「メ、メリット……で、ございますか? それは女神ヴィーナ再生後にヴィーナより何らかのお礼を……」
「ふんっ! バカバカしい……」
冷ややかな薄笑いをたたえたヴェルゼウスは、愚かさに呆れたかのように、ゆっくりと首を振った。
「ヴィーナは自滅した。そしたら奴の世界も全部破棄。それがこの宇宙のルールだ。なぜ俺が再生などやらねばならんのだ?」
ヴェルゼウスは肩をすくめ、お付きの男たちは不吉な旋律を奏でるようにゲラゲラと笑い声を響かせる。
「我々の世界には数兆人の人がいて、無数の豊かな文化を実現しております。これらの一部の導入でもヴェルゼウス様にはメリットになるかと……」
必死に弁明する大天使。しかし、これは逆効果だった。
「くだらん!」
ヴェルゼウスは激高すると杖で床をガン! と突く。
「ヴィーナのところの文化など認めん! 文化であればうちの方がよほど豊かで高尚だ! 実に不愉快だ!」
ピシャーン!
まるで天が裂けるかのような轟きとともに、稲妻が猛烈な勢いで落ち、地面がその衝撃に揺れ動く。
静まり返るチャペル――――。
くっ……。
大天使は下唇を噛み、頭を垂れた。
六十万年の時を超えた偉大な文化と、数兆にも及ぶ命の結晶が、今、滅びの淵に立たされている。スタッフたちは追い詰められて言葉を失い、ただ震えるばかりだった。
震えるレヴィアの指がオディールの腕に絡みつき、その涙ぐんだ真紅の瞳が切ない訴えを浮かべる。オディールはその潤んだ眼差しを優しく受け止め、手をやさしくなでながらうなずく。
ふぅと大きく息をついたオディールは凛とした姿勢で立ち上がり、手を上げる。
「あのぉ、ちょっとよろしいでしょうか?」
「なんだ? 小娘」
ヴェルゼウスがオディールの方を向き、眉をピクッと動かす。その目には荒れ狂う海のような激しい不機嫌さが宿っていた。
「アンノウンはこちらの世界の力を使って動いている形跡があります」
微笑みをたたえながら淡々と核心を突いたオディールに、大天使は焦りにかられて立ち上がり、彼女の口を塞ごうと手を伸ばした。
「ちょっと! お前それは……」
「邪魔するな!」
ヴェルゼウスは雷鳴の如く怒声を轟かせて大天使を制止する。
「小娘……。我らの陰謀……とでもいうのか?」
冷ややかな笑みでオディールに聞く、落ち着いた声の裏には不穏な響きが含まれていた。
「いえ、とんでもないです。ただ、この世界の力を使っている以上、アンノウンもここに来ちゃう可能性があるかなぁって」
「は? この世界もそいつにやられることを心配しとるのか? はははっ! これは傑作だ!」
ヴェルゼウスは、傲慢さあふれる嗤いを振りまき、従者たちもすぐさまその嘲笑に呼応し、陰湿な合唱のようにゲラゲラと低い笑い声を響かせた。
「女神ヴィーナですら殺されたんですよ? ちゃんとした対策が必……」
刹那、ヴェルゼウスの杖が石造りの床を打ち砕き、衝撃音がチャペル内に響き渡った。
「おい……小娘……。俺をヴィーナと同列に語るんじゃねーぞ……」
緊張が刃のように空間を切り裂く中、ヴェルゼウスの目は雷鳴を内包した嵐の前触れのようにオディールを睨みつける。
その獰猛なまなざしは、ヴィーナと彼の間にただならぬ確執があることを物語っていた。
オディールは、その激しい視線を避けるかのように、静かに宙を仰ぐ。
「ヴェルゼウス様、彼女はまだ見習のスタッフでして……」
大天使は必死に取り繕う。
と、その時、オディールは目の端に黒い影が横切るのに気がついた。
「あ、あいつ……」
オディールは、満開の金色の花々の中で弾けるように跳ねる影の幼児に目を奪われ、静かな興奮を込めて指を差した。
「いた! いました。あいつですよ。アンノウン」
「何ぃ?」
ヴェルゼウスは怪訝な表情で指さす先を凝視した。そこには、世にも奇怪な影が踊っている。
ステータスを呼び出せば、目に映ったのは混沌とした数値群。この世の秩序を乱す禁忌のバグから誕生した怪物だった。
「はっ! あんな奴にヴィーナは殺されたのか? はっはっは! 何と間抜けな最期だよ!」
「お気をつけください。ああ見えて手ごわいので……」
オディールは恐る恐る声をかける。
「小娘……、バカにすんなよ? あんなのは瞬殺だ!」
ヴェルゼウスの顔は憤怒で歪んだ。
「も、もし、討ち漏らしがあれば僕たちの方で処理してもいいですよね?」
オディールは気迫に押しつぶされそうになりながら声を絞り出す。
「勝手にしろ。だが、このワシが討ち漏らすなど万に一つもないのだ! ハッ!」
ヴェルゼウスの掌からは幻想的なオーラが発せられ、不思議な力の渦がアンノウンへと突き進む。
直後、アンノウンの周囲が揺れ、空間が海の波のようにうねり出した。続いて渦巻く力が空間を引き裂き、空間そのものがねじれながら渦を巻いていく。アンノウンはその混沌から逃れんと奮闘するが、空間のゆがみは彼を捉え、逃げ道を塞いだ。
「ふんっ! バカバカしい……」
冷ややかな薄笑いをたたえたヴェルゼウスは、愚かさに呆れたかのように、ゆっくりと首を振った。
「ヴィーナは自滅した。そしたら奴の世界も全部破棄。それがこの宇宙のルールだ。なぜ俺が再生などやらねばならんのだ?」
ヴェルゼウスは肩をすくめ、お付きの男たちは不吉な旋律を奏でるようにゲラゲラと笑い声を響かせる。
「我々の世界には数兆人の人がいて、無数の豊かな文化を実現しております。これらの一部の導入でもヴェルゼウス様にはメリットになるかと……」
必死に弁明する大天使。しかし、これは逆効果だった。
「くだらん!」
ヴェルゼウスは激高すると杖で床をガン! と突く。
「ヴィーナのところの文化など認めん! 文化であればうちの方がよほど豊かで高尚だ! 実に不愉快だ!」
ピシャーン!
まるで天が裂けるかのような轟きとともに、稲妻が猛烈な勢いで落ち、地面がその衝撃に揺れ動く。
静まり返るチャペル――――。
くっ……。
大天使は下唇を噛み、頭を垂れた。
六十万年の時を超えた偉大な文化と、数兆にも及ぶ命の結晶が、今、滅びの淵に立たされている。スタッフたちは追い詰められて言葉を失い、ただ震えるばかりだった。
震えるレヴィアの指がオディールの腕に絡みつき、その涙ぐんだ真紅の瞳が切ない訴えを浮かべる。オディールはその潤んだ眼差しを優しく受け止め、手をやさしくなでながらうなずく。
ふぅと大きく息をついたオディールは凛とした姿勢で立ち上がり、手を上げる。
「あのぉ、ちょっとよろしいでしょうか?」
「なんだ? 小娘」
ヴェルゼウスがオディールの方を向き、眉をピクッと動かす。その目には荒れ狂う海のような激しい不機嫌さが宿っていた。
「アンノウンはこちらの世界の力を使って動いている形跡があります」
微笑みをたたえながら淡々と核心を突いたオディールに、大天使は焦りにかられて立ち上がり、彼女の口を塞ごうと手を伸ばした。
「ちょっと! お前それは……」
「邪魔するな!」
ヴェルゼウスは雷鳴の如く怒声を轟かせて大天使を制止する。
「小娘……。我らの陰謀……とでもいうのか?」
冷ややかな笑みでオディールに聞く、落ち着いた声の裏には不穏な響きが含まれていた。
「いえ、とんでもないです。ただ、この世界の力を使っている以上、アンノウンもここに来ちゃう可能性があるかなぁって」
「は? この世界もそいつにやられることを心配しとるのか? はははっ! これは傑作だ!」
ヴェルゼウスは、傲慢さあふれる嗤いを振りまき、従者たちもすぐさまその嘲笑に呼応し、陰湿な合唱のようにゲラゲラと低い笑い声を響かせた。
「女神ヴィーナですら殺されたんですよ? ちゃんとした対策が必……」
刹那、ヴェルゼウスの杖が石造りの床を打ち砕き、衝撃音がチャペル内に響き渡った。
「おい……小娘……。俺をヴィーナと同列に語るんじゃねーぞ……」
緊張が刃のように空間を切り裂く中、ヴェルゼウスの目は雷鳴を内包した嵐の前触れのようにオディールを睨みつける。
その獰猛なまなざしは、ヴィーナと彼の間にただならぬ確執があることを物語っていた。
オディールは、その激しい視線を避けるかのように、静かに宙を仰ぐ。
「ヴェルゼウス様、彼女はまだ見習のスタッフでして……」
大天使は必死に取り繕う。
と、その時、オディールは目の端に黒い影が横切るのに気がついた。
「あ、あいつ……」
オディールは、満開の金色の花々の中で弾けるように跳ねる影の幼児に目を奪われ、静かな興奮を込めて指を差した。
「いた! いました。あいつですよ。アンノウン」
「何ぃ?」
ヴェルゼウスは怪訝な表情で指さす先を凝視した。そこには、世にも奇怪な影が踊っている。
ステータスを呼び出せば、目に映ったのは混沌とした数値群。この世の秩序を乱す禁忌のバグから誕生した怪物だった。
「はっ! あんな奴にヴィーナは殺されたのか? はっはっは! 何と間抜けな最期だよ!」
「お気をつけください。ああ見えて手ごわいので……」
オディールは恐る恐る声をかける。
「小娘……、バカにすんなよ? あんなのは瞬殺だ!」
ヴェルゼウスの顔は憤怒で歪んだ。
「も、もし、討ち漏らしがあれば僕たちの方で処理してもいいですよね?」
オディールは気迫に押しつぶされそうになりながら声を絞り出す。
「勝手にしろ。だが、このワシが討ち漏らすなど万に一つもないのだ! ハッ!」
ヴェルゼウスの掌からは幻想的なオーラが発せられ、不思議な力の渦がアンノウンへと突き進む。
直後、アンノウンの周囲が揺れ、空間が海の波のようにうねり出した。続いて渦巻く力が空間を引き裂き、空間そのものがねじれながら渦を巻いていく。アンノウンはその混沌から逃れんと奮闘するが、空間のゆがみは彼を捉え、逃げ道を塞いだ。