「て、転移魔法ー!?」

 俺の言葉にシャーリーは、彼女史上一番の大仰天を見せた。

 まあ転移魔法といえば、伝説的な魔法の中でも最上級。
 もはや神話クラスの魔法だからな。

「うん、条件は揃ったと思う」

 そんな神話クラスの転移魔法だが、実は理論は出来ている。

 前世の、ニホンの「ライトノベル」からヒントを得てるんだ・
 まあそれは言えるわけもないので隠しておくが、理論自体はそこまで難しいものじゃない。

 簡単に考えると「今の場所」と「行きたい場所」の超正確な位置の把握が出来れば、転移は可能。
 趣味にはぴったりな魔法だったので、一年半の苦節の内に理論は完成した。
 
 では、今までどうしてやらかったのか。
 問題は、転移に使うその“魔力量”だった。

 人や物を場所を超えて送ろうと思うと、とんでもない魔力量が必要になる。

 王国内でも空気中に(ただよ)う魔力だが、単なる趣味で一気に大量消費してしまっては、国民に何かしら影響があると思った。
 この世界で言う、酸素不足みたいな状況になりかねないからね、
 
 では、今はどうだろう。
 この森に漂うは濃い濃~い魔力。
 
 それでもかなりの量は必要だが、弊害(へいがい)をもたらすことなく使えると思う。

「でも、具体的にはどうやって?」
「うーん。説明すると難しいけど、聞く?」
「あ、やっぱりいいや」
「ぐぬ」

 俺のオタク趣味全開な理論の方には、興味が無かったシャーリー。
 ただ、これだけは付け加えておく。

「けど、今すぐに出来るってわけではないんだ。それなりに準備が必要だし」
「そうなのね。というより、神話クラスの魔法をほいほい使えた方が怖いわ」

 ということで、ここには俺の準備した魔法陣を敷いておくだけにする。
 転移魔法が完成した時には、ここへすぐ飛んでくることが出来るように。
 
 俺は軽く準備を終えて、フクマロの方へ振り返った。

「じゃあ悪いけど、帰りも乗せてってくれる?」
「もちろんだ」

 こうして、魚という食材をゲットして、俺たちはコテージへ帰った。







「よし、こんなもんか」

 コテージに戻った後、俺は黙々と作業を行っていた。
 色々と設備を追加するためにだ。
 
 追加したのは、時計やキッチン、温泉に行くまでの直通の通路なんかもだね。   

 時計は陽の角度から計算した。
 ちょうど十二時頃だったので、合わせやすかったのもラッキーだ。

 そんな作業もとりあえず終わった。
 ちょうどいい時間帯だし、そろそろお昼にしたいな。

「シャーリー? ……は、いないんだった」

 俺が作業をしている間、シャーリーはフクマロと一緒に食材を採りに行ってくれている。
 食材に「魚」が追加されたことで、さらに張り切って料理をするみたいだ。 
 相変わらず働き者さんだなあ。

「んー、じゃあ温泉でも行くか」

 ということで、俺は温泉へ。
 せっかくコテージから直通する通路も作ったんだ。
 作業後だし、さっとシャワーを浴びておこう。

 夕方また入るだろうが、家の隣にあんな最高の施設があるんだ。
 何度入っても良いよね!

「おー、我ながら完璧っ!」

 作った通路を自画自賛しながら、コテージから温泉へと向かう。
 ほんの数歩の距離ではあるけど、もし雨が降ったら嫌だからね。
 
 ってことで、作業の事を考えるのはここまでにして。

「いざ!」

 スポポーン! と衣服を放り脱いでいざ入湯!

「って、……え?」

 ざぱーんと入水しようとした瞬間、どこか気配を感じる。

 いくつかあるスーパー銭湯の内、中央の一番大きな風呂。
 その湯けむりの奥に、何やら人の影がするんだ。

「シャ、シャーリー?」

 シャーリーだったら「えっち!」と追い出されるので聞いておく。

 だが返事はない。
 さらに、張り巡らせている魔力探知にも引っ掛からない。
 彼女にはそこまでの魔法はできないはず。

「……」

 だとしたら一体……?

 俺は魔力で形作った剣を片手に、ちゃぷんと入水する。
 じりじりとその影に近づく中で、何やらうめき声が聞こえた。

「うっ」
「──! 誰だ!」

 少し聞こえた声の主に返す。
 でも、やはり返事はない。

 そうして、

「うーん……」
「……!」

 次に聞こえたのは、うなるような声。
 って待てよ。
 この声、まさか……のぼせてる!?

「こうしちゃおけない!」

 俺は瞬時に、全身に魔力を通わせ、水除けをしながら影に近づく。
 そこには──

「……!?」

 なんと、大胆にもサラサラの金髪を結んで上を見上げる、すごく美人さんがいた。

「……!?!?」

 さらには、おっきなお胸を大胆に(さら)しながらお湯に浸かっている。
 タオルは巻いておらず、両肘は背側の石に付いている状態だ。

 それはもう強調されたお胸が……と、とにかくすごい光景だ。

 というか、金髪に、この横に長い耳。
 この人、もしかして……
 
「うーん……」
「!」

 って、何ぼーっと考えてるんだ俺は!

 女性は目をぐるぐるさせ、意識は朦朧(もうろう)とさせている。
 このまま放っておくと危険だ!

「よいしょ!」

 女性にはタオルを一枚かけ、俺の肩を貸すようにして急いでお湯から出る。

「!?」

 小走りなので、すぐ隣では大きな二つの山があっちこっちに暴れる。
 それでも俺は、歯を食いしばりながらなんとか目線を逸らした。

 そんな欲望とも戦いながら、一先ず家に入ってすぐに彼女を横に寝かせた。

「このままではまずいな」

 女性だし、何よりその破壊力のあるお胸が隠しきれていないので、上からさらにタオルを重ねる。
 細かく体をふくわけにもいかず、とりあえずは風魔法で乾かそう。
 
 目は(つむ)る。
 目は瞑るから!

「よし。かぜまほ──」
「ただいまー」
「……!!」

 だが、家の扉が開くと同時に聞こえた声。
 俺はサーっと冷や汗をかきながらも、ゆっくりと玄関口へと振り返る。

 すると……はい、バッチリ目が合いました。

「や、やあシャーリー。ご苦労様……」
「……」

 シャーリーの視線が女性、俺、女性と行き来する。

「へえ」
「……ひっ!」

 そして、その目に怒りがこもっていくのが分かる。

 女性は裸の上にタオル、俺は前を隠すためのタオルのみ。
 おまけに、俺の手が今まさに彼女に触れようとしているのだ。

 絶対に勘違いされてる。

「ち、違うんだ、シャーリー!」
「……」
「シャーリーさん!?」

 シャーリーは何も言わず、(まばた)きも一切せず、こちらにずんずんと歩いて来る。
 そして、にこっと笑った。

「なにしとるんじゃー!」
「──ごぁっ!」

 俺の体は窓を突き破って外へと飛び出た。 



★ 



<???視点>

 頭がぼーっとします。

 わたし、何をしていましたっけ……。

 あ、そうでした。
 あの何やら気持ち良さそうな、温かい水に浸かっていたのでした。

 そして、段々意識が朦朧(もうろう)としてきて……。
 うーん、まだ目は開けられません。

 けど、何でしょう?
 この心地よくて、わたしの心をくすぐるような魔力は……。

 今までに感じたことのない、すごく温かい感じ。
 まるで、わたしを心の中から癒すような魔力です。

 ああ、もっと感じていたい……。

 あ、段々と楽になってきました。

 そろそろ目が開けられそうです。

「あ、起きた」

 目を開けた瞬間、男の子と女性と目が合いました。