橋の向こうの君は…

 次の日の昼前。いつもどおり公園で読書しようと訪れていた。
「あ……桜子さん。こんにちは。」
「こんに、ちは、ゆうとさん。」
 小鳥の囀りのような声で返す。
『持っているのは、なんですか?』
『本ですよ。僕、読書が好きでよく読むんです。』
『私も、読書好きです。家の図書室の本を全部読んでしまって。それに、今はもう……』
 家に図書室……どういう状況なのか分からないが、強いて言うなら「お嬢様」なのだろう。
『そうなんですね。……なら貸しましょうか?もっと簡単な日本語の本がありますから。』
 無意識に桜子と話す口実を作りたかったのかもしれない。昨日会ったばかりの少女にこんな提案して、気持ち悪いだろうか。
『……良いのですか?!』
『構いません。むしろ……いや何でもありません。』
 そこまで言ってやめてしまった。
『あの……その、私に日本語を教えてくださいませんか?』
 あっけらかんとしてしまった。なんだか少し面白くなって笑ってみる。
『わ、我儘ですよね。すみません、欲張りがすぎました。』
『いやいやそんな。僕で良ければ全然。』
『ありがとうございます……!』
 桜子が笑っているとなぜかとても安心した。あの、なんの希望も無い虚ろな瞳の彼女を知っているからだろうか。それにしても彼女のことを何も知らない。
『今度、出かけませんか?どこか、海浜公園とか……』
『海浜公園?初めて聞きました。』
『行ってみますか?』
 言葉にはしないが、興味がありそうだ。
『明日また来ますから、予定確認しといてください。』
『はい……!』
 彼女は桜の花びらのように柔らかく笑った。