ。でも種族はなんだっけなー、化けるとか化けないとか、そんな感じだった気がするけど……」
テトラさんは記憶をふり絞るように「うーん?」と頭を悩ます。
そんな彼女に、ドラノアが口を挟む。
「化け狐族のことかしら」
「そう! それですっ!」
テトラさんが目を見開いて大きくうなずく。
どうやら正解だったらしい。
「よく知ってたな」
「名前だけよ」
「それで、その化け狐族っていうのは?」
ドラノアはドヤ顔のまま続ける。
「名前の通り、化ける狐の種族よ。確か、あたしみたいに人間の姿に化けるの!」
「へえ……」
ドラノアも何故か人型に化ける事が出来るし、化け狐族もか。
これは偶然なのか?
けどまあ、とりあえず情報は手に入った。
「ありがとうテトラさん。本当に助かったよ」
「うちで良ければいつでも頼ってよ。ちょっとここでやることがあるから、今回は行けないけど」
「いやいや、全然。じゃあまた、すぐにでも顔を出すよ」
方角さえ分かれば、俺とドラノアの魔力探知でどうにもでもなるだろしな。
そうして、俺たちは早速立ち上がる。
みんながお礼をする中、ドラノアはとびきりの笑顔。
「ありがとうね! テトラ!」
「うんっ! またねドラノア!」
二人も良い関係になれて良かった。
心の底からそう思う。
「じゃあ行くわよ!」
そして、またドラノアがドラゴン形態へと変身する。
すぐに飛び乗った俺たちを確認して、ドラノアが勢いよく飛び立つ。
そんな中、後方から再びテトラさんの叫ぶ声が聞こえてきた。
「もう一つ特徴を思い出したわー!」
「なにー!」
「化け狐族が化けた人は、美男美女って噂よー!」
……なんだと?
★
<三人称視点>
エアル達がエルフの里を出発して一週間ほど。
ここは森の中、とある場所。
ここにはダンジョンと呼ばれるものが眠っており、それを囲うように里が作られている。
その里に住み着くのは、──『化け狐族』だ。
「ここも随分と平和になったものだな」
「ああ。かつてはこの里も小競り合いしてたなんて、夢のような話だ」
言葉を交わす化け狐族の二人だが、その話題の割には顔が暗い。
それもそのはず、彼らには心配事があったのだ。
「あとは姫様の容態さえ治ってくだされば……」
「そうだな。争いがないのは良いことだが、姫様は心配だ」
この里の姫様の体調が良くないのだという。
しかし解決策がないようで、話題はすぐに切り替わる。
「そういえば知ってるか? この森にはフェンリルやドラゴン、そんな伝説的な存在の数々がいると」
「ばっか、そんなのただの伝説だよ。そんなの信じてる奴なんて今時いねえよ」
──だが、そんなところに情報が飛び込んでくる。
「報告です!!」
声を上げたのは見張り番の者。
彼が衝撃の事実を二人に伝える。
「古来の伝承にある、フェンリルと思わしき種族を連れた、謎の集団が姿を現しました!」
「「なにいいい!?」」
今しがた、ただの伝説という話をしていた中、本当にその存在がそれが出現したのだ。
こんな反応にもなる。
驚いた化け狐は慌てて聞き返す。
「それに謎の者とはなんだ!」
「それが……に、人間かと思われます!」
「人間だと!?」
里にやや不穏な空気が流れる中、里の領地ギリギリのところまで、フクマロやドラノアを連れたエアル達が姿を現した──。
理由は、彼女が長年森を飛び回っていたらしいからだそう。
ドラノアは眠っている間にテトラさんと話していたらしい。
だからこそ知っているのだろう。
そして、今はその出発段階。
そこで必要な工程が一つ。
「……」
静かに座っているスフィルさん。
祈るようなポーズをしながら、背後には黄緑色のオーラが包む。
精霊さんの力を使役しているんだね。
精霊とは会話は出来ないと言っていた彼女だが、それは精霊側からスフィルへ言葉を受ける手段がないだけだ。
つまり、スフィルから一方通行で言葉を伝えることはできる。
「はい、もう大丈夫です。これで、これからエルフの里に伺うよう里側に伝わったはずです」
「了解」
開放的なエルフの里だが防衛手段はいくつか存在している。
その一つがこれだ。
外からエルフの里へ入るときは、事前に精霊伝てに知らせておくのだそうだ。
最近となっては、果たして森に怖い種族がいるのかは怪しい。
それでもやはり、里で安心して暮らすには必要なことなのだろう。
とにもかくにも、これで準備は整った。
「じゃあテトラさんに話を聞きに行こうか」
俺はドラノアとの一件以来、エルフの里を訪ねることにする。
「おほー! すっげえー!!」
いつもの移動手段はフクマロだったが、今回は別。
なんとドラノアがドラゴン形態となり、高い木々の上から里へ向かっている。
「気持ちいい〜!!」
「そうでしょう!」
ドラゴン形態のドラノアが嬉しそうに答える。
まさか彼女と一緒に住むことで、こんな快適な旅ができるとは思ってもいなかった。
「これが、森なんだ……」
見渡す限り、どこまでも永遠に続く高い木々。
だけどこれは本当の姿じゃない。
精霊の働きによって、幻影が見えているだけなんだ。
真の姿がどうなっているかは、ある程度近づかないと判明しない。
それこそエルフの里の『神秘の樹』、はたまた、さらにすごいものが存在するかもしれない。
考えれば考えるほどに、人智を超えた不思議な大地だ。
「いつか森の神秘も全て解けるのかな」
「さあ。でも、エアルならやっちゃいそうだわ」
「そうかな」
シャーリーがふふっと笑いながら答えた。
最高の景色に加えて、そんな謎にも心を踊らせながら、快適な空の旅を満喫した俺たち。
エルフの里へはあっという間に到着したのだった。
「いらっしゃい、エアルちゃんたち」
里長のエルフィオさんの家につくなり、俺たちは歓迎される。
話もすでに伝わっていたのか、テトラさんもすでに待機していた。
「ドラノア様……! それでうちのところに!?」
「ええ、そうよ。というか、あたしには畏まった言葉もいらないわ! あたしたち友達でしょ?」
「はい……あ、うんっ!」
ドラノアの言葉に、テトラさんは嬉しそうな表情を浮かべる。
まだ憧れ感は捨てきれていないようだけどね。
「そういうことでよろしくね、テトラ!」
「う、うん!」
テトラさんについて、最初はクールキャラなのかななんて思った。
けど、案外妹キャラというか、まあエルフィオさんにもぞっこんみたいだからな。
可愛い系のキャラなのかもしれない。
そうして、俺たちは早速本題に入る。
「それで、これを見て何か分かることとか、話を聞いたりしたことってある?」
「そうね……」
テトラさんは、スフィルのペンダントをじっくりと眺める。
やがて彼女は視線を俺たちに戻した。
「正直、エアルっちみたいに分かることは少ない」
エアルっち!?
めちゃくちゃツッコミたい呼び名だが、ここは一旦話を聞こう。
「けどこれは、『ダンジョン』の物じゃないかなと思う」
「ダンジョン!?」
それってよく言う、未知の発掘物が取れるとかいう迷宮のことか?
「多分だけどね。だって、これはエアルっちでも造れないんでしょ?」
「ああ、そうなんだ」
「そんな凄い物があるとすれば、まずダンジョンで間違いないと思う」
テトラさんは、確信まではいかなくとも、どこか根拠を持って話しているよう。
「うちはドラノアの世話をしているのは悟られたくなかったし、なるべく誰とも話さないようにしてた。けどその分、コソコソ情報収集することだけは怠らなかったの」
「ふむふむ」
「そんな中で思い当たるのは、やはりダンジョンね」
「なるほど
テトラさんの話は信用できる。
眠っているドラノアを一人で支えていたわけだしな。
ここは信頼してさらに教えてもらおう。
「じゃあその、ダンジョンというのはどこに?」
「そうね。ここからだと──」
テトラさんの説明は大変わかりやすいものだった。
俺たちの住処を中心とすると、北は森の外。
トリシェラ国をはじめとする人間界だ。
南がここエルフの里で、東には主のいた湖がある。
そして、今回の話題のダンジョンは西。
それも住処から湖までの距離よりも長く、ずっと行った先にあるという。
ただ、テトラさんも正確な位置までは分からないとのこと。
あくまで話に聞いた程度みたいだ。
「あとはたしか、里があるって話ね」
「里……!」
「ええ。でも種族はなんだっけなー、化けるとか化けないとか、そんな感じだった気がするけど……」
テトラさんは記憶をふり絞るように「うーん?」と頭を悩ます。
そんな彼女に、ドラノアが口を挟む。
「化け狐族のことかしら」
「そう! それですっ!」
テトラさんが目を見開いて大きくうなずく。
どうやら正解だったらしい。
「よく知ってたな」
「名前だけよ」
「それで、その化け狐族っていうのは?」
ドラノアはドヤ顔のまま続ける。
「名前の通り、化ける狐の種族よ。確か、あたしみたいに人間の姿に化けるの!」
「へえ……」
ドラノアも何故か人型に化ける事が出来るし、化け狐族もか。
これは偶然なのか?
けどまあ、とりあえず情報は手に入った。
「ありがとうテトラさん。本当に助かったよ」
「うちで良ければいつでも頼ってよ。ちょっとここでやることがあるから、今回は行けないけど」
「いやいや、全然。じゃあまた、すぐにでも顔を出すよ」
方角さえ分かれば、俺とドラノアの魔力探知でどうにもでもなるだろしな。
そうして、俺たちは早速立ち上がる。
みんながお礼をする中、ドラノアはとびきりの笑顔。
「ありがとうね! テトラ!」
「うんっ! またねドラノア!」
二人も良い関係になれて良かった。
心の底からそう思う。
「じゃあ行くわよ!」
そして、またドラノアがドラゴン形態へと変身する。
すぐに飛び乗った俺たちを確認して、ドラノアが勢いよく飛び立つ。
そんな中、後方から再びテトラさんの叫ぶ声が聞こえてきた。
「もう一つ特徴を思い出したわー!」
「なにー!」
「化け狐族が化けた人は、美男美女って噂よー!」
……なんだと?
★
<三人称視点>
エアル達がエルフの里を出発して一週間ほど。
ここは森の中、とある場所。
ここにはダンジョンと呼ばれるものが眠っており、それを囲うように里が作られている。
その里に住み着くのは、──『化け狐族』だ。
「ここも随分と平和になったものだな」
「ああ。かつてはこの里も小競り合いしてたなんて、夢のような話だ」
言葉を交わす化け狐族の二人だが、その話題の割には顔が暗い。
それもそのはず、彼らには心配事があったのだ。
「あとは姫様の容態さえ治ってくだされば……」
「そうだな。争いがないのは良いことだが、姫様は心配だ」
この里の姫様の体調が良くないのだという。
しかし解決策がないようで、話題はすぐに切り替わる。
「そういえば知ってるか? この森にはフェンリルやドラゴン、そんな伝説的な存在の数々がいると」
「ばっか、そんなのただの伝説だよ。そんなの信じてる奴なんて今時いねえよ」
──だが、そんなところに情報が飛び込んでくる。
「報告です!!」
声を上げたのは見張り番の者。
彼が衝撃の事実を二人に伝える。
「古来の伝承にある、フェンリルと思わしき種族を連れた、謎の集団が姿を現しました!」
「「なにいいい!?」」
今しがた、ただの伝説という話をしていた中、本当にその存在がそれが出現したのだ。
こんな反応にもなる。
驚いた化け狐は慌てて聞き返す。
「それに謎の者とはなんだ!」
「それが……に、人間かと思われます!」
「人間だと!?」
里にやや不穏な空気が流れる中、里の領地ギリギリのところまで、フクマロやドラノアを連れたエアル達が姿を現した──。