「な、なんだ……、コレは……」
追いついてきた大天使も目の前に広がる未知の奇観に息をのんだ。
「あの実は食べられるんですかね?」
オディールの目は期待に満ちて輝いていたが、大天使は静かに首を横に振った。
「お前は余計なことをするなよ? イミグレーションで……」
そんなお小言をこぼす大天使を尻目に、オディールは好奇心に駆られてかけだした。
「おい待て!」
「きゃははは! そーれっ!」
オディールは無邪気な笑顔で、重そうに垂れ下がっているビーチボール大の白い果実に飛びついた。その果実は幻想的な光を放ち、果物というよりもむしろ一つの宝石のようである。また、滑らかで硬質な表面を持ち、触れると温かく岩のように堅牢だった。
どっせい!
オディールはそのまま力任せに果実をもぎ取って着地したが、その果実の予想外の重さに手が滑り、床に落ちて転がり始めた。
あっ!
コロコロと転がった果実は緩やかな傾斜を加速しながら落ちていき、そのまま岩に激突する。
グシャ!
嫌な音が空洞に響き渡り、見ていたみんなは青くなる。
「あぁっ!」「何やってんだお前は!」「あわわわわ……」
オディールは慌てて駆けよって息を呑み、そのヒビの入った果実に手を伸ばすと慎重に持ち上げた。
すると、彼女の掌の中でほんのりと熱を帯び、パキッ、パキッと内側から叩かれる力によって、殻が割れ始めた。驚くべきことにそれは果実ではなく、卵だったのだ。
「お前、危ないぞ、手放せ!」
大天使の声には緊迫感がこもり、切羽詰まって叫ぶが、オディールは子供のような無邪気な瞳で、その神秘的な孵化の様子に夢中になっていた。
「大丈夫ですってぇ。そろそろ生まれますよ!」
直後、力強い一撃が殻を弾き飛ばし、光の粒子が舞い散った。
一体何が出てくるのか、みんな固唾を飲んで見守る。
すると、漆黒の鱗に覆われた竜の子がゆっくりと卵から顔をのぞかせ、つぶらな真紅の瞳で眠たげに辺りを見回す。
「あれ? ここはどこじゃ?」
煌めく瞳を持つ竜の子は、オディールの姿を捉えると目を輝かせ、彼女の滑らかな肩に触れながら深い感情を込めて視線を交わした。
「ま、まさか、オ、オディール?。お主か? お主が助けてくれたんか!?」
大天使たちはいきなり話し出した竜の子に、驚きの表情を隠せない。こんな次元のはざまに生まれた存在は、何とオディールの知己だったのだ。
「あれ? レヴィア……、かな? ぼ、僕じゃないよ。助けたのは。久しぶりだね。こんなところで何やってんの?」
オディールは突如として現れたかつての友に温かな微笑みを送りながら、いつくしむように頭をなでた。
「何って……、我は殺されたんじゃ。それで、命のスープに溶けていって、このままじゃ消えてしまうと必死にあがいていたら……いきなり何かの力で引き上げられてここに出たんじゃ」
異空間で死んだら次元のはざまに産み落とされた、という摩訶不思議な話に一行は首をかしげる。
「じゃあ、この樹は命の樹……ってことかな?」
神秘的な力を発揮して見せた不思議な枝ぶりを繁らせる伝説の巨木を、オディールは畏敬の念とともに見上げた。
「それより……サイノンはどうなったんじゃ?」
「いや、それがね……。その、何て言うか……」
今の混沌とした状況を伝えようとしたオディールだったが、その絶望的な状況を表す言葉が見つからず、宙を見上げて固まってしまう。
すると、シアンの部下だった男性が前に出てくる。
「レヴィア……さんですね。復活されて何よりです。この度はシアン師が大変にご迷惑をおかけしました……」
シアンの野心的な計画とその悲劇的な帰結について、男性は重々しく、そして悔やむように語り始めた。
「あー、そ。あの方のやりそうなことじゃな。で、そのシアンを追いかけてきたという影の幼児。そりゃ蒼じゃろ。蒼が受精卵の向こうに行っちまって上位神の力を身に着けて暴走しとるんじゃろうな」
レヴィアは肩をすくめながら首を振った。シアンのやったシステムの不定動作を誘うやり方はハッカーがやるような禁じ手であり、副作用も大きく、一般には許されない。
「だとすると止めるには上位神の協力がいるってことだね?」
オディールはレヴィアの顔をのぞきこむ。
「まぁそうじゃろうな。しかし……、どうやって上位神にお願いしたものかじゃよなぁ」
「それは『サイノンへの協力を責めるような形にならないように』って事?」
「そうじゃ。上位神にとってみたら我々なんぞゲームのキャラクター同然じゃからな。メンツにかかわるような話をしたとたん抹殺されるじゃろう」
レヴィアは重いため息をついて首を振る。
「えーーっ! 中にはまともな上位神もいると……思うよ?」
「ん? お主、上位神に詳しいんか?」
「あ、いや、そんなことある訳ないじゃん。想像だけどね」
「想像で偉大なる神を語るな! 馬鹿もんが! 上位神との交渉には数兆人に及ぶ人々の未来がかかっておるんだぞ!」
大天使は怒鳴りつける。その瞳の奥には、重責の重みに耐え切れぬほどの焦燥が垣間見えた。
追いついてきた大天使も目の前に広がる未知の奇観に息をのんだ。
「あの実は食べられるんですかね?」
オディールの目は期待に満ちて輝いていたが、大天使は静かに首を横に振った。
「お前は余計なことをするなよ? イミグレーションで……」
そんなお小言をこぼす大天使を尻目に、オディールは好奇心に駆られてかけだした。
「おい待て!」
「きゃははは! そーれっ!」
オディールは無邪気な笑顔で、重そうに垂れ下がっているビーチボール大の白い果実に飛びついた。その果実は幻想的な光を放ち、果物というよりもむしろ一つの宝石のようである。また、滑らかで硬質な表面を持ち、触れると温かく岩のように堅牢だった。
どっせい!
オディールはそのまま力任せに果実をもぎ取って着地したが、その果実の予想外の重さに手が滑り、床に落ちて転がり始めた。
あっ!
コロコロと転がった果実は緩やかな傾斜を加速しながら落ちていき、そのまま岩に激突する。
グシャ!
嫌な音が空洞に響き渡り、見ていたみんなは青くなる。
「あぁっ!」「何やってんだお前は!」「あわわわわ……」
オディールは慌てて駆けよって息を呑み、そのヒビの入った果実に手を伸ばすと慎重に持ち上げた。
すると、彼女の掌の中でほんのりと熱を帯び、パキッ、パキッと内側から叩かれる力によって、殻が割れ始めた。驚くべきことにそれは果実ではなく、卵だったのだ。
「お前、危ないぞ、手放せ!」
大天使の声には緊迫感がこもり、切羽詰まって叫ぶが、オディールは子供のような無邪気な瞳で、その神秘的な孵化の様子に夢中になっていた。
「大丈夫ですってぇ。そろそろ生まれますよ!」
直後、力強い一撃が殻を弾き飛ばし、光の粒子が舞い散った。
一体何が出てくるのか、みんな固唾を飲んで見守る。
すると、漆黒の鱗に覆われた竜の子がゆっくりと卵から顔をのぞかせ、つぶらな真紅の瞳で眠たげに辺りを見回す。
「あれ? ここはどこじゃ?」
煌めく瞳を持つ竜の子は、オディールの姿を捉えると目を輝かせ、彼女の滑らかな肩に触れながら深い感情を込めて視線を交わした。
「ま、まさか、オ、オディール?。お主か? お主が助けてくれたんか!?」
大天使たちはいきなり話し出した竜の子に、驚きの表情を隠せない。こんな次元のはざまに生まれた存在は、何とオディールの知己だったのだ。
「あれ? レヴィア……、かな? ぼ、僕じゃないよ。助けたのは。久しぶりだね。こんなところで何やってんの?」
オディールは突如として現れたかつての友に温かな微笑みを送りながら、いつくしむように頭をなでた。
「何って……、我は殺されたんじゃ。それで、命のスープに溶けていって、このままじゃ消えてしまうと必死にあがいていたら……いきなり何かの力で引き上げられてここに出たんじゃ」
異空間で死んだら次元のはざまに産み落とされた、という摩訶不思議な話に一行は首をかしげる。
「じゃあ、この樹は命の樹……ってことかな?」
神秘的な力を発揮して見せた不思議な枝ぶりを繁らせる伝説の巨木を、オディールは畏敬の念とともに見上げた。
「それより……サイノンはどうなったんじゃ?」
「いや、それがね……。その、何て言うか……」
今の混沌とした状況を伝えようとしたオディールだったが、その絶望的な状況を表す言葉が見つからず、宙を見上げて固まってしまう。
すると、シアンの部下だった男性が前に出てくる。
「レヴィア……さんですね。復活されて何よりです。この度はシアン師が大変にご迷惑をおかけしました……」
シアンの野心的な計画とその悲劇的な帰結について、男性は重々しく、そして悔やむように語り始めた。
「あー、そ。あの方のやりそうなことじゃな。で、そのシアンを追いかけてきたという影の幼児。そりゃ蒼じゃろ。蒼が受精卵の向こうに行っちまって上位神の力を身に着けて暴走しとるんじゃろうな」
レヴィアは肩をすくめながら首を振った。シアンのやったシステムの不定動作を誘うやり方はハッカーがやるような禁じ手であり、副作用も大きく、一般には許されない。
「だとすると止めるには上位神の協力がいるってことだね?」
オディールはレヴィアの顔をのぞきこむ。
「まぁそうじゃろうな。しかし……、どうやって上位神にお願いしたものかじゃよなぁ」
「それは『サイノンへの協力を責めるような形にならないように』って事?」
「そうじゃ。上位神にとってみたら我々なんぞゲームのキャラクター同然じゃからな。メンツにかかわるような話をしたとたん抹殺されるじゃろう」
レヴィアは重いため息をついて首を振る。
「えーーっ! 中にはまともな上位神もいると……思うよ?」
「ん? お主、上位神に詳しいんか?」
「あ、いや、そんなことある訳ないじゃん。想像だけどね」
「想像で偉大なる神を語るな! 馬鹿もんが! 上位神との交渉には数兆人に及ぶ人々の未来がかかっておるんだぞ!」
大天使は怒鳴りつける。その瞳の奥には、重責の重みに耐え切れぬほどの焦燥が垣間見えた。