「く、来るぞ!?」
マスターは真っ青になる。マスターのレベルは二百弱、とても上級魔人には勝てない。
魔人は近くまで来ると上空で急停止する。腕を組み、深い闇を宿した目でムーシュをにらみつけると、フンッと不敵な笑みを浮かべた。
「逃げろぉ!」
マスターは一目散に逃げだす。ヤバい敵に出会った時、瞬時に逃れるセンスは、冒険者として一番大切な生き残りのカギとなっていた。
魔人は、背中の黒い翼をゆったりと羽ばたかせながらムーシュを指さす。
「お前だろう、司祭を殺したのは? 余計なことをしてくれたな……」
広場からそう離れていない所で謎の魔法陣をキラキラ輝かせている女。確かに怪しさ満点である。
ムーシュはニヤッと笑うと声を張り上げた。
「あら? なんで分かったの? 魔王を殺したのも私よ? クフフフ……」
余計なことまで言って嬉しそうに笑うムーシュに、蒼は真っ青になる。
『バ、バッカ野郎! なんてこと言うんだよぉ!』
「はぁ……? 貴様が……?」
首をかしげながらじっとムーシュを見つめていた魔人だったが、一瞬ニヤッと笑うとハッと気合を入れ、巨大な真紅の魔法陣を展開した。
「なら俺様は次期魔王だ!」
一気に充填された膨大な魔力が辺りパリパリッという乾いた音を響かせる。
『何やってるんですか、早く殺してください! 【目つぶし】いきますよ!』
ムーシュは蒼に怒鳴ると魔法陣にありったけの魔力を注入した。
はじけ飛ぶムーシュの魔法陣。
激しい閃光が放たれ、裏庭は激しい光の洪水に包まれる。
うはぁ!
激しい光の洪水の中、蒼は魔人をイメージして魔人に腕を伸ばした。
「消えろDeath!」
「こざかしい真似を! 死ねぃ!」
同時に魔人も究極の炎魔法業火の咆哮を放つ。
相打ちとなる両者――――。
魔人は紫に輝く微粒子に包まれ、そのまま地面へと真っ逆さまに落ち、放たれた業火の咆哮は灼熱の閃光を放ちながら一直線にムーシュへと襲い掛かかっていく。
うひぃ! うわぁ!
瞬く間に、天を裂くような爆発が轟き、庭木は粉塵となって吹き飛び、建物の外壁と屋根はまるで紙吹雪のように飛び散った。
王都全体が激しい地響きに揺れ動き、天を衝く巨大なキノコ雲が舞い上がっていく。街の人たちはこの突然の爆発に目を丸くし、街中が騒然とした。
うわぁぁぁぁ……。
何とか直撃を逃れたマスターは物陰でガタガタと震えながら頭を抱える。上級魔人から逃げ遅れた若い女はもう跡形もないだろう。魔人がさらなる攻撃をして来たら街は火の海だ。どうにかして魔人に対抗しなければならなかったが、マスターには打つ手はなかった。
パラパラと破片が降り注ぐ音がしばらく続き、やがて静寂が訪れる――――。
何の物音もしないことに不審に思ったマスターは恐る恐るそっと様子を覗く。
するとそこに見えたのは虹色のシールドに覆われ、抱き合うムーシュと蒼。爆煙の中浮かび上がる二人はまるで神話の時代の宗教画のように神々しく煌めいていた。
そして、爆心地にはキラキラと紫色に光る大粒の魔石……。
「ま、まさか……。おぉぉぉ……」
新たな伝説の誕生を目の当たりにしたマスターは、祈りを捧げるように両手を組み、感極まって涙を流した。
あのクラスの魔人は、防衛隊が総出で戦ったとしても大損害を被るほどの恐ろしい存在。ところが、子を守りながら戦う女の子が、まるで勇者のようにそんな魔人を打ち倒してしまったのだ。
マスターは街を救ったこの美しき救世主に感激し、走り寄った。
「すごい! すごいよぉぉぉ! 確かにあなた様は偉大なる魔導士、いや大賢者と呼ばせてください!」
興奮するマスターに、気おされる二人。
「上級魔人相手に一撃! 今でも信じられません。あの眩しい魔法は何て言うのですか!?」
二人は目を見合わせる。
どうやらいい加減に勘違いしてくれているようで二人は思わずクスッと笑った。
「それは企業秘密……ですわ。それよりもテストは? 案山子は跡形も無いようですけど?」
ムーシュは小悪魔の笑みを浮かべ、マスターを見る。
「テスト!? そんなものは合格! Sランクですよ! いや、SSかも知れません……。何はともあれ、十数年ぶりのSランク冒険者の登場です! うはぁ! すごい! 凄いぞぉぉぉ!」
マスターは興奮し、ゴツゴツとした両手でムーシュの手を取ると、握手しながらブンブンと振り動かした。
『Sはマズいよ。Cくらいにしてもらって!』
蒼は焦ってムーシュに言う。ごまかし続けるにも限界がある。なるべく目立たないようにしなければならなかったのだ。
「Sはちょっと……Cくらいになりませんか?」
「何を言ってるんですか! あなた様はS! Sなら栄誉だけでなく、国から支援を得られるわけだからお金も貰えるし、最高級の装備も支給があるんですよ?」
「最高級!? それは、解呪の魔道具とかも?」
「そりゃ、宝物庫にはそういうのもあるでしょう」
『やったぁ!』
蒼は予想外の解呪の手がかりに思わず手を叩いた。
「で、あれば、Sでお願いしますわ」
ムーシュはニコッと微笑むと、改めてマスターと握手をし、マスターもうんうんと嬉しそうにうなずいた。
こうしてムーシュはSランク冒険者として国に召し抱えられることとなる。
「我がギルドもこれで花の時代を迎えられる。すごい! 凄いぞぉぉぉ!」
マスターは筋骨隆々とした両腕をバッと大空に突き上げると、グッと握りしめて何度も力強いガッツポーズを刻んだ。
マスターは真っ青になる。マスターのレベルは二百弱、とても上級魔人には勝てない。
魔人は近くまで来ると上空で急停止する。腕を組み、深い闇を宿した目でムーシュをにらみつけると、フンッと不敵な笑みを浮かべた。
「逃げろぉ!」
マスターは一目散に逃げだす。ヤバい敵に出会った時、瞬時に逃れるセンスは、冒険者として一番大切な生き残りのカギとなっていた。
魔人は、背中の黒い翼をゆったりと羽ばたかせながらムーシュを指さす。
「お前だろう、司祭を殺したのは? 余計なことをしてくれたな……」
広場からそう離れていない所で謎の魔法陣をキラキラ輝かせている女。確かに怪しさ満点である。
ムーシュはニヤッと笑うと声を張り上げた。
「あら? なんで分かったの? 魔王を殺したのも私よ? クフフフ……」
余計なことまで言って嬉しそうに笑うムーシュに、蒼は真っ青になる。
『バ、バッカ野郎! なんてこと言うんだよぉ!』
「はぁ……? 貴様が……?」
首をかしげながらじっとムーシュを見つめていた魔人だったが、一瞬ニヤッと笑うとハッと気合を入れ、巨大な真紅の魔法陣を展開した。
「なら俺様は次期魔王だ!」
一気に充填された膨大な魔力が辺りパリパリッという乾いた音を響かせる。
『何やってるんですか、早く殺してください! 【目つぶし】いきますよ!』
ムーシュは蒼に怒鳴ると魔法陣にありったけの魔力を注入した。
はじけ飛ぶムーシュの魔法陣。
激しい閃光が放たれ、裏庭は激しい光の洪水に包まれる。
うはぁ!
激しい光の洪水の中、蒼は魔人をイメージして魔人に腕を伸ばした。
「消えろDeath!」
「こざかしい真似を! 死ねぃ!」
同時に魔人も究極の炎魔法業火の咆哮を放つ。
相打ちとなる両者――――。
魔人は紫に輝く微粒子に包まれ、そのまま地面へと真っ逆さまに落ち、放たれた業火の咆哮は灼熱の閃光を放ちながら一直線にムーシュへと襲い掛かかっていく。
うひぃ! うわぁ!
瞬く間に、天を裂くような爆発が轟き、庭木は粉塵となって吹き飛び、建物の外壁と屋根はまるで紙吹雪のように飛び散った。
王都全体が激しい地響きに揺れ動き、天を衝く巨大なキノコ雲が舞い上がっていく。街の人たちはこの突然の爆発に目を丸くし、街中が騒然とした。
うわぁぁぁぁ……。
何とか直撃を逃れたマスターは物陰でガタガタと震えながら頭を抱える。上級魔人から逃げ遅れた若い女はもう跡形もないだろう。魔人がさらなる攻撃をして来たら街は火の海だ。どうにかして魔人に対抗しなければならなかったが、マスターには打つ手はなかった。
パラパラと破片が降り注ぐ音がしばらく続き、やがて静寂が訪れる――――。
何の物音もしないことに不審に思ったマスターは恐る恐るそっと様子を覗く。
するとそこに見えたのは虹色のシールドに覆われ、抱き合うムーシュと蒼。爆煙の中浮かび上がる二人はまるで神話の時代の宗教画のように神々しく煌めいていた。
そして、爆心地にはキラキラと紫色に光る大粒の魔石……。
「ま、まさか……。おぉぉぉ……」
新たな伝説の誕生を目の当たりにしたマスターは、祈りを捧げるように両手を組み、感極まって涙を流した。
あのクラスの魔人は、防衛隊が総出で戦ったとしても大損害を被るほどの恐ろしい存在。ところが、子を守りながら戦う女の子が、まるで勇者のようにそんな魔人を打ち倒してしまったのだ。
マスターは街を救ったこの美しき救世主に感激し、走り寄った。
「すごい! すごいよぉぉぉ! 確かにあなた様は偉大なる魔導士、いや大賢者と呼ばせてください!」
興奮するマスターに、気おされる二人。
「上級魔人相手に一撃! 今でも信じられません。あの眩しい魔法は何て言うのですか!?」
二人は目を見合わせる。
どうやらいい加減に勘違いしてくれているようで二人は思わずクスッと笑った。
「それは企業秘密……ですわ。それよりもテストは? 案山子は跡形も無いようですけど?」
ムーシュは小悪魔の笑みを浮かべ、マスターを見る。
「テスト!? そんなものは合格! Sランクですよ! いや、SSかも知れません……。何はともあれ、十数年ぶりのSランク冒険者の登場です! うはぁ! すごい! 凄いぞぉぉぉ!」
マスターは興奮し、ゴツゴツとした両手でムーシュの手を取ると、握手しながらブンブンと振り動かした。
『Sはマズいよ。Cくらいにしてもらって!』
蒼は焦ってムーシュに言う。ごまかし続けるにも限界がある。なるべく目立たないようにしなければならなかったのだ。
「Sはちょっと……Cくらいになりませんか?」
「何を言ってるんですか! あなた様はS! Sなら栄誉だけでなく、国から支援を得られるわけだからお金も貰えるし、最高級の装備も支給があるんですよ?」
「最高級!? それは、解呪の魔道具とかも?」
「そりゃ、宝物庫にはそういうのもあるでしょう」
『やったぁ!』
蒼は予想外の解呪の手がかりに思わず手を叩いた。
「で、あれば、Sでお願いしますわ」
ムーシュはニコッと微笑むと、改めてマスターと握手をし、マスターもうんうんと嬉しそうにうなずいた。
こうしてムーシュはSランク冒険者として国に召し抱えられることとなる。
「我がギルドもこれで花の時代を迎えられる。すごい! 凄いぞぉぉぉ!」
マスターは筋骨隆々とした両腕をバッと大空に突き上げると、グッと握りしめて何度も力強いガッツポーズを刻んだ。