翼を直前で閉じ、放物線を描きながら岩の隙間を抜けていく二人。
くぅぅぅ……。 うひぃ……。
二人とも目をギュッと閉じて無事の通過を祈った。
果たして、二人の前にぶわっと荒れ地の景色が広がった。大きな岩がゴロゴロしていて隠れるところがたくさんありそうである。
「よし! 今のうちに隠れるぞ!」
「アイアイサー!」
ムーシュは手近な岩の影へと降りていく。
次の瞬間、世界が揺れた――――。
ズンッ! と、とんでもない衝撃音が後方から二人を貫く。
同時に爆発したように花崗岩が吹き飛んでくる。
うわぁぁ! ひぃぃぃ!
なんと、赫焔王は岩山を吹き飛ばして直進してきたのだった。
「マジかよぉ!」
無慈悲に降り注ぐ花崗岩は、ムーシュを次々と打ち据える。
うぎゃっ!
彼女の翼は破れ、大きな岩の上に墜落し、もんどりうった。
ギュオォォォォ!
大地が赫焔王の凄まじい咆哮によって震え、その恐ろしい響きはあらゆる生命に恐怖を振りまく。
大きな岩の上でムーシュは苦し気に荒い息を吐き、そんなムーシュをかばうように蒼は歯を食いしばって赫焔王に対峙した。
しかし、近づいてくるその巨体は空を覆いつくし、絶望が形を成したかのような恐ろしい影を落とす。金色の光をほんのりと纏う漆黒の鱗に覆われた巨躯には、神聖ささえ感じられ、もはやどんな攻撃も通じそうにない。そのうえ、どう猛な光り輝く牙が、蒼の戦意を儚くも粉砕した。
夕焼けが荒れ野を染める中、赫焔王は獲物を追い詰めたことに満足げに悠然とその巨翼を羽ばたかせ、巨大な真紅の瞳で何かを探る。
蒼は何か言わねばと思うものの、どんな言葉も無力に思え、ただ静かに身を震わせながら、その場に立ちすくんでいた。
赫焔王は地響きをたてながら降り立つと、その巨大な瞳をギロリと蒼に向けた。
「我を殺そうとした馬鹿者はお前か……? まさかこんな幼子だったとはな……。【即死】持ち同士では効果は消える。そんなことも教わらんかったのか?」
予想通り【即死】には隠された発動条件があったのだ。蒼はうかつに攻撃したことを後悔し、顔をしかめた。だが、この時、何か重要なことを忘れているような感覚が蒼の脳裏をかすめた。
「女神の縁者同士仲良くできたらよかったかも知れんが、我を殺そうとしたお前は放置できん。恨むなよ?」
赫焔王はグルルルルと重々しい喉音を轟かせると大きく息を吸い、カパッと巨大な口を開ける。鋭い牙の並ぶ向こうには危うくも美しい灼熱の煌きが現れた。
あわわわわわ……。
逃げなければと蒼が心で叫んでも、その圧倒的な威圧感に身体がこわばって言うことを聞かない。
「主様、危ない!」
ムーシュは最後の力を振り絞り、ふるえる手で蒼の身体をガッとつかむと横に飛んだ。
ゴォォォォ!
プラズマジェットの赤紫色の煌きがドラゴンの口から炸裂し、辺りは一瞬で灼熱地獄へと化す。直撃からは逃れたものの、爆発的なエネルギーは二人を容赦なく吹き飛ばし、クルクルと宙を舞いながら、巨石たちの隙間へと墜ちていくのだった。
灼熱のドラゴンブレスを撃ち終わった赫焔王は、溶けて赤く発光する荒れ野を見ながら手ごたえのなさに首をひねる。
「ぬぅ? 逃れたか……? どこだ……?」
キョロキョロと辺りを探す赫焔王。
『痛ててて……。大丈夫か?』
蒼の声に応え、ムーシュは蒼の身を守るために受けた無数の傷に顔をしかめながらも、深く、静かにうなずいた。
『もはやこれまで……だな。ごめんな』
万策尽き果てた蒼はガックリとうなだれる。
『何言ってるんですか! 主様、主様は世界一強いんです! あいつをやっつけてください!』
涙をポロポロとこぼしながら、傷だらけのムーシュは発破をかけてきた。
『いやいやいやいや、あいつの方が圧倒的に強いんだよ? 僕には【即死】しかないのにそれが効かなきゃ勝てっこないよ』
『なんで効かないんですか?』
『聞いてなかったのか? あいつも【即死】持ちで、【即死】持ち同士なら効かないの!』
『ならあいつの【即死】を無くしちゃえばいいじゃないですか!』
勢いに任せ、無理難題を吹っ掛けてくるムーシュ。
『おいおい、無理言うなよ。どうやってスキルを消せるんだよ……』
『知りませんよ! なんか方法があるんじゃないんですか?』
『馬鹿言うなよ、スキルを消すなんて……。あれ……?』
この時、蒼の頭に何かがひらめいた。
『も、もしかして……』
蒼は急いでマジックバッグを漁る。
その時、大地を揺るがす重低音の声が響いた。
「見つけたぞ! 小童がぁ!」
赫焔王は二人の隠れる巨石に痛烈な蹴りを食らわせ、巨石は砕け散る。
ぐはぁ! きゃぁっ!
「我から逃げられるとでも思っとるのか? 出てこい!」
赫焔王は隙間で小さく丸まっている二人を見つけ、勝ち誇ったように吠えた。
ふんっ!
蒼は鼻を鳴らすと赫焔王をにらみつけ、ニヤリと笑う。
「ほう、まだ諦めとらんのか。その意気やよし。じゃが……」
赫焔王は蒼たちを粉砕しようと太いシッポをブンと振り上げる。
蒼はその隙に赫焔王の脇を抜け、ピョンピョンと跳び上がって小高い巨石の上に立つ。そして、マジックバッグからスクロールを一つ取り出すと、赫焔王を見下ろした。
くぅぅぅ……。 うひぃ……。
二人とも目をギュッと閉じて無事の通過を祈った。
果たして、二人の前にぶわっと荒れ地の景色が広がった。大きな岩がゴロゴロしていて隠れるところがたくさんありそうである。
「よし! 今のうちに隠れるぞ!」
「アイアイサー!」
ムーシュは手近な岩の影へと降りていく。
次の瞬間、世界が揺れた――――。
ズンッ! と、とんでもない衝撃音が後方から二人を貫く。
同時に爆発したように花崗岩が吹き飛んでくる。
うわぁぁ! ひぃぃぃ!
なんと、赫焔王は岩山を吹き飛ばして直進してきたのだった。
「マジかよぉ!」
無慈悲に降り注ぐ花崗岩は、ムーシュを次々と打ち据える。
うぎゃっ!
彼女の翼は破れ、大きな岩の上に墜落し、もんどりうった。
ギュオォォォォ!
大地が赫焔王の凄まじい咆哮によって震え、その恐ろしい響きはあらゆる生命に恐怖を振りまく。
大きな岩の上でムーシュは苦し気に荒い息を吐き、そんなムーシュをかばうように蒼は歯を食いしばって赫焔王に対峙した。
しかし、近づいてくるその巨体は空を覆いつくし、絶望が形を成したかのような恐ろしい影を落とす。金色の光をほんのりと纏う漆黒の鱗に覆われた巨躯には、神聖ささえ感じられ、もはやどんな攻撃も通じそうにない。そのうえ、どう猛な光り輝く牙が、蒼の戦意を儚くも粉砕した。
夕焼けが荒れ野を染める中、赫焔王は獲物を追い詰めたことに満足げに悠然とその巨翼を羽ばたかせ、巨大な真紅の瞳で何かを探る。
蒼は何か言わねばと思うものの、どんな言葉も無力に思え、ただ静かに身を震わせながら、その場に立ちすくんでいた。
赫焔王は地響きをたてながら降り立つと、その巨大な瞳をギロリと蒼に向けた。
「我を殺そうとした馬鹿者はお前か……? まさかこんな幼子だったとはな……。【即死】持ち同士では効果は消える。そんなことも教わらんかったのか?」
予想通り【即死】には隠された発動条件があったのだ。蒼はうかつに攻撃したことを後悔し、顔をしかめた。だが、この時、何か重要なことを忘れているような感覚が蒼の脳裏をかすめた。
「女神の縁者同士仲良くできたらよかったかも知れんが、我を殺そうとしたお前は放置できん。恨むなよ?」
赫焔王はグルルルルと重々しい喉音を轟かせると大きく息を吸い、カパッと巨大な口を開ける。鋭い牙の並ぶ向こうには危うくも美しい灼熱の煌きが現れた。
あわわわわわ……。
逃げなければと蒼が心で叫んでも、その圧倒的な威圧感に身体がこわばって言うことを聞かない。
「主様、危ない!」
ムーシュは最後の力を振り絞り、ふるえる手で蒼の身体をガッとつかむと横に飛んだ。
ゴォォォォ!
プラズマジェットの赤紫色の煌きがドラゴンの口から炸裂し、辺りは一瞬で灼熱地獄へと化す。直撃からは逃れたものの、爆発的なエネルギーは二人を容赦なく吹き飛ばし、クルクルと宙を舞いながら、巨石たちの隙間へと墜ちていくのだった。
灼熱のドラゴンブレスを撃ち終わった赫焔王は、溶けて赤く発光する荒れ野を見ながら手ごたえのなさに首をひねる。
「ぬぅ? 逃れたか……? どこだ……?」
キョロキョロと辺りを探す赫焔王。
『痛ててて……。大丈夫か?』
蒼の声に応え、ムーシュは蒼の身を守るために受けた無数の傷に顔をしかめながらも、深く、静かにうなずいた。
『もはやこれまで……だな。ごめんな』
万策尽き果てた蒼はガックリとうなだれる。
『何言ってるんですか! 主様、主様は世界一強いんです! あいつをやっつけてください!』
涙をポロポロとこぼしながら、傷だらけのムーシュは発破をかけてきた。
『いやいやいやいや、あいつの方が圧倒的に強いんだよ? 僕には【即死】しかないのにそれが効かなきゃ勝てっこないよ』
『なんで効かないんですか?』
『聞いてなかったのか? あいつも【即死】持ちで、【即死】持ち同士なら効かないの!』
『ならあいつの【即死】を無くしちゃえばいいじゃないですか!』
勢いに任せ、無理難題を吹っ掛けてくるムーシュ。
『おいおい、無理言うなよ。どうやってスキルを消せるんだよ……』
『知りませんよ! なんか方法があるんじゃないんですか?』
『馬鹿言うなよ、スキルを消すなんて……。あれ……?』
この時、蒼の頭に何かがひらめいた。
『も、もしかして……』
蒼は急いでマジックバッグを漁る。
その時、大地を揺るがす重低音の声が響いた。
「見つけたぞ! 小童がぁ!」
赫焔王は二人の隠れる巨石に痛烈な蹴りを食らわせ、巨石は砕け散る。
ぐはぁ! きゃぁっ!
「我から逃げられるとでも思っとるのか? 出てこい!」
赫焔王は隙間で小さく丸まっている二人を見つけ、勝ち誇ったように吠えた。
ふんっ!
蒼は鼻を鳴らすと赫焔王をにらみつけ、ニヤリと笑う。
「ほう、まだ諦めとらんのか。その意気やよし。じゃが……」
赫焔王は蒼たちを粉砕しようと太いシッポをブンと振り上げる。
蒼はその隙に赫焔王の脇を抜け、ピョンピョンと跳び上がって小高い巨石の上に立つ。そして、マジックバッグからスクロールを一つ取り出すと、赫焔王を見下ろした。