「おおー! これが……!」
「はい。わたしたちの住む『エルフの里』です」
フクマロの住処のように、地面の木々が円形にくり抜かれた里。
外側から里を覆う様に伸びた木々が高い場所で日陰を作り、木漏れ日が差し込んでいる。
これまた、素晴らしい景観だ。
「思ったよりは近かったな」
住処からここまでは、およそ一時間。
スフィルの指示に従いながら、三人でフクマロの背中に乗って移動したんだ。
『フクマロの速さで一時間』を近いと言ってしまうあたり、俺もだいぶ森の広大さに慣れてきたのかもしれないけど。
「フクマロさん、ありがとうございました」
「たやすい御用だ」
スフィルも満足そうに感謝をしている。
彼女は空を飛んで移動できるとのことだが、フクマロの速さには到底及ばないらしい。
二人は互いに面識は無かったが、エルフの里長とフクマロが知り合いらしく、『フェンリル』について話を聞いていたようだ。
「では行きましょうか」
「案内お願いします」
そうして、スフィルに案内されるがままに『エルフの里』内へ。
「おお、ちゃんと“家”だ」
「ふふっ。そうでしょう」
入口らしきものを抜けると、中央には一本の大きな道。
そこから道が派生しており、左右に木造の家が並び立つ。
「スフィルー!」
「ん?」
そうして里に足を踏み入れると、近くの家のエルフさんがこちらに寄ってくる。
顔はスフィルより若干大人びているが、全身白い肌に長い金髪、横に伸びた耳の特徴は一致する。
この方もとても綺麗なエルフだ。
エルフさんはスフィルに話しかけた。
「スフィル! 帰ったのね! じゃあ早速、料理を──」
「ごめん、後でもいい? 今はこの人たちを案内しなくちゃだから」
「ちぇ~」
口を少し尖らせながら、エルフさんはこちらをチラリと見た。
「どうも、初めまして」
「あ、こちらこそ!」
いきなり美人エルフさんに挨拶されて、あわてながらに返す。
フクマロとシャーリーも俺に続いた。
シャーリーは少しジト目で俺の方を見てきていたけど。
それからエルフさんは、再度スフィルに尋ねた。
「それにしても珍しいね、お客さんなんて」
「フェンリルさんの所の人たちだよ」
「あ~なるほど!」
ポンっと右拳を左手に乗せるエルフさん。
それって万国共通なんだ。
そうして、エルフさんはにっこり笑顔で手を振りながら去って行く。
「楽しんでいってくださいね~」
「「はーい」」
俺とフクマロは笑顔で手を振り返した。
「……」
相変わらずシャーリーは俺をジト目で見てきた。
それにしても、意外と簡単に受け入れてくれるんだな。
閉鎖的な空間に見えたが、心が広いらしい。
スフィルの態度から見て、敵対するだろうとは思わなかったけど。
「すみません、いきなりうちの者が」
「いえいえ。楽しい里ですね」
「そう言ってもらえると嬉しいです。ではこちらへ」
そうして、またスフィルに従って進み始めた。
……すると、やはり気になることが。
「本当に料理が流行っているのね……」
「らしいな」
シャーリーの言う通り、里のそこら中でエルフさんが料理をしている。
手を振ってくれる人もたくさんいるが、次の瞬間にはすぐに目を料理に戻す。
鍋や調理器具を持ち出して複数人で集まったり、一人で黙々と料理をする者など、色んな人が見られる。
「すごいな……」
スフィルが言っていた通り、本当に流行っているみたいだ。
そもそも、生きていくために必要なことである料理が「流行る」の意味は理解しかねるが。
今までは、魔獣のように素材の味を楽しんでいたのかな?
「って、あれ?」
そこでまた、ふと気になったことが一つ。
中央の道を歩く中でスフィルに尋ねてみる。
「男性っていないんですね」
「そうですね。正確には、わたしたちには性別が存在しないんです」
「えぇ?」
思わず不思議な顔を浮かべてしまったのか、スフィルはふふっと笑いながら続けてくれる。
「というのも、わたしたちは生殖で生まれるのではなく、自然現象によって生まれます」
「自然……?」
「あちらです」
スフィルは里の奥側をすっと指差す。
「わたしたちはみな、里の最奥にある『神秘の光』から誕生するのです。簡単に言うと、魔力の塊ですね」
「ほうほう」
里の奥から感じる、とてつもない魔力はそれだったか。
「そして、そこから生まれるのが、決まって人間でいう女性のような体を成しているのです」
「そういうこと!」
「はい。すみません、奇妙な話……ですよね」
「いいえ、とても素晴らしいと思います」
俺はスフィルの言葉をきっぱりと否定した。
女性のようなエルフしかいない?
なんだそれ、最高の里じゃないか!
別に男性が嫌いなわけじゃない。
けど……わかるだろ? 同志よ。
「エアル、何か顔に表れてるけど?」
「そんなことはないと思います」
シャーリーの鋭い視線からは、ぱっと顔を背けた。
そんな素晴らしき事実などを話しながら、何事もなく『里長』がいるという家の前に着く。
中央の道をずっと進んだ先にあった、一際大きな家だ。
「近くで見るとますます大きいな……」
「わたしたちの里長ですので」
里に入った時から、すでに視界に入っていた大きな家。
改めて近くで見ると、その迫力と年季を感じる。
全て木造なのは他と変わらず、違うのは家自体の大きさと、階段の長さ。
里に見られる家は二パターンあった。
地面に直接建てられている家。
地面から階段があって、その先に建てられている家。
里長の家は後者で、五十段にも及ぶ長い階段の上に家が建てられている。
下からは四本の太い柱で繋がっており、三十メートルぐらいはありそうだ。
その光景はとても厳かを覚えさせる。
「少し、待っていてください」
「分かりました」
階段を登り切った先で、スフィルさんに止められる。
そしてすぐさま、彼女は扉の前で祈るようにして両手を握り合わせた。
何をするのだろう? と見ていたのもつかの間。
「!」
スフィルの背後に現れた、黄緑色の優しい色をしたオーラのような光。
そのふんわりとした光が彼女を包む。
そうして、その光は里長の家の扉をそっと押した。
「すごいわね……」
「クゥン……」
シャーリーとフクマロは完全に見惚れている。
「……」
今のは『精霊』だな。
精霊とは、あらゆる物に宿るとされる前世で言う霊的存在。
おそらく普通の人間は聞いた事すら無く、俺も実際に目にするのは初めての超常的な存在。
呼び出した際には、一時的にとんでもない力を授かると言われている。
それをこうも簡単に呼び出すとは。
『エルフは精霊と強い結び付きがある』、古い文献の話は本当だったか。
「では、こちらです」
この扉も、おそらく精霊の力を借りなければ開かないのだろう。
警備や外壁もないし、やけにオープンな里だとは思ったが、精霊の力があるから里は保たれているのか。
そんな神秘的な光景も目にしたところで、いよいよエルフの里長の家へ足を踏み入れる。
そうして入ってすぐ、
「帰ったわね、スフィルちゃん。そして……久しいわね、フェンリルちゃん」
奥に見える大きな椅子に、エルフの里長と思わしき人が鎮座していた。
「はい。わたしたちの住む『エルフの里』です」
フクマロの住処のように、地面の木々が円形にくり抜かれた里。
外側から里を覆う様に伸びた木々が高い場所で日陰を作り、木漏れ日が差し込んでいる。
これまた、素晴らしい景観だ。
「思ったよりは近かったな」
住処からここまでは、およそ一時間。
スフィルの指示に従いながら、三人でフクマロの背中に乗って移動したんだ。
『フクマロの速さで一時間』を近いと言ってしまうあたり、俺もだいぶ森の広大さに慣れてきたのかもしれないけど。
「フクマロさん、ありがとうございました」
「たやすい御用だ」
スフィルも満足そうに感謝をしている。
彼女は空を飛んで移動できるとのことだが、フクマロの速さには到底及ばないらしい。
二人は互いに面識は無かったが、エルフの里長とフクマロが知り合いらしく、『フェンリル』について話を聞いていたようだ。
「では行きましょうか」
「案内お願いします」
そうして、スフィルに案内されるがままに『エルフの里』内へ。
「おお、ちゃんと“家”だ」
「ふふっ。そうでしょう」
入口らしきものを抜けると、中央には一本の大きな道。
そこから道が派生しており、左右に木造の家が並び立つ。
「スフィルー!」
「ん?」
そうして里に足を踏み入れると、近くの家のエルフさんがこちらに寄ってくる。
顔はスフィルより若干大人びているが、全身白い肌に長い金髪、横に伸びた耳の特徴は一致する。
この方もとても綺麗なエルフだ。
エルフさんはスフィルに話しかけた。
「スフィル! 帰ったのね! じゃあ早速、料理を──」
「ごめん、後でもいい? 今はこの人たちを案内しなくちゃだから」
「ちぇ~」
口を少し尖らせながら、エルフさんはこちらをチラリと見た。
「どうも、初めまして」
「あ、こちらこそ!」
いきなり美人エルフさんに挨拶されて、あわてながらに返す。
フクマロとシャーリーも俺に続いた。
シャーリーは少しジト目で俺の方を見てきていたけど。
それからエルフさんは、再度スフィルに尋ねた。
「それにしても珍しいね、お客さんなんて」
「フェンリルさんの所の人たちだよ」
「あ~なるほど!」
ポンっと右拳を左手に乗せるエルフさん。
それって万国共通なんだ。
そうして、エルフさんはにっこり笑顔で手を振りながら去って行く。
「楽しんでいってくださいね~」
「「はーい」」
俺とフクマロは笑顔で手を振り返した。
「……」
相変わらずシャーリーは俺をジト目で見てきた。
それにしても、意外と簡単に受け入れてくれるんだな。
閉鎖的な空間に見えたが、心が広いらしい。
スフィルの態度から見て、敵対するだろうとは思わなかったけど。
「すみません、いきなりうちの者が」
「いえいえ。楽しい里ですね」
「そう言ってもらえると嬉しいです。ではこちらへ」
そうして、またスフィルに従って進み始めた。
……すると、やはり気になることが。
「本当に料理が流行っているのね……」
「らしいな」
シャーリーの言う通り、里のそこら中でエルフさんが料理をしている。
手を振ってくれる人もたくさんいるが、次の瞬間にはすぐに目を料理に戻す。
鍋や調理器具を持ち出して複数人で集まったり、一人で黙々と料理をする者など、色んな人が見られる。
「すごいな……」
スフィルが言っていた通り、本当に流行っているみたいだ。
そもそも、生きていくために必要なことである料理が「流行る」の意味は理解しかねるが。
今までは、魔獣のように素材の味を楽しんでいたのかな?
「って、あれ?」
そこでまた、ふと気になったことが一つ。
中央の道を歩く中でスフィルに尋ねてみる。
「男性っていないんですね」
「そうですね。正確には、わたしたちには性別が存在しないんです」
「えぇ?」
思わず不思議な顔を浮かべてしまったのか、スフィルはふふっと笑いながら続けてくれる。
「というのも、わたしたちは生殖で生まれるのではなく、自然現象によって生まれます」
「自然……?」
「あちらです」
スフィルは里の奥側をすっと指差す。
「わたしたちはみな、里の最奥にある『神秘の光』から誕生するのです。簡単に言うと、魔力の塊ですね」
「ほうほう」
里の奥から感じる、とてつもない魔力はそれだったか。
「そして、そこから生まれるのが、決まって人間でいう女性のような体を成しているのです」
「そういうこと!」
「はい。すみません、奇妙な話……ですよね」
「いいえ、とても素晴らしいと思います」
俺はスフィルの言葉をきっぱりと否定した。
女性のようなエルフしかいない?
なんだそれ、最高の里じゃないか!
別に男性が嫌いなわけじゃない。
けど……わかるだろ? 同志よ。
「エアル、何か顔に表れてるけど?」
「そんなことはないと思います」
シャーリーの鋭い視線からは、ぱっと顔を背けた。
そんな素晴らしき事実などを話しながら、何事もなく『里長』がいるという家の前に着く。
中央の道をずっと進んだ先にあった、一際大きな家だ。
「近くで見るとますます大きいな……」
「わたしたちの里長ですので」
里に入った時から、すでに視界に入っていた大きな家。
改めて近くで見ると、その迫力と年季を感じる。
全て木造なのは他と変わらず、違うのは家自体の大きさと、階段の長さ。
里に見られる家は二パターンあった。
地面に直接建てられている家。
地面から階段があって、その先に建てられている家。
里長の家は後者で、五十段にも及ぶ長い階段の上に家が建てられている。
下からは四本の太い柱で繋がっており、三十メートルぐらいはありそうだ。
その光景はとても厳かを覚えさせる。
「少し、待っていてください」
「分かりました」
階段を登り切った先で、スフィルさんに止められる。
そしてすぐさま、彼女は扉の前で祈るようにして両手を握り合わせた。
何をするのだろう? と見ていたのもつかの間。
「!」
スフィルの背後に現れた、黄緑色の優しい色をしたオーラのような光。
そのふんわりとした光が彼女を包む。
そうして、その光は里長の家の扉をそっと押した。
「すごいわね……」
「クゥン……」
シャーリーとフクマロは完全に見惚れている。
「……」
今のは『精霊』だな。
精霊とは、あらゆる物に宿るとされる前世で言う霊的存在。
おそらく普通の人間は聞いた事すら無く、俺も実際に目にするのは初めての超常的な存在。
呼び出した際には、一時的にとんでもない力を授かると言われている。
それをこうも簡単に呼び出すとは。
『エルフは精霊と強い結び付きがある』、古い文献の話は本当だったか。
「では、こちらです」
この扉も、おそらく精霊の力を借りなければ開かないのだろう。
警備や外壁もないし、やけにオープンな里だとは思ったが、精霊の力があるから里は保たれているのか。
そんな神秘的な光景も目にしたところで、いよいよエルフの里長の家へ足を踏み入れる。
そうして入ってすぐ、
「帰ったわね、スフィルちゃん。そして……久しいわね、フェンリルちゃん」
奥に見える大きな椅子に、エルフの里長と思わしき人が鎮座していた。