「はあ~、今日は楽しかったね!」
「俺も大満足だ!」
湖の主という絶品もいただき、就寝時間となった。
一つテントの下、俺たちは向かい合って寝袋にくるまる。
なぜテントが一つなのか、だって?
この状況で二つ持ってくるわけがないだろう!
シャーリーと同じテントに入れるんだぞ!
とまあ冗談は置いといて(冗談じゃないけど)。
「星空、綺麗だな」
「そうね」
寝袋にくるまったまま、テントの入口から覗かせる夜の星空に視線を向ける。
入口は湖の方に向けたので、木々がなくて見通しが良い。
「はああ~」
森の中でキャンプなんて、完全に満喫しているなあ。
「テントを持ってきて良かったね」
「そうだな」
今はこうしているけど、フクマロの嗅覚を持ってすれば、障害物に当たることもなく容易に帰れたらしい。
だがその提案はもちろん断った。
そんなの、「終電逃しちゃったね」っていう雰囲気で「タクシーで帰ろう」と言っちゃう男ぐらい空気が読めていない。
というわけで、キャンプなのだ。
「私も今日の主を見て、男のロマンがちょっと分かったよ」
「お、そう? それは良かった」
「ふふっ。でも、ちょっとよ」
「その内、もっと分からせてやるよ」
「……」
「……」
一秒ほど時間が流れ、ふと冷静になる。
あれ?
今、俺変な事言わなかった?
「分からせる」って、何!?
何気なく口走ってしまったが、わからせるって……わからせるってこと!?
なんか、夜のそういう言葉に捉えられてない!?
「……」
ほら、シャーリー無言になっちゃったし!
ダメだ、真っ直ぐ顔が見れない!
「ねえ」
「はいっ!」
シャーリーに呼ばれて、背けていた体がびくっとさせる。
恐る恐るちらっと顔だけ動かすと、目線が合った。
「握っていい?」
「!?」
え、シャーリーさん!?
一体何を……。
けど、意味はすぐに分かった。
シャーリーの左手がひょいひょいと泳いでいるのだ。
「良いよ」
男ならではの妄想のせいで内心はバクバクだが、俺はすっと右手を差し出した。
「あったかいね」
「シャーリーは冷たいな」
「冷え性なの」
俺の手を握ると、安心したのかシャーリーは自然にうとうとし始める。
「寝る?」
「……じゃあ、うん。そうしようかな」
普段は聞けなさそうな甘い声の返事を聞き、俺は吊り下げていたランタンの光魔法を消す。
一つテントの下で、年頃の男女が二人。
ずっと支え合って来て、ついには誰も人がいない森で暮らし始めた二人。
そうなれば当然……
「すー、すー」
ムフフな展開、あると思っていた時期が僕にもありました。
ま、冗談だけどね。
「……ちょっとぐらい」
「え?」
何か聞こえたかな?
ぼそぼそっと、シャーリーが呟いた気がしたけど。
「すー、すー」
いや、気のせいか。
寝息たててるし。
さて、それなら俺も寝るとしよう。
「……ばか」
今度は気のせいじゃないかもと思ったが、目を閉じた俺が聞き返す元気は、すでになかった。
★
「……ん」
頬に何か柔らかい感触があった気がして、すでに浅くなっていた眠りから目を覚ます。
半開きの目には、隙間からの日の光が当たっていた。
「……ん?」
と思ったら、視界の上の方にシャーリーが。
女の子座りでなぜか真っ赤な顔でこちらを見ている。
「お、起きたんだ! お、おは、よう……」
「今起きたよ。おはよ」
「良かった……」
なんだかシャーリーが焦っている気がするが、まだ頭がぼーっとする。
「エアル。もう少し、寝る?」
「んー。じゃあ、そうしようかな」
とは言いつつ、実はもうほとんど目は覚めている。
体内の魔力の循環を早くすれば、脳の働きも活性化させることが出来るからな。
「……」
だが、目の前に“それ”はあった。
今なら、眠いふりをして許されるんじゃないかと思う。
「“そこ”で、寝ていい?」
「そこって……え?」
俺の細めた視線の先を察して、シャーリーは若干うろたえる。
やっぱり無理か、と起き上がろうとしたのもつかの間──
「い、いい、よ……?」
「……良いのか」
「うん……」
冗談半分で言ったのだが、まさかの返答。
俺は混乱しながら、そーっと体全体をシャーリーに向かって頭を動かす。
そして、時は来た。
すとっ。
位置を確認して頭を置いた時、衝撃という名の革命は起きた。
「……!」
これが、これが膝枕か……!
柔らかすぎず、固すぎず。
人肌にしか出せないであろう、このひんやりと気持ちの良い温度感。
露出された太ももに、頬をぷにぷにさせれば、他では味わえない高揚感。
なんって素晴らしいんだ!
「んー……」
「ひゃっ!」
この際調子に乗ってしまえと思った俺は、そのまま顔をシャーリー側に向けた。
するとどうだろう。
シャーリーの柔らかくて少し甘い、いかにも“女の子”という匂いが鼻を通っていく。
顔の向きを変えただけで、幸福度が段違いだ。
彼女とは家もお風呂も変わらないはず。
なのに、どうしてシャーリーはシャーリーの匂いがするのだろう。
そんな疑問を確かめるため、我々はアマゾンの奥地へと──
「むぐっ」
「……完全に起きてるでしょ」
シャーリー側にさらに近づこうとすると、顔を抑えられた。
さすがに調子に乗り過ぎたようだ。
「もう、お調子者なんだから」
「言い訳もございません」
湖で顔を洗い、フクマロも混ざってテントの外で朝食をとっている。
朝食はなんと、焼き魚なのだ。
しかも、これがまた美味い!
そんな美味に、フクマロが口を開いた。
「やはり、エアルの仮説は本当かもしれないな」
「あー、美味しさは魔力の濃さが関係してるかもって話?」
「そうだ」
昨日の時点で、それは俺も思っていた。
だって、明らかに美味すぎるんだもん。
美食の大地であった日本の味覚はすでに忘れてしまったが、多分負けてない。
それほどに、ただ焼いただけの魚が美味しいのだ。
さらに、俺の長年の研究の末に開発した「塩」をふればもう完璧だよね。
「本当に美味しい! エアルの“しお”もだし、魚がもう……!」
シャーリーも大満足らしい。
良かった良かった。
「はあ~あ。さすがに毎日ってわけにはいかないけど、せめて何日かに一回は食べられたらね」
一応、主や他の魚は収納魔法にストックしたが、消費すれば当然なくなる。
またここに来れば良いだけの話なのだが、往復12時間となるとやっぱり時間がね。
こんな時、すぐにでもここに来られたら……
「って、待てよ」
そんな時、ふと俺の頭を過るものがある。
まだ実験段階だった未知の魔法だ。
それは理論は整ったものの、完成されることはなかった魔法だ。
それを使えば……
「移動することなく、ここに来られるかもしれない」
「え!」
「なんと!」
俺の独り言に、二人は驚いた反応を示す
そしてシャーリーは、何かを悟ったように聞き返してくる。
「ねえ、エアル。まさか、あなたの言うそれって……」
「ああ、そのまさかだよ」
俺はその名を言葉した。
「伝説上の魔法【転移魔法】さ!」
「俺も大満足だ!」
湖の主という絶品もいただき、就寝時間となった。
一つテントの下、俺たちは向かい合って寝袋にくるまる。
なぜテントが一つなのか、だって?
この状況で二つ持ってくるわけがないだろう!
シャーリーと同じテントに入れるんだぞ!
とまあ冗談は置いといて(冗談じゃないけど)。
「星空、綺麗だな」
「そうね」
寝袋にくるまったまま、テントの入口から覗かせる夜の星空に視線を向ける。
入口は湖の方に向けたので、木々がなくて見通しが良い。
「はああ~」
森の中でキャンプなんて、完全に満喫しているなあ。
「テントを持ってきて良かったね」
「そうだな」
今はこうしているけど、フクマロの嗅覚を持ってすれば、障害物に当たることもなく容易に帰れたらしい。
だがその提案はもちろん断った。
そんなの、「終電逃しちゃったね」っていう雰囲気で「タクシーで帰ろう」と言っちゃう男ぐらい空気が読めていない。
というわけで、キャンプなのだ。
「私も今日の主を見て、男のロマンがちょっと分かったよ」
「お、そう? それは良かった」
「ふふっ。でも、ちょっとよ」
「その内、もっと分からせてやるよ」
「……」
「……」
一秒ほど時間が流れ、ふと冷静になる。
あれ?
今、俺変な事言わなかった?
「分からせる」って、何!?
何気なく口走ってしまったが、わからせるって……わからせるってこと!?
なんか、夜のそういう言葉に捉えられてない!?
「……」
ほら、シャーリー無言になっちゃったし!
ダメだ、真っ直ぐ顔が見れない!
「ねえ」
「はいっ!」
シャーリーに呼ばれて、背けていた体がびくっとさせる。
恐る恐るちらっと顔だけ動かすと、目線が合った。
「握っていい?」
「!?」
え、シャーリーさん!?
一体何を……。
けど、意味はすぐに分かった。
シャーリーの左手がひょいひょいと泳いでいるのだ。
「良いよ」
男ならではの妄想のせいで内心はバクバクだが、俺はすっと右手を差し出した。
「あったかいね」
「シャーリーは冷たいな」
「冷え性なの」
俺の手を握ると、安心したのかシャーリーは自然にうとうとし始める。
「寝る?」
「……じゃあ、うん。そうしようかな」
普段は聞けなさそうな甘い声の返事を聞き、俺は吊り下げていたランタンの光魔法を消す。
一つテントの下で、年頃の男女が二人。
ずっと支え合って来て、ついには誰も人がいない森で暮らし始めた二人。
そうなれば当然……
「すー、すー」
ムフフな展開、あると思っていた時期が僕にもありました。
ま、冗談だけどね。
「……ちょっとぐらい」
「え?」
何か聞こえたかな?
ぼそぼそっと、シャーリーが呟いた気がしたけど。
「すー、すー」
いや、気のせいか。
寝息たててるし。
さて、それなら俺も寝るとしよう。
「……ばか」
今度は気のせいじゃないかもと思ったが、目を閉じた俺が聞き返す元気は、すでになかった。
★
「……ん」
頬に何か柔らかい感触があった気がして、すでに浅くなっていた眠りから目を覚ます。
半開きの目には、隙間からの日の光が当たっていた。
「……ん?」
と思ったら、視界の上の方にシャーリーが。
女の子座りでなぜか真っ赤な顔でこちらを見ている。
「お、起きたんだ! お、おは、よう……」
「今起きたよ。おはよ」
「良かった……」
なんだかシャーリーが焦っている気がするが、まだ頭がぼーっとする。
「エアル。もう少し、寝る?」
「んー。じゃあ、そうしようかな」
とは言いつつ、実はもうほとんど目は覚めている。
体内の魔力の循環を早くすれば、脳の働きも活性化させることが出来るからな。
「……」
だが、目の前に“それ”はあった。
今なら、眠いふりをして許されるんじゃないかと思う。
「“そこ”で、寝ていい?」
「そこって……え?」
俺の細めた視線の先を察して、シャーリーは若干うろたえる。
やっぱり無理か、と起き上がろうとしたのもつかの間──
「い、いい、よ……?」
「……良いのか」
「うん……」
冗談半分で言ったのだが、まさかの返答。
俺は混乱しながら、そーっと体全体をシャーリーに向かって頭を動かす。
そして、時は来た。
すとっ。
位置を確認して頭を置いた時、衝撃という名の革命は起きた。
「……!」
これが、これが膝枕か……!
柔らかすぎず、固すぎず。
人肌にしか出せないであろう、このひんやりと気持ちの良い温度感。
露出された太ももに、頬をぷにぷにさせれば、他では味わえない高揚感。
なんって素晴らしいんだ!
「んー……」
「ひゃっ!」
この際調子に乗ってしまえと思った俺は、そのまま顔をシャーリー側に向けた。
するとどうだろう。
シャーリーの柔らかくて少し甘い、いかにも“女の子”という匂いが鼻を通っていく。
顔の向きを変えただけで、幸福度が段違いだ。
彼女とは家もお風呂も変わらないはず。
なのに、どうしてシャーリーはシャーリーの匂いがするのだろう。
そんな疑問を確かめるため、我々はアマゾンの奥地へと──
「むぐっ」
「……完全に起きてるでしょ」
シャーリー側にさらに近づこうとすると、顔を抑えられた。
さすがに調子に乗り過ぎたようだ。
「もう、お調子者なんだから」
「言い訳もございません」
湖で顔を洗い、フクマロも混ざってテントの外で朝食をとっている。
朝食はなんと、焼き魚なのだ。
しかも、これがまた美味い!
そんな美味に、フクマロが口を開いた。
「やはり、エアルの仮説は本当かもしれないな」
「あー、美味しさは魔力の濃さが関係してるかもって話?」
「そうだ」
昨日の時点で、それは俺も思っていた。
だって、明らかに美味すぎるんだもん。
美食の大地であった日本の味覚はすでに忘れてしまったが、多分負けてない。
それほどに、ただ焼いただけの魚が美味しいのだ。
さらに、俺の長年の研究の末に開発した「塩」をふればもう完璧だよね。
「本当に美味しい! エアルの“しお”もだし、魚がもう……!」
シャーリーも大満足らしい。
良かった良かった。
「はあ~あ。さすがに毎日ってわけにはいかないけど、せめて何日かに一回は食べられたらね」
一応、主や他の魚は収納魔法にストックしたが、消費すれば当然なくなる。
またここに来れば良いだけの話なのだが、往復12時間となるとやっぱり時間がね。
こんな時、すぐにでもここに来られたら……
「って、待てよ」
そんな時、ふと俺の頭を過るものがある。
まだ実験段階だった未知の魔法だ。
それは理論は整ったものの、完成されることはなかった魔法だ。
それを使えば……
「移動することなく、ここに来られるかもしれない」
「え!」
「なんと!」
俺の独り言に、二人は驚いた反応を示す
そしてシャーリーは、何かを悟ったように聞き返してくる。
「ねえ、エアル。まさか、あなたの言うそれって……」
「ああ、そのまさかだよ」
俺はその名を言葉した。
「伝説上の魔法【転移魔法】さ!」