時刻は、多分朝の十時ぐらい。
 
 朝起きて、シャーリーはすっかり気に入った温泉に。
 俺は野菜の魔力操作の研究、フクマロは散歩と、それぞれ思い思いの行動をしていた。

 そうして、早めのお昼ご飯。

「もぐもぐ」
「シャキシャキ、ムシャムシャ」
「ウォンッ♪」

 三人で昼ごはんを食べる。
 例のごとく野菜だ。

「……」

 というか、野菜か果物しかない。
 野菜自体を変えることも出来るし、森の中で贅沢(ぜいたく)言うな、という話かもしれない。

 だが、俺はここで自由に生きると決めた。
 なのであえて口にしよう。

「魚が食べたい!」

 三人とも食べ終わったタイミングで、俺は高らかに声に出した。
 食べている最中にネガティブな事を言われると嫌だからね。

「魚? まあ、たしかに。野菜ばっかりだと飽きてくるわよね」
「あ、ごめん。シャーリーの料理は本当に美味しいのだけど」
「ううん、バリエーションがなくなるのも困るし。魚があるなら私も食べてみたい」

 シャーリーも同じだったか。
 すでに言わずもがなだけど、彼女の料理はめちゃくちゃ美味しい。

 それでも、採れるのは野菜と果物のみ。
 料理に加えるのも、収納魔法に収納されている肉だけだ。

 収納魔法には、来るときに通った国々で頂いた食料も保存してあるが、何しろほとんどが内陸国だからな。
 自然と肉が多くなる。

 さらに、どの国の王も俺を敬ってくれたので、出されるのは一級品。
 となれば、やはり肉にいきつくらしい。

 収納魔法内では腐ることもなければ、匂いがつくこともないので大変ありがたい。
 それでも、肉がほとんどの割合を占めてしまっているのは事実だった。

 だから久しぶりに、魚が食べたい!

「なあフクマロ、どこかに魚が獲れるとこってないのか?」
「……な、ないぞ」
「ん?」

 なんだ、今の()と怪しげな態度は。

 フクマロはないとは言ったが、俺からふいっと目を逸らし、どこか誤魔化している感じがする。
 となれば、聞き出すまで。

「んん~? 本当かなあ~?」
「ぐっ……」
「そーれ、モフモフ」
「はぅあっ!」

 フクマロのあごの方を撫でると気持ちよさそうな声を上げる。

「教えてくれないなら、もうこうすることもないけどなあ~」

 そして、俺は手をピタッと止める。
 すると快楽に観念したのか、フクマロは渋々口を開いた。

「わ、わかった! ある! 魚を獲れる場所はあるぞ!」

 よし、俺の勝ち!
 本当にちょろいな、神獣フェンリル様よ。

「だが……」
「?」
「その場所は、ここからは少し遠くてな」
「なるほど、そういう問題ね」

 フクマロはばつが悪そうに答える。

 うーんと考えながらも、シャーリーと目を合わせる。
 でも……やっぱりそうだよな。

「遠くても良い。案内してくれないか?」
「エアル……!」
「……仕方なかろう」

 俺たちのワクワク具合を見て、フクマロはうなずく。

「でも、どのぐらいかかるんだ?」
「六時間はかかるぞ」
「まじかよ!」

 いいや、それでも!

「行こう」
「うん!」

 よーし、今日は魚を食べるぞ!







「うおっ! はっええー!」

 フロマロの上に乗り、森の中を気持ち良く駆けていく。

「ちょ、はやすぎない!? こわいこわい!」
「ははっ! シャーリーは(おく)(びょう)だなあ」
「エアルが怖いもの知らずなだけよー!」

 気持ち良いのは俺だけみたいだけど。

 シャーリーも同じくフクマロに乗り、俺の背中にぴたっとくっついている。
 その怖さからか、彼女が回す手は俺の腹の方でがっしりと捕まっており、そのおかげで……。

 ふよっ。

 その豊満なお胸さんが背中に密着している。
 しかも、フクマロが上下することもあって、それがたゆんたゆん揺れるんだから、もう大変な事態だ。

 下には“モフモフ”、後ろには“ぱふぱふ”で、異種ハーレムってね!
 けどまあ、このまま自分一人だけ楽しむのも良くないと思うので、シャーリーに提案してみる。

「シャーリー、目を開けてごらん」
「むりむりっ!」

 首を横に振ったのか、俺の背中でぐりぐりと頭が動いた。
 メイド時代はこんな彼女を見ることはなかったが、誰にでも苦手な事ってあるもんだな。

「大丈夫。フクマロは絶対に落としはしないし、俺も何重にも結界を張ってる。ここで逆立ちしても絶対落ちないよ」
「……絶対に絶対?」
「ああ。絶対に、絶対」
「……」

 俺の背中に埋めるようにしていたシャーリーの顔と胸が、徐々に離れる。

「周りを見てみな。こんな綺麗な景色、他では味わえないぞ」
「わあ……!」

 昼過ぎという時間帯もあり、高い木々の隙間には真上からの木漏れ日が差し込む。
 一筋の光がいくつも降り注ぐ光景はまさに絶景で、フクマロの疾走感も相まって気分が高揚する。

 右を見てみれば、遠くには小川も流れており、景色を一層(うるお)わせる。
 
 前世では、()幹翠葉(かんすいよう)、と言うんだっけ。
 俺たちが独占しているこの大自然の景色、すごく気分が良い。

「すごく、綺麗……」
「味わってくれたなら良かったよ」

 それからはシャーリーも少しづつ話をしてくれたので、早いものだった。