ドタドタと家の外から音がする。
誰かが急いで帰って来たみたいだ。
まあ、思いつくのは一人しかいないけどね。
「ただいま! 誰か来ませんでしたか! 特に、ドラゴンとか!」
声を上げながら、コテージの扉を勢いよく開いた少女。
スフィルだ。
「うん、来たよ」
「やっぱり……」
実はスフィル、一昨日からここへ住み始めたんだ。
理由は『エアルと離れたくないから』だそうで。
そんな理由を言われてしまっては俺も断れないと、快く了承したのだった。
そんな彼女は、今日は「一旦エルフの里に顔を出して夜に帰る」と言っていたはず。
だけど、なにやら慌てて帰って来た様子。
そんなスフィルに、ドラノアがよっと手を上げた。
「おー、あんたはさっきの!」
「ドラゴンさん……」
でも、そのやり取りに気になることが。
「え、さっきのって?」
「それがね……」
そうしてスフィルは、こちらに帰ってくる前に起こったことを話してくれる。
───
<三人称視点>
約三時間前。
ここはエルフの里。
「「「……!?」」」
スフィルやエルフィオ、里にいたエルフ達が一斉に空を見上げる。
巨大な魔力の塊を感じ取ったのだ。
そこにはいたのは──
「あたしはドラゴンのドラノアよ!」
少女の姿をしたドラノアだった。
彼女は宙に浮いたまま、両手を腰に言葉を続ける。
「この前は世話になったわね! ありがとう!」
頭上に巨大な魔力弾のようなものを溜めるドラノア。
それにはエルフィオが声を上げた。
「ちょっ、何をする気なの!?」
「ほんのお礼……よっ!」
エルフィオの言葉には耳を貸さず、その巨大な魔力弾を容赦なく『神秘の樹』に放った。
そのまま直撃した魔力弾は爆発──することはなく、『神秘の樹』に吸い込まれる。
そうしてすぐさま、『神秘の光』から食物がボトボトっと落ちてきた。
「「「!?!?」」」
この光景には里長であるエルフィオをはじめ、全てのエルフが大きな驚きを見せる。
当然の反応だ。
そして、再びエルフィオが声を上げた。
「ちょ、ちょっとまって! ドラノアちゃん?」
「なにかしら!」
「食物は感謝するわ! それより、あなたはこの前のドラゴンなの!?」
「そうよ! 魔力を奪っていたことを謝りたくて!」
これはドラノアなりの謝罪らしい。
さらにエルフィオは、今すぐに飛び立ってしまいそうなドラノアに続ける。
「では今からどこに?」
「あいつのとこよ!」
「あいつって……まさかエアルちゃんのところ!?」
「そう! あたしはあいつのところで暮らすの!」
絶対に許可は得ていないだろうことは分かる。
この自由奔放さはドラゴンの彼女だから許されることだ。
「じゃ!」
「待って!」
「──っとと!」
そうして飛び立とうとしたドラノアだが、「待って」との声に反応して体を止める。
声の主はテトラだ。
「待ってくださいドラノア様! テトラです! あなた様が行くのなら、うちは!」
「あら」
眠っていたとはいえ、テトラの事は認識していたようだ。
テトラが聞いたというドラノアの声も、本当だったのだろう。
「あたしを復活させてくれたダークエルフじゃない」
ドラノアはすーっとテトラの元まで下りてくる。
そのまま目の前に立ち、軽くテトラを抱擁した。
「ありがとう。あなたのおかげで復活できたわ」
「ドラノア様……!」
「けど……」
里の方にチラリと目を向けて、ドラノアは再度テトラに向き直る。
「あなたにはすでに、取り戻した生活があるんじゃないの?」
「そ、それは……」
事実、ドラノアの言う通りだった。
テトラも里のみんなに許してもらい、ここでの生活を始めたところだったのだ。
そんなテトラの両肩に、ドラノアが手を乗せた。
「大丈夫。あたしたちはもうずっと友達だから」
「ドラノア様……!」
「またすぐに顔を見せに来るわ。だからあなたも、たまには顔を見せてね」
「は、はい……!」
テトラの頬には一筋の涙が流れる。
その胸の内にある言葉を声に出した。
「うちを助けてくださって、ありがとうございました……!」
「それはお互い様ね!」
そうして、うなずき合ったテトラとドラノア。
手を振り合いながら、ドラノアはまたすーっと宙を昇っていく。
「じゃ、世話になったわね! エルフたち!」
目にも留まらぬ速さで、ドラノアは飛び立っていった。
その方向は、宣言通りエアル達の住処。
そこで、ハッとしたスフィル。
「ちょっと、わたしも帰ります!」
テトラと交わしていた言葉は感動的だった。
だが。行動は明らかに破天荒だ。
今お世話になっているエアル達の元へいけば、何を起こすか分からない。
そうして、スフィルは夜に帰るはずだった予定を急遽変更。
追いつけないのは分かっていても、急いでエアル達の住処へと戻るのであった。
───
「ということがありまして」
「それは……すごいな」
うん、色々と。
ドラノアのぶっとび具合とか、一度に大量の食物を生み出す程の膨大な魔力とか。
とにかくドラノアが色々とすごいのが伝わって来た。
まるで常識が通用しない。
俺より自由人なんて久しぶり……いや、初めて見たぞ。
これが『魔の大森林』。
やはり世界は広かった。
そんなスフィルの話に、ドラノアが嬉しそうに声を上げた。
「そうよ! あたしはすごいのよ!」
「褒めては……いるような、いないような」
そうして、シャーリーが間に入って話を戻す。
「で、ドラノアは結局どうするつもりなの?」
「うーん……」
住処に関する決定権は、一応俺にある。
フクマロにそう言われたからな。
でもまあ、答えは一つだよなあ。
「一緒に住むしかないだろうな」
「いいの!? エアル!」
その言葉にドラノアの顔がぱあっと晴れた。
「だって、断ったらどうするの?」
「この辺を燃やす! がー!」
ドラノアが口を開いて、小っちゃな炎を吐き出す。
「……ほら」
「じゃあ良いのね! やったー!」
「ほとんど恐喝だろこれ」
ドラノアなりの冗談だというのは分かってる。
でも、実際にやろうと思えばやれてしまうのが恐ろしいところだ。
生命の頂上種ドラゴン。
またすごい子が住処に来てしまったな。
「じゃあエアル! 早速あそびましょ!」
「分かった、分かった」
けど、まあいいか。
少々騒がしくてぶっ飛んでもいるが、それなりに楽しくもなる予感もしていた。
だが、この時の俺はまだ知らなかった。
ドラノアを迎え入れることで起きる、様々な災害を──。
誰かが急いで帰って来たみたいだ。
まあ、思いつくのは一人しかいないけどね。
「ただいま! 誰か来ませんでしたか! 特に、ドラゴンとか!」
声を上げながら、コテージの扉を勢いよく開いた少女。
スフィルだ。
「うん、来たよ」
「やっぱり……」
実はスフィル、一昨日からここへ住み始めたんだ。
理由は『エアルと離れたくないから』だそうで。
そんな理由を言われてしまっては俺も断れないと、快く了承したのだった。
そんな彼女は、今日は「一旦エルフの里に顔を出して夜に帰る」と言っていたはず。
だけど、なにやら慌てて帰って来た様子。
そんなスフィルに、ドラノアがよっと手を上げた。
「おー、あんたはさっきの!」
「ドラゴンさん……」
でも、そのやり取りに気になることが。
「え、さっきのって?」
「それがね……」
そうしてスフィルは、こちらに帰ってくる前に起こったことを話してくれる。
───
<三人称視点>
約三時間前。
ここはエルフの里。
「「「……!?」」」
スフィルやエルフィオ、里にいたエルフ達が一斉に空を見上げる。
巨大な魔力の塊を感じ取ったのだ。
そこにはいたのは──
「あたしはドラゴンのドラノアよ!」
少女の姿をしたドラノアだった。
彼女は宙に浮いたまま、両手を腰に言葉を続ける。
「この前は世話になったわね! ありがとう!」
頭上に巨大な魔力弾のようなものを溜めるドラノア。
それにはエルフィオが声を上げた。
「ちょっ、何をする気なの!?」
「ほんのお礼……よっ!」
エルフィオの言葉には耳を貸さず、その巨大な魔力弾を容赦なく『神秘の樹』に放った。
そのまま直撃した魔力弾は爆発──することはなく、『神秘の樹』に吸い込まれる。
そうしてすぐさま、『神秘の光』から食物がボトボトっと落ちてきた。
「「「!?!?」」」
この光景には里長であるエルフィオをはじめ、全てのエルフが大きな驚きを見せる。
当然の反応だ。
そして、再びエルフィオが声を上げた。
「ちょ、ちょっとまって! ドラノアちゃん?」
「なにかしら!」
「食物は感謝するわ! それより、あなたはこの前のドラゴンなの!?」
「そうよ! 魔力を奪っていたことを謝りたくて!」
これはドラノアなりの謝罪らしい。
さらにエルフィオは、今すぐに飛び立ってしまいそうなドラノアに続ける。
「では今からどこに?」
「あいつのとこよ!」
「あいつって……まさかエアルちゃんのところ!?」
「そう! あたしはあいつのところで暮らすの!」
絶対に許可は得ていないだろうことは分かる。
この自由奔放さはドラゴンの彼女だから許されることだ。
「じゃ!」
「待って!」
「──っとと!」
そうして飛び立とうとしたドラノアだが、「待って」との声に反応して体を止める。
声の主はテトラだ。
「待ってくださいドラノア様! テトラです! あなた様が行くのなら、うちは!」
「あら」
眠っていたとはいえ、テトラの事は認識していたようだ。
テトラが聞いたというドラノアの声も、本当だったのだろう。
「あたしを復活させてくれたダークエルフじゃない」
ドラノアはすーっとテトラの元まで下りてくる。
そのまま目の前に立ち、軽くテトラを抱擁した。
「ありがとう。あなたのおかげで復活できたわ」
「ドラノア様……!」
「けど……」
里の方にチラリと目を向けて、ドラノアは再度テトラに向き直る。
「あなたにはすでに、取り戻した生活があるんじゃないの?」
「そ、それは……」
事実、ドラノアの言う通りだった。
テトラも里のみんなに許してもらい、ここでの生活を始めたところだったのだ。
そんなテトラの両肩に、ドラノアが手を乗せた。
「大丈夫。あたしたちはもうずっと友達だから」
「ドラノア様……!」
「またすぐに顔を見せに来るわ。だからあなたも、たまには顔を見せてね」
「は、はい……!」
テトラの頬には一筋の涙が流れる。
その胸の内にある言葉を声に出した。
「うちを助けてくださって、ありがとうございました……!」
「それはお互い様ね!」
そうして、うなずき合ったテトラとドラノア。
手を振り合いながら、ドラノアはまたすーっと宙を昇っていく。
「じゃ、世話になったわね! エルフたち!」
目にも留まらぬ速さで、ドラノアは飛び立っていった。
その方向は、宣言通りエアル達の住処。
そこで、ハッとしたスフィル。
「ちょっと、わたしも帰ります!」
テトラと交わしていた言葉は感動的だった。
だが。行動は明らかに破天荒だ。
今お世話になっているエアル達の元へいけば、何を起こすか分からない。
そうして、スフィルは夜に帰るはずだった予定を急遽変更。
追いつけないのは分かっていても、急いでエアル達の住処へと戻るのであった。
───
「ということがありまして」
「それは……すごいな」
うん、色々と。
ドラノアのぶっとび具合とか、一度に大量の食物を生み出す程の膨大な魔力とか。
とにかくドラノアが色々とすごいのが伝わって来た。
まるで常識が通用しない。
俺より自由人なんて久しぶり……いや、初めて見たぞ。
これが『魔の大森林』。
やはり世界は広かった。
そんなスフィルの話に、ドラノアが嬉しそうに声を上げた。
「そうよ! あたしはすごいのよ!」
「褒めては……いるような、いないような」
そうして、シャーリーが間に入って話を戻す。
「で、ドラノアは結局どうするつもりなの?」
「うーん……」
住処に関する決定権は、一応俺にある。
フクマロにそう言われたからな。
でもまあ、答えは一つだよなあ。
「一緒に住むしかないだろうな」
「いいの!? エアル!」
その言葉にドラノアの顔がぱあっと晴れた。
「だって、断ったらどうするの?」
「この辺を燃やす! がー!」
ドラノアが口を開いて、小っちゃな炎を吐き出す。
「……ほら」
「じゃあ良いのね! やったー!」
「ほとんど恐喝だろこれ」
ドラノアなりの冗談だというのは分かってる。
でも、実際にやろうと思えばやれてしまうのが恐ろしいところだ。
生命の頂上種ドラゴン。
またすごい子が住処に来てしまったな。
「じゃあエアル! 早速あそびましょ!」
「分かった、分かった」
けど、まあいいか。
少々騒がしくてぶっ飛んでもいるが、それなりに楽しくもなる予感もしていた。
だが、この時の俺はまだ知らなかった。
ドラノアを迎え入れることで起きる、様々な災害を──。