「「ごちそうさまでした」」
俺とシャーリーはいつも通りに手を合わせた。
あ~、美味しかった!
相変わらず俺の胃袋を掴んだシャーリーの料理。
そこに、モグりんの魔力操作による野菜と、手が加えられたサラダが加わった。
初の森での食事は大満足だ!
「「……」」
「ん?」
だが、魔獣サイド二匹は不思議な顔でこちらを見ている。
「あ~」
少しして、ようやくその理由が分かった。
二匹は人間独自の文化である『ごちそうさま』が不思議だったのだろう。
必ずしも真似る必要はないと思う。
でもせっかくなら教えてあげよう。
「これは『ごちそうさま』って言うんだ」
「ごちそうさま……ですか」
「そう! この言葉には、作ってもらった人や食材に感謝が込められているんだよ」
「感謝が……!」
ハッとしたようなモグりんに対して、言葉を付け加えた。
「だから食材にはもちろん、モグりんにも“ありがとう”って言ってるんだよ」
「そうだったのですか……! どういたしましてです!」
ぱあっと嬉しそうな顔を見せたモグりん。
それから、自分でも両手を合わせる。
「では私も! 食材さん、シャーリーさん、ごちそうさまでした」
「我もだ。ごちそうさまでした」
二匹が拙いながらも『ごちそうさま』をした。
「うんうん!」
その姿にはシャーリーが嬉しそうだ。
魔獣と人間がすぐにこんなにも仲良くなれる、料理って素晴らしいね。
そしてやはり、シャーリーは気になるようで。
「モグりん。私にも野菜の魔力操作、教えてくれる?」
「もちろんです! シャーリーさんも師匠と同じぐらい、料理がお上手みたいなので!」
「──! 同じぐらいですって……?」
だが、まずい。
モグりんが地雷を踏んだ。
「わたしと同じぐらいかあ。ふーん」
「あれ、私何か変な事を……?」
「別に?」
モグりんに決して悪気はない。
しかし、シャーリーが大得意とする料理で、“同じぐらい”という単語が引っ掛かってしまったみたい。
今の彼女は、ライバル心が芽生えた目をしている。
ここは強引に話題を変えなければ!
「そ、そういえば! モグりんはこの辺に住んでいるの?」
「えっとですね。って言われて思い出しました!」
「ん?」
その質問には答えず、モグりんはそそくさとドングリを集め始めた。
「そろそろ帰らないと!」
「え」
「すみませんシャーリーさん、魔力操作はまた今度に! では!」
「……あ」
そうして気づいた時には、ぴゅーっと走って行ってしまう。
「そ、そんな……」
シャーリーは残念そうにうなだれた。
でもまあ、原理だけは聞いておいてよかった。
俺はシャーリーに手を差し伸べる。
「大丈夫だよ、俺にもなんとなくなら分かると思う」
「ほんと!?」
「うん。俺でよければ教えるよ」
「エアル! ありがとう……!」
せっかくこの森の食材の「野菜自体が変わる」という特性を使えるのなら、シャーリーは使いたいだろうからな。
「……それにしても」
初日の朝から怒涛の展開だったな。
だけど、なんとかやっていけそう。
そんなことも実感する。
そうして、お昼の時間を過ごした。
★
「ふあ~あ。……って、あれ?」
真上から降り注いでいた陽の光が、やや西から差し込んでいることで時間の経過を感じる。
大体三時ぐらいってところかな。
「みんなは……うわっ!」
隣を見ると、ほんの少し口を開けて気持ちよさそうに寝息を立てるシャーリー。
俺たちが枕にしていたのは、フェンリルのお腹部分だ。
そっか、一旦お昼寝をしようって話になったんだった。
「起きたのだな」
「あ、うん。なんか自然に」
「シャーリーはよく寝ておるな」
「だね」
シャーリーが昼寝をする姿は珍しい……というか、見たのは初めてかも。
メイドであり仕事人の彼女は、王城内では常に働いている状態だった。
休憩はもらっていたけど、城内では気が抜けなかったのかもしれない。
「……ふふっ」
そんな彼女が、ここまでリラックスして寝ているなんて。
気を張り続けた疲れもあったのだろうけど、連れて来て良かったかもな。
心からそう思えた。
「イタズラしちゃえ、うりうり」
こんな機会は二度とないかもしれないので、頬を突っついてみる。
ほんのちょっとよだれなんか出しちゃって、可愛い奴め。
「んぅ」
やば、起こしたか?
「……すー、すー」
セーフ。
こんな森にまで付いて来てくれたシャーリー。
俺が、全力で支えてやらないとな。
でも今は眠っているし、邪魔しない様にその辺でも散策するとしよう。
「シャーリーを頼む」
「うむ」
最強の用心棒に頼んで、俺は散歩を始めた。
「うーん」
今一度、改めて生活について考えてみる。
今のところ、衣食住は充実している。
となれば、より快適にする事を考えたいのだけど、
「日常生活って、何してるっけ……」
俺と言えば魔法の研究に修行。
……って、違う違う。
シャーリーも含めて考えなければ。
細かいのは省くとして、寝る、ご飯を食べる……
「あ!」
そうして、一つの答えに辿り着く。
来た時から感じていた、足元の“妙な暖かさ”。
俺は地面に手を付き、魔力経由で地中の情報を探る。
そして感じる。
「本当にあった!」
俺の仮説は見事にヒット。
“あれ”が地下深くに存在している。
人が毎日することで、シャーリーが大好きな源である“あれ”だ。
「となると……待てよ」
地中から“あれ”を引き、魔法でコントロール、周りを固めれば……。
発想から理論を構築。
俺が最も得意とすることだ。
「うん、出来る。出来るぞ!」
俺は成功を確信した。
「じゃあ早速!」
俺はそれを伝えるため、フェンリルとシャーリーの元へ急いで戻った。
昼寝をしていた場所に走って戻ると、シャーリーがちょうど目をこすっていた。
今起きたのかな?
「おはよう、シャーリー」
「エアル……! み、見た?」
「見たって、昼寝のこと?」
俺が聞き返すと、シャーリーはこくこくと首を縦に振る。
「そりゃ見──」
「見てないわよね!」
「……見てないです」
「よし」
強制的に事実を捻じ曲げられた。
昼寝の顔がそんなにNGだったのかな……あ、よだれの話か。
これを聞き返すほどデリカシーがないわけでないので、ここでやめておく。
「それで、何かあったの? 走ってきたみたいだったけど」
「おっ、そうなんだよ」
シャーリーが聞いてくれたので、自然とこの話題になる。
俺が伝えたかった“あれ”についてだ。
俺が思いっきりドヤ顔を決めると、「また何か企んでるよ」って顔を向けてくるシャーリー。
そんな怪訝な顔をしていられるのも今の内だぞ。
「聞いて驚くなよ?」
俺は、“あれ”についての説明を始める。
シャーリーもフェンリルさんも、俺の話を聞けば聞くほど、興味を示し続ける。
なんたって“あれ”は至高だからな。
そうして俺の話が終わった頃には、
「エアル! お願い! 今すぐに作って!」
「我も入ってみたいぞ!」
めっっっちゃ食いついていた。
はっはっは、予想通り、いやそれ以上の反応だな。
二人も良さに気づいてくれて良かったよ。
シャーリーは、お風呂が大好きだ。
では、俺の考えていた“あれ”とは。
俺は二人を前に、満を持して高らかに宣言した。
「俺はここに……温泉を作るぞ!」
俺とシャーリーはいつも通りに手を合わせた。
あ~、美味しかった!
相変わらず俺の胃袋を掴んだシャーリーの料理。
そこに、モグりんの魔力操作による野菜と、手が加えられたサラダが加わった。
初の森での食事は大満足だ!
「「……」」
「ん?」
だが、魔獣サイド二匹は不思議な顔でこちらを見ている。
「あ~」
少しして、ようやくその理由が分かった。
二匹は人間独自の文化である『ごちそうさま』が不思議だったのだろう。
必ずしも真似る必要はないと思う。
でもせっかくなら教えてあげよう。
「これは『ごちそうさま』って言うんだ」
「ごちそうさま……ですか」
「そう! この言葉には、作ってもらった人や食材に感謝が込められているんだよ」
「感謝が……!」
ハッとしたようなモグりんに対して、言葉を付け加えた。
「だから食材にはもちろん、モグりんにも“ありがとう”って言ってるんだよ」
「そうだったのですか……! どういたしましてです!」
ぱあっと嬉しそうな顔を見せたモグりん。
それから、自分でも両手を合わせる。
「では私も! 食材さん、シャーリーさん、ごちそうさまでした」
「我もだ。ごちそうさまでした」
二匹が拙いながらも『ごちそうさま』をした。
「うんうん!」
その姿にはシャーリーが嬉しそうだ。
魔獣と人間がすぐにこんなにも仲良くなれる、料理って素晴らしいね。
そしてやはり、シャーリーは気になるようで。
「モグりん。私にも野菜の魔力操作、教えてくれる?」
「もちろんです! シャーリーさんも師匠と同じぐらい、料理がお上手みたいなので!」
「──! 同じぐらいですって……?」
だが、まずい。
モグりんが地雷を踏んだ。
「わたしと同じぐらいかあ。ふーん」
「あれ、私何か変な事を……?」
「別に?」
モグりんに決して悪気はない。
しかし、シャーリーが大得意とする料理で、“同じぐらい”という単語が引っ掛かってしまったみたい。
今の彼女は、ライバル心が芽生えた目をしている。
ここは強引に話題を変えなければ!
「そ、そういえば! モグりんはこの辺に住んでいるの?」
「えっとですね。って言われて思い出しました!」
「ん?」
その質問には答えず、モグりんはそそくさとドングリを集め始めた。
「そろそろ帰らないと!」
「え」
「すみませんシャーリーさん、魔力操作はまた今度に! では!」
「……あ」
そうして気づいた時には、ぴゅーっと走って行ってしまう。
「そ、そんな……」
シャーリーは残念そうにうなだれた。
でもまあ、原理だけは聞いておいてよかった。
俺はシャーリーに手を差し伸べる。
「大丈夫だよ、俺にもなんとなくなら分かると思う」
「ほんと!?」
「うん。俺でよければ教えるよ」
「エアル! ありがとう……!」
せっかくこの森の食材の「野菜自体が変わる」という特性を使えるのなら、シャーリーは使いたいだろうからな。
「……それにしても」
初日の朝から怒涛の展開だったな。
だけど、なんとかやっていけそう。
そんなことも実感する。
そうして、お昼の時間を過ごした。
★
「ふあ~あ。……って、あれ?」
真上から降り注いでいた陽の光が、やや西から差し込んでいることで時間の経過を感じる。
大体三時ぐらいってところかな。
「みんなは……うわっ!」
隣を見ると、ほんの少し口を開けて気持ちよさそうに寝息を立てるシャーリー。
俺たちが枕にしていたのは、フェンリルのお腹部分だ。
そっか、一旦お昼寝をしようって話になったんだった。
「起きたのだな」
「あ、うん。なんか自然に」
「シャーリーはよく寝ておるな」
「だね」
シャーリーが昼寝をする姿は珍しい……というか、見たのは初めてかも。
メイドであり仕事人の彼女は、王城内では常に働いている状態だった。
休憩はもらっていたけど、城内では気が抜けなかったのかもしれない。
「……ふふっ」
そんな彼女が、ここまでリラックスして寝ているなんて。
気を張り続けた疲れもあったのだろうけど、連れて来て良かったかもな。
心からそう思えた。
「イタズラしちゃえ、うりうり」
こんな機会は二度とないかもしれないので、頬を突っついてみる。
ほんのちょっとよだれなんか出しちゃって、可愛い奴め。
「んぅ」
やば、起こしたか?
「……すー、すー」
セーフ。
こんな森にまで付いて来てくれたシャーリー。
俺が、全力で支えてやらないとな。
でも今は眠っているし、邪魔しない様にその辺でも散策するとしよう。
「シャーリーを頼む」
「うむ」
最強の用心棒に頼んで、俺は散歩を始めた。
「うーん」
今一度、改めて生活について考えてみる。
今のところ、衣食住は充実している。
となれば、より快適にする事を考えたいのだけど、
「日常生活って、何してるっけ……」
俺と言えば魔法の研究に修行。
……って、違う違う。
シャーリーも含めて考えなければ。
細かいのは省くとして、寝る、ご飯を食べる……
「あ!」
そうして、一つの答えに辿り着く。
来た時から感じていた、足元の“妙な暖かさ”。
俺は地面に手を付き、魔力経由で地中の情報を探る。
そして感じる。
「本当にあった!」
俺の仮説は見事にヒット。
“あれ”が地下深くに存在している。
人が毎日することで、シャーリーが大好きな源である“あれ”だ。
「となると……待てよ」
地中から“あれ”を引き、魔法でコントロール、周りを固めれば……。
発想から理論を構築。
俺が最も得意とすることだ。
「うん、出来る。出来るぞ!」
俺は成功を確信した。
「じゃあ早速!」
俺はそれを伝えるため、フェンリルとシャーリーの元へ急いで戻った。
昼寝をしていた場所に走って戻ると、シャーリーがちょうど目をこすっていた。
今起きたのかな?
「おはよう、シャーリー」
「エアル……! み、見た?」
「見たって、昼寝のこと?」
俺が聞き返すと、シャーリーはこくこくと首を縦に振る。
「そりゃ見──」
「見てないわよね!」
「……見てないです」
「よし」
強制的に事実を捻じ曲げられた。
昼寝の顔がそんなにNGだったのかな……あ、よだれの話か。
これを聞き返すほどデリカシーがないわけでないので、ここでやめておく。
「それで、何かあったの? 走ってきたみたいだったけど」
「おっ、そうなんだよ」
シャーリーが聞いてくれたので、自然とこの話題になる。
俺が伝えたかった“あれ”についてだ。
俺が思いっきりドヤ顔を決めると、「また何か企んでるよ」って顔を向けてくるシャーリー。
そんな怪訝な顔をしていられるのも今の内だぞ。
「聞いて驚くなよ?」
俺は、“あれ”についての説明を始める。
シャーリーもフェンリルさんも、俺の話を聞けば聞くほど、興味を示し続ける。
なんたって“あれ”は至高だからな。
そうして俺の話が終わった頃には、
「エアル! お願い! 今すぐに作って!」
「我も入ってみたいぞ!」
めっっっちゃ食いついていた。
はっはっは、予想通り、いやそれ以上の反応だな。
二人も良さに気づいてくれて良かったよ。
シャーリーは、お風呂が大好きだ。
では、俺の考えていた“あれ”とは。
俺は二人を前に、満を持して高らかに宣言した。
「俺はここに……温泉を作るぞ!」