「やはりでございますか……」
「はい」
サタエル王も覚悟はしていたであろうが、俺が実際に名前を出しただけで顔が強張る。
『魔の大森林』。
それが俺が考えていた目的地であり、この大陸最南端の未開の地。
このトリシェラ国は最南の国ではあるが、大陸の最南端というわけではない。
この国より少し南下したところに、その魔の大森林があるからだ。
魔の大森林は、遡れば三百年ほど放置されている巨大な森。
軍の派遣を行っていた古き時代の文献によると、恐ろしき『魔獣』がうようよいるらしい。
「魔獣にはどうかお気をつけを」
「ありがとうございます」
魔獣とは、魔物とはまた違う。
ニホンで言う、食べたりする動物が魔物。
その魔物が魔力を持った姿が魔獣だ。
魔獣はその力で人々を襲うことも多々ある。
中には凶暴さゆえ、国単位で指定された魔獣もいるほど。
文献の『強力な魔獣』がどんなものかは分からない。
それでも、わざわざ情報として残すのなら相当なのだろう。
「く、くれぐれも、安全にしてくださいませ」
「はい」
あれほど敬ってくれた王も、魔の大森林という名の前では怯えるしかないか。
古い文献の記録は、まあひどいものだった。
やれ超巨大な魔獣に襲われただの、やれ森全体が攻撃してきただの、それはそれは恐ろしい表記の数々。
だけど、魔の大森林側から魔獣の襲撃があったとか、外から魔獣が見えたという記録は、森から最も近いこの国ですら残っていない。
それでもこの怯えよう。
よほど『魔の大森林』が恐ろしい存在なのだろう。
「宿はご用意させていただいておりますので」
「「ありがとうございます」」
俺とシャーリーはお礼を述べて、サタエル王の部屋を後にする。
★
夜、用意してもらった宿にて。
「サタエル王も魔の大森林には怯えてたわね」
「うん。当たり前って言われると当たり前なんだけどね」
恐れるべき対象──魔の大森林。
では、どうしてそんな危険な森に俺は自ら行こうとするのか。
「エアル。またそれ?」
「もう一度読んでおきたくて」
その一つがこれ──『森のけんじゃのたんけんきろく』。
おとぎ話のような児童向け絵本だ。
ニホンでいうひらがなのような、幼児向け言葉で書かれている。
この本には、怖い森に潜む危険の数々と、主人公『賢者』の冒険譚が書かれている。
暴れ狂う魔獣、魔獣よりさらに恐ろしく希少とされる『神獣』、地下に潜む秘密基地、精霊の存在、などなど……。
「やっぱり怪しいよなあ」
だけどこの本、児童向け絵本のていを成しているにもかかわらず、何故か世に全く流通していない。
たまたま俺の情報網に引っかかった幻の本なんだ。
その事実を怪しんだ俺は、この本を俯瞰的な目で繰り返し読んだ。
そうして辿り着いた答えが「もし、これが全て事実だったとしたら?」
一見、面白おかしくコメディ風に書かれているが、大人びた文章に直せば、相当にすごいことが書いてある。
「森……か」
そして「森」といえば、やはり魔の大森林だ。
仮説は俺の胸の高鳴らせた。
さらに、早くから自由願望のあった俺にはうってつけでもあった。
俺はグロウリア王国のような疲れる上流社会ではなく、田舎でひっそりのんびり、辺境スローライフを送りたいと思っていたのだ。
それも、好きなように開拓できれば何も言うことは無し!
のんびり……というにはちょ~っとだけ危険かもしれないけど、俺は憧れた。
魔の大森林という桃源郷に!
だから、俺は誰になんと言われようと魔の大森林に足を踏み入れるのだ。
でも、今の俺は一人じゃない。
最終確認はとっておくべきだ。
「シャーリーは怖くないのか?」
「……そうだね」
シャーリーは少しうつむく。
だがそれも一瞬。
「前にも言ったかもしれないけど」
「!」
そうしてふっと笑顔を見せた。
「世界で一番安全な場所は、エアルの後ろでしょ」
「……!」
反則急に可愛かった。
それをされちゃ、男としては頑張る他ない。
「ま、任せろ!」
「ふふっ。エアル様って、本当に王族っぽくないっていうか……子どもだよね」
「なんだよ、悪いのかよー」
そんな会話をしながら、二人ともゴロンとベッドに寝転がる、
世界中探しても、魔の大森林を楽しみにしてる人なんて俺たちぐらいだよ。
「じゃあ予定通り、明日には出発するぞ!」
「うん!」
明日の希望を胸に、シャーリーと一緒に寝た(惜しくも違うベッドで)。
「はい」
サタエル王も覚悟はしていたであろうが、俺が実際に名前を出しただけで顔が強張る。
『魔の大森林』。
それが俺が考えていた目的地であり、この大陸最南端の未開の地。
このトリシェラ国は最南の国ではあるが、大陸の最南端というわけではない。
この国より少し南下したところに、その魔の大森林があるからだ。
魔の大森林は、遡れば三百年ほど放置されている巨大な森。
軍の派遣を行っていた古き時代の文献によると、恐ろしき『魔獣』がうようよいるらしい。
「魔獣にはどうかお気をつけを」
「ありがとうございます」
魔獣とは、魔物とはまた違う。
ニホンで言う、食べたりする動物が魔物。
その魔物が魔力を持った姿が魔獣だ。
魔獣はその力で人々を襲うことも多々ある。
中には凶暴さゆえ、国単位で指定された魔獣もいるほど。
文献の『強力な魔獣』がどんなものかは分からない。
それでも、わざわざ情報として残すのなら相当なのだろう。
「く、くれぐれも、安全にしてくださいませ」
「はい」
あれほど敬ってくれた王も、魔の大森林という名の前では怯えるしかないか。
古い文献の記録は、まあひどいものだった。
やれ超巨大な魔獣に襲われただの、やれ森全体が攻撃してきただの、それはそれは恐ろしい表記の数々。
だけど、魔の大森林側から魔獣の襲撃があったとか、外から魔獣が見えたという記録は、森から最も近いこの国ですら残っていない。
それでもこの怯えよう。
よほど『魔の大森林』が恐ろしい存在なのだろう。
「宿はご用意させていただいておりますので」
「「ありがとうございます」」
俺とシャーリーはお礼を述べて、サタエル王の部屋を後にする。
★
夜、用意してもらった宿にて。
「サタエル王も魔の大森林には怯えてたわね」
「うん。当たり前って言われると当たり前なんだけどね」
恐れるべき対象──魔の大森林。
では、どうしてそんな危険な森に俺は自ら行こうとするのか。
「エアル。またそれ?」
「もう一度読んでおきたくて」
その一つがこれ──『森のけんじゃのたんけんきろく』。
おとぎ話のような児童向け絵本だ。
ニホンでいうひらがなのような、幼児向け言葉で書かれている。
この本には、怖い森に潜む危険の数々と、主人公『賢者』の冒険譚が書かれている。
暴れ狂う魔獣、魔獣よりさらに恐ろしく希少とされる『神獣』、地下に潜む秘密基地、精霊の存在、などなど……。
「やっぱり怪しいよなあ」
だけどこの本、児童向け絵本のていを成しているにもかかわらず、何故か世に全く流通していない。
たまたま俺の情報網に引っかかった幻の本なんだ。
その事実を怪しんだ俺は、この本を俯瞰的な目で繰り返し読んだ。
そうして辿り着いた答えが「もし、これが全て事実だったとしたら?」
一見、面白おかしくコメディ風に書かれているが、大人びた文章に直せば、相当にすごいことが書いてある。
「森……か」
そして「森」といえば、やはり魔の大森林だ。
仮説は俺の胸の高鳴らせた。
さらに、早くから自由願望のあった俺にはうってつけでもあった。
俺はグロウリア王国のような疲れる上流社会ではなく、田舎でひっそりのんびり、辺境スローライフを送りたいと思っていたのだ。
それも、好きなように開拓できれば何も言うことは無し!
のんびり……というにはちょ~っとだけ危険かもしれないけど、俺は憧れた。
魔の大森林という桃源郷に!
だから、俺は誰になんと言われようと魔の大森林に足を踏み入れるのだ。
でも、今の俺は一人じゃない。
最終確認はとっておくべきだ。
「シャーリーは怖くないのか?」
「……そうだね」
シャーリーは少しうつむく。
だがそれも一瞬。
「前にも言ったかもしれないけど」
「!」
そうしてふっと笑顔を見せた。
「世界で一番安全な場所は、エアルの後ろでしょ」
「……!」
反則急に可愛かった。
それをされちゃ、男としては頑張る他ない。
「ま、任せろ!」
「ふふっ。エアル様って、本当に王族っぽくないっていうか……子どもだよね」
「なんだよ、悪いのかよー」
そんな会話をしながら、二人ともゴロンとベッドに寝転がる、
世界中探しても、魔の大森林を楽しみにしてる人なんて俺たちぐらいだよ。
「じゃあ予定通り、明日には出発するぞ!」
「うん!」
明日の希望を胸に、シャーリーと一緒に寝た(惜しくも違うベッドで)。