一行はレヴィアの空間跳躍で王都のレストランに来た――――。

「それじゃ、カンパーイ!」

 蒼は子供椅子から身を乗り出し、ミルクのコップを掲げた。

「カンパーイ!」「カンパーイ! 飲むぞーー!」

 歓喜に包まれたレヴィアは、ゴクゴクとジョッキのエールを飲み干し、その芳醇な余韻に酔いしれながら満足げにため息をついた。

「くーーっ! こんなジョッキじゃダメじゃ! おい、おネェちゃーん!」

 レヴィアはウェイトレスを呼ぶとエールの樽を丸ごとオーダーした。

「いや、あの、そんなに飲んだら……」

 蒼は恐る恐る言ったが、レヴィアは耳も貸さず、飢えた獣と化して骨付き肉に鋭い牙を剥き、無我夢中で食らいついた。その真紅の瞳はギラリと光り、甘辛いタレのたっぷりついた肉を骨ごとかみ砕く。

 ボリッボリッという恐ろしげな咀嚼(そしゃく)音が響き、周りの客がチラチラと視線を向ける。

「あー、美味い! こんなうまい食事は久しぶりじゃ! おい! おネェちゃん! 樽はまだか!」

 無邪気に暴走するレヴィアに蒼とムーシュは黙って顔を見合わせ、やれやれという感じで肩をすくめた。


        ◇


 三杯目の樽を傾けながら、絶好調に乗ってきたレヴィアは小声で蒼に切り出す。

「明日、サイノンを倒しに行くぞ」

「えっ!? 倒せるの?」

「おうよ! 一応準備は進めておったからな。それに倒せねばまた呪いをかけられる。先手必勝! 今度こそとっちめてやるんじゃ!」

「そ、そうなんだね。でもなんだか神々の戦いみたいでピンとこないなぁ……」

「何言っとるんじゃ! これはお主の呪いにも関わる話じゃぞ?」

 えっ!?

 蒼はいきなりの核心に迫る話に驚き、思わずこぼしたミルクがポタポタとテーブルに(したた)った。

「お主の呪いは青い髪の天使にかけられたと言っとったな? 彼女は大天使、シアン様じゃ」

「それは、有名な……方?」

「そりゃぁ……宇宙最強じゃからな……」

 レヴィアは深い溜息とともに、思い出したくない過去を背負うかのように顔を伏せる。そこには何か言い知れぬ因縁を感じ取れた。

「で、そのシアン様の呪いがどうしてサイノンと関係が?」

 蒼は全く関係ない話がどう結びつくのかさっぱり分からなかった。

『馬鹿ッ! 声が大きいわ!』

 レヴィアは急いで辺りを見回すと、テレパシーで伝えてくる。

『シアン様や女神様としてはサイノンは目の上のたんこぶ。なんとしても倒したいはずじゃ』

『え? そんなの自分たちで倒せばいいんじゃないの?』

『馬鹿じゃな、サイノンだってそんなのは分かり切っとるから、シアン様たちが動こうとすると察知して空間を畳んで逃げてしまうんじゃ。だからただの人間を秘かにけしかけとるんじゃよ』

『非力な僕らなら大丈夫だってこと?』

『まぁ、なめられたもんじゃな。じゃが、おかげで油断した奴を討ち取れる。さすればシアン様の目的も達成ということで晴れてお主も卒業じゃ』

『え……? なんで……?』

『察しが悪いのう。シアン様がお主をこの世界に送り込んだのはサイノンを倒させるためじゃ』

『は? じゃあなに、今まで僕がやってきたことってシアン様の筋書き通りって事? いやいやいや、そんな馬鹿なこと……』

 レヴィアとの壮絶な戦いを制したことまで天使の筋書き通りだなんて、蒼としてはとても認められない話だった。

『そうですよね? シアン様?』

 レヴィアはムーシュの方を向いてジト目で聞く。

『は? ムーシュになんでそんなこと聞くの……?』

 蒼はレヴィアの突然の行動に微かな不快感を覚えながら首を傾げた。ところが、キョトンとしたムーシュの目の色が赤から碧へと変わっていく。

 え……?

 一体何が起こったのか分からず、凍りつく蒼をしり目にムーシュはニヤッと笑った。

『ほーん、レヴィア、さすがだね。くふふふ……』

 なんと、ムーシュが聞きなれない話し方で話し始めるではないか。

『ム、ムーシュ! お前、悪魔じゃなかったのか!?』

 驚愕に襲われ、蒼は思わず身をよじらせた。

『いや、ムーシュちゃんはムーシュちゃん、ちゃんとした小悪魔だよ? ただ、僕がたまーにちょっとだけ心の声としてムーシュちゃんに働きかけてるってだけ。くふふふ』

 天使の好き勝手な振る舞いに、蒼は閉口した。自分に呪いをかけ、仲間に潜んで一体この天使は何がやりたいのだろうか?

『ムーシュから出ていってください! 大切な仲間なんです!』

『ん? 君の即死スキルでなぜこの子だけ死ななかったか、分かって言ってる?』

『え……? ま、まさか……』

 蒼はルシファーの軍隊に即死魔法を放った時のことを思い出し、キュッと口を結んだ。

『この子が生きてるのは僕が守ったから。僕は命の恩人だゾ?』

 シアンは鋭い碧い瞳で蒼を見据えると、レヴィアのエールの樽に手を伸ばし、琥珀色の液体を一気に(あお)った。