「「料理!?」」
また人間らしいその言葉に、思わずシャーリーとハモる。
「本当にそんなことが出来るのか?」
「はい! 私の“得意技”と、この野菜を使えば出来ます! それに料理の師匠もいますので!」
「へえ……」
“得意技”ってなんだろう。
料理とはまた違うのかな?
そもそも、料理という概念があることが意外だけど。
それに“料理の師匠”とも言ったか。
ならばやはり、この森にはそれなりに生物が生息しているのかな。
俺はその疑問を払拭するよう、フェンリルさんの方へ振り返る。
「フェンリルは師匠については知らないの?」
「知らないな。サラダは時々モグりんこやつに作ってもらうがな」
「そうなんだ」
そんな会話に、モグりんがケモ耳をぴょこんと立てて反応を示す。
「今度フェンリルさんにも紹介しますよ!」
「そうか。それは助かる」
二人は本当に仲が良さそうだ。
それはそれとして、料理かあ。
考えるとお腹が……ぐう~。
「あ」
「もう、エアルったら」
「ははっ。わるいわるい」
空腹が示すように、時間帯はちょうどお昼頃。
タイミング的にはぴったりかもしれない。
「じゃあ、モグりん。お願いしてもいい?」
「任せてください!」
モグりんは早速準備に取り掛かった。
「見れば見るほどに、瑞々しいなあ」
モグりんにお願いしてから少し。
シャーリーは森の料理に興味津々なようなので、俺とフェンリルさんで野菜を集めている。
「そうであろう」
「うん。こんなの見たことないよ」
俺は手元の野菜をまじまじと見つめる。
明るい黄緑色をした球状の野菜だ。
レタスだね。
だけど、何度見てもその質に違いには驚かされる。
周りを覆う葉の部分には艶が出ていて、濡れているわけではないのにキラキラと輝いて見える。
これも濃厚な魔力の影響なのかな。
光っていたらどうってわけではないけど、やはり見た目が良いと食欲は湧く。
これを見てたら……ついやりたくなっちゃうよね。
「うーん! おいしい!」
「つまみ食いか、エアルよ」
「仕方ないじゃん」
俺はパリっと一口いったのだ。
これを前にして、つまみ食いをしない方が失礼だと思う。
だがフェンリルさんは、そんな俺を見てニヤリとした表情を見せた。
「それだけではないがな」
「え? それってどういう……?」
「今に見ておくがよい」
「ふーん?」
何やら意味がありそうだ。
フェンリルさんの意味深な発言は、すぐに理解することになる。
そんな会話もしつつ、俺たちはモグりんが料理をしている場所へ戻ってきた。
「おーい、持ってきたぞー」
「ねえ、エアル!」
すると、シャーリーが大興奮していた。
「モグりんったらすごいのよ!」
「?」
さっきまで怯えていたシャーリーだけど、モグりんともうまく馴染めたらしい。
彼女の単純さは嫌いじゃない。
そんなことを考えながらも、シャーリーの言葉に耳を傾ける。
「モグりんったら、野菜を変化させるの!」
「えっへん!」
「……?」
モグりんが両腕を腰に当てる。
だが、言っている意味が分からなかった。
変化とはどういうことなんだろう。
それに答えるよう、モグりんは再び野菜に手を付けた。
俺が収穫してきたレタスだ。
「では実践して見せましょう!」
「お、おう」
そして、
「ぐぬぬぬ……」
小さな両手で野菜を包むように持つ。
どうやら『魔力』を込めているようだ。
魔力を送って内部から性質を変えているような、そんな感じ。
そうして、ものの十秒ほどが経った頃。
モグりんは両手で野菜を掲げた。
「出来ました!」
「……え?」
見ているだけでは何をしたか分からなかった。
だけど、野菜は若干明るみが増したようにも見える。
「どうぞ」
「食べれば良いの?」
「ぜひ!」
「……」
俺は半信半疑ながらも、球状の葉をちぎる。
あれ、さっきよりも手応えがある?
「……!」
そして気づく。
むしゃりと一口いった瞬間、さっきよりも少し歯ごたえがあったのだ。
さらに味も少し違っていた。
「というか!」
この味、この硬さ。
これじゃまるで──
「キャベツじゃないか!」
俺はそう口にした。
乗っかるようにシャーリーも声を上げる。
「そうなのよ! モグりんは野菜自体を変えてしまうのよ!」
「そんなことが……?」
不思議に思うが、モグりんの次の一言で納得がいく。
「この野菜を形作る、魔力の質を変えたのです」
「魔力の質……あ、ああー!」
この世界の生命は、全て魔力が元となって出来ている。
それは人や魔獣だけでなく、野菜などの植物も同じ。
前世で言う「水素」や「炭素」などの元素が、この世界では全て魔力なのだ。
なので、小さな魔力の粒がそれぞれ微妙に違う性質を持っていることで、魔力は水にも空気になる。
「……すごいな」
それを応用してレタスからキャベツにしたのか?
野菜そのものを変えてしまうなんて、俺にもなかった発想だ。
というのも、これはおそらく野菜の方も『変わりやすい性質』を持つ必要がある。
人間界で育てていた野菜では、到底出来なかっただろう。
「魔の大森林産だからか……」
この森の魔力で育った野菜。
その濃厚で上質な扱いやすい魔力を吸っているからこそ出来る事だと思う。
「魔力操作で野菜そのものを変化させる、か」
「そうだ。これがこの森で出来る野菜の特徴だ。さすがに、野菜から肉にするなんてことは出来ないがな」
さっき、フェンリルさんが「それだけではない」と言っていたのはこの特徴のことね。
たしかにこれは驚きだ。
「これなら……!」
この秘境の野菜、確かに絶品ではある。
だけど、実はそれほど種類が多くないんだ。
正直、何日も住んでいれば飽きてしまう可能性はある。
でも、一つの野菜から多種類に変化させられるとなると、話は別だ。
好みや気分で味・食感を細かく変えられるし、似た野菜の分は畑を増やす必要もない。
キャベツ・レタス・白菜、ピーマン・パプリカなど、似通った野菜はたった一種類を育てるだけで全て食べられるんだ。
「……!」
すごいな、魔の大森林。
すごいな、モグりん。
「我は出来ぬが、たまにモグりんがこうして味を変えてくれることで、我も同じ畑の野菜を食べ続けられるのだ」
「ああ、納得だよ」
モグりんの得意技──『魔力操作』は大いに役に立っているようだ。
それを見てか、ここでついに彼女が口を挟む。
「ねえねえ。私も、料理していい?」
我らがシェフ、シャーリーだ。
彼女は魔力操作はそれほど得意ではないけど、料理そのものが大得意である。
「ほう。お主は料理が出来るのか」
「シャーリーの料理はまじで美味しいんだぞ」
「私も食べてみたいです!」
それにはフェンリルさんやモグりんも興味深々。
ここに、人間と魔獣の共同作業が成立だ!
「モグりん、私の手伝いしてくれる?」
「任せて下さい!」
そんな二人の作業が開始される。
モグりんがシャーリーの要望に応えるよう、様々な野菜へと変化させる。
それをシャーリーが、持ってきていた肉や、調味料と共に味をつけていく。
そうして、
「出来た!」
「出来ました!」
森に来てから初めてのお昼ご飯。
「豚肉とキャベツの甘辛炒め、と──」
「レタスの和風サラダです!」
それは森の中とは思えない料理だった!
また人間らしいその言葉に、思わずシャーリーとハモる。
「本当にそんなことが出来るのか?」
「はい! 私の“得意技”と、この野菜を使えば出来ます! それに料理の師匠もいますので!」
「へえ……」
“得意技”ってなんだろう。
料理とはまた違うのかな?
そもそも、料理という概念があることが意外だけど。
それに“料理の師匠”とも言ったか。
ならばやはり、この森にはそれなりに生物が生息しているのかな。
俺はその疑問を払拭するよう、フェンリルさんの方へ振り返る。
「フェンリルは師匠については知らないの?」
「知らないな。サラダは時々モグりんこやつに作ってもらうがな」
「そうなんだ」
そんな会話に、モグりんがケモ耳をぴょこんと立てて反応を示す。
「今度フェンリルさんにも紹介しますよ!」
「そうか。それは助かる」
二人は本当に仲が良さそうだ。
それはそれとして、料理かあ。
考えるとお腹が……ぐう~。
「あ」
「もう、エアルったら」
「ははっ。わるいわるい」
空腹が示すように、時間帯はちょうどお昼頃。
タイミング的にはぴったりかもしれない。
「じゃあ、モグりん。お願いしてもいい?」
「任せてください!」
モグりんは早速準備に取り掛かった。
「見れば見るほどに、瑞々しいなあ」
モグりんにお願いしてから少し。
シャーリーは森の料理に興味津々なようなので、俺とフェンリルさんで野菜を集めている。
「そうであろう」
「うん。こんなの見たことないよ」
俺は手元の野菜をまじまじと見つめる。
明るい黄緑色をした球状の野菜だ。
レタスだね。
だけど、何度見てもその質に違いには驚かされる。
周りを覆う葉の部分には艶が出ていて、濡れているわけではないのにキラキラと輝いて見える。
これも濃厚な魔力の影響なのかな。
光っていたらどうってわけではないけど、やはり見た目が良いと食欲は湧く。
これを見てたら……ついやりたくなっちゃうよね。
「うーん! おいしい!」
「つまみ食いか、エアルよ」
「仕方ないじゃん」
俺はパリっと一口いったのだ。
これを前にして、つまみ食いをしない方が失礼だと思う。
だがフェンリルさんは、そんな俺を見てニヤリとした表情を見せた。
「それだけではないがな」
「え? それってどういう……?」
「今に見ておくがよい」
「ふーん?」
何やら意味がありそうだ。
フェンリルさんの意味深な発言は、すぐに理解することになる。
そんな会話もしつつ、俺たちはモグりんが料理をしている場所へ戻ってきた。
「おーい、持ってきたぞー」
「ねえ、エアル!」
すると、シャーリーが大興奮していた。
「モグりんったらすごいのよ!」
「?」
さっきまで怯えていたシャーリーだけど、モグりんともうまく馴染めたらしい。
彼女の単純さは嫌いじゃない。
そんなことを考えながらも、シャーリーの言葉に耳を傾ける。
「モグりんったら、野菜を変化させるの!」
「えっへん!」
「……?」
モグりんが両腕を腰に当てる。
だが、言っている意味が分からなかった。
変化とはどういうことなんだろう。
それに答えるよう、モグりんは再び野菜に手を付けた。
俺が収穫してきたレタスだ。
「では実践して見せましょう!」
「お、おう」
そして、
「ぐぬぬぬ……」
小さな両手で野菜を包むように持つ。
どうやら『魔力』を込めているようだ。
魔力を送って内部から性質を変えているような、そんな感じ。
そうして、ものの十秒ほどが経った頃。
モグりんは両手で野菜を掲げた。
「出来ました!」
「……え?」
見ているだけでは何をしたか分からなかった。
だけど、野菜は若干明るみが増したようにも見える。
「どうぞ」
「食べれば良いの?」
「ぜひ!」
「……」
俺は半信半疑ながらも、球状の葉をちぎる。
あれ、さっきよりも手応えがある?
「……!」
そして気づく。
むしゃりと一口いった瞬間、さっきよりも少し歯ごたえがあったのだ。
さらに味も少し違っていた。
「というか!」
この味、この硬さ。
これじゃまるで──
「キャベツじゃないか!」
俺はそう口にした。
乗っかるようにシャーリーも声を上げる。
「そうなのよ! モグりんは野菜自体を変えてしまうのよ!」
「そんなことが……?」
不思議に思うが、モグりんの次の一言で納得がいく。
「この野菜を形作る、魔力の質を変えたのです」
「魔力の質……あ、ああー!」
この世界の生命は、全て魔力が元となって出来ている。
それは人や魔獣だけでなく、野菜などの植物も同じ。
前世で言う「水素」や「炭素」などの元素が、この世界では全て魔力なのだ。
なので、小さな魔力の粒がそれぞれ微妙に違う性質を持っていることで、魔力は水にも空気になる。
「……すごいな」
それを応用してレタスからキャベツにしたのか?
野菜そのものを変えてしまうなんて、俺にもなかった発想だ。
というのも、これはおそらく野菜の方も『変わりやすい性質』を持つ必要がある。
人間界で育てていた野菜では、到底出来なかっただろう。
「魔の大森林産だからか……」
この森の魔力で育った野菜。
その濃厚で上質な扱いやすい魔力を吸っているからこそ出来る事だと思う。
「魔力操作で野菜そのものを変化させる、か」
「そうだ。これがこの森で出来る野菜の特徴だ。さすがに、野菜から肉にするなんてことは出来ないがな」
さっき、フェンリルさんが「それだけではない」と言っていたのはこの特徴のことね。
たしかにこれは驚きだ。
「これなら……!」
この秘境の野菜、確かに絶品ではある。
だけど、実はそれほど種類が多くないんだ。
正直、何日も住んでいれば飽きてしまう可能性はある。
でも、一つの野菜から多種類に変化させられるとなると、話は別だ。
好みや気分で味・食感を細かく変えられるし、似た野菜の分は畑を増やす必要もない。
キャベツ・レタス・白菜、ピーマン・パプリカなど、似通った野菜はたった一種類を育てるだけで全て食べられるんだ。
「……!」
すごいな、魔の大森林。
すごいな、モグりん。
「我は出来ぬが、たまにモグりんがこうして味を変えてくれることで、我も同じ畑の野菜を食べ続けられるのだ」
「ああ、納得だよ」
モグりんの得意技──『魔力操作』は大いに役に立っているようだ。
それを見てか、ここでついに彼女が口を挟む。
「ねえねえ。私も、料理していい?」
我らがシェフ、シャーリーだ。
彼女は魔力操作はそれほど得意ではないけど、料理そのものが大得意である。
「ほう。お主は料理が出来るのか」
「シャーリーの料理はまじで美味しいんだぞ」
「私も食べてみたいです!」
それにはフェンリルさんやモグりんも興味深々。
ここに、人間と魔獣の共同作業が成立だ!
「モグりん、私の手伝いしてくれる?」
「任せて下さい!」
そんな二人の作業が開始される。
モグりんがシャーリーの要望に応えるよう、様々な野菜へと変化させる。
それをシャーリーが、持ってきていた肉や、調味料と共に味をつけていく。
そうして、
「出来た!」
「出来ました!」
森に来てから初めてのお昼ご飯。
「豚肉とキャベツの甘辛炒め、と──」
「レタスの和風サラダです!」
それは森の中とは思えない料理だった!