「きゃははは! ざまぁみろってんですよ!」
ムーシュはそんな蒼の様子を一顧だにせず楽しそうに笑うと、倒れてる男の懐から財布を取り出して中を覗いた。
「え……? 何やってんの……?」
「何って戦利品を集めてるんですよ。魔物を倒したら魔石をもらい、人間倒したら財布をもらう、この世界の常識ですよ?」
ムーシュはキョトンとして小首をかしげ、蒼が何を言ってるのか分からないようだった。
「いや、人の命は尊くて……」
「何言ってんですか、人も悪魔も魔物も命は同じですよ。殺さなきゃ殺される。揉めたら殺した方が正義。常識ですよ?」
ムーシュは鼻でフンと笑うと、倒れている山賊どもの懐から財布を次々と集めていった。
「お、このオッサン金持ちだなー」
財布から金貨を取り出し、ムーシュはムフフと笑った。
「あ、悪魔だ……」
蒼は青い顔をして首を振る。
「クフフ……。ムーシュは悪魔ですよぉ」
ムーシュは楽しそうに財布の中身をマジックバッグへと移していった。
◇
山賊たちを簡易に埋葬したあと、二人は改めて街を目指す。
ムーシュは暗い顔をしている蒼を抱きあげ、トントンと背中を叩いた。
「さぁ主様、レッツゴー!」
楽しそうにこぶしを突き上げるムーシュ。
予想外のお金も手に入ってしまったし、結果的に言えば山賊は二人のために金を運んできてくれたかのようである。
蒼はふぅとため息をつくとムーシュの温かな胸にもたれた。蒼は何度も折れそうになる心をこの柔らかな胸に包まれて癒されてきている。知らぬ間に蒼にとってムーシュの存在は大きくなっていたようだった。
◇
しばらく歩いていると馬車が通りがかる。
街まではまだ距離があるとのことだったので、お金を渡して乗せてもらうことにした。
「なんであんなところ歩いとったんじゃ?」
御者のおじいさんは手綱を握りながら声をかけてくる。
「森の方で暮らしてたんですが、街に行きたくなって……」
ムーシュはそれらしき嘘をつく。
「おぉ、そうか。先週火山の大爆発があったから街に逃げようってことかな? 子連れで大変じゃったのう」
「そ、そうなんですよ。うちの子はわがままだし……」
蒼の頭をなでるムーシュ。
蒼はムッとして脇をキュッとつねった。
くっ!
顔をしかめるムーシュ。
「あー、そんなにひどかったか。ただ、この辺は山賊もおって危ないんじゃぞ?」
「えぇっ!? 山賊!? 恐いですねぇ」
わざとらしく驚くムーシュ。
「わしらの仲間も次々やられとって商売あがったりじゃよ。今じゃ懸賞もかけられとるが手ごわい奴らでまだ捕まえられんのじゃ」
「け、懸賞!?」
「ボスの腕のタトゥーを役所に持ち込むと金貨五十枚じゃと」
「ご、五十枚!?」
ムーシュは目を真ん丸に見開いて蒼を見た。
蒼はしまったという顔で首を振る。
「でもあんな強い山賊、誰が倒せるんじゃろうな? はっはっは」
おじいさんはあきらめ気味に笑った。
「うちのご主人様なら倒せるかもですね。ねぇ蒼ちゃん?」
ムーシュは蒼を抱き上げてニヤニヤしながら蒼を見る。
蒼はジト目でムーシュをにらんだ。
「ほう、その方は強いんかね?」
「そりゃぁもう、魔王よりも強いと思いますね。頼んでおくからこの道はもう安全になりますよ」
「魔王よりも? はっはっは! それは頼もしい」
おじいさんは楽しげに笑い、蒼は沈んでいた気持ちが少し救われる思いがした。
◇
簡易な宿で軽く休み、翌朝馬車がたどり着いたのは王国の首都、王都だった――――。
歴史を感じさせる石造りの壮麗な城壁に囲まれた中世ヨーロッパを彷彿とさせる街で、馬車はドラゴンの美麗な彫刻が施された城門へと向かって進む。
蒼はその巨大な彫刻を見上げ、石造りのドラゴンが動いていることに気がついた。ドラゴンはゆったりと動きながら通過していく馬車たちを睥睨し、時に炎を軽く吹きだしている。魔法で動いているのだろう。
おわぁ……。
蒼はそのドラゴンに釘付けとなり、異世界の深遠な文化の魅力に心底圧倒される。
「主様、人間の街ですよっ!」
ムーシュもウキウキとしてキュッと蒼を抱きしめた。
馬蹄の響きと歩道を埋め尽くす人々の声が絶え間なく響き渡る。この地域の首都としての賑わいと活気は圧巻の一言だった。
下ろしてもらった荷捌き場を後にした二人は、古びた街の中心へと足を進めた。夜明けの露が石畳を濡らし、朝日がそれを温めて微かなもやを上げていた。この異世界の街の美しさに心を奪われる蒼は、好奇心旺盛に各所を眺めながら、荘厳な石造りの建築物の間を進んでいく。
やがて石組みのアーチがあり、奥が広場となっていた。見ると、人々が集まって何か儀式を上げている。
「朝から何をやっているんだろ?」
蒼はムーシュに聞いてみる。
「何だか教会の催しみたいですよ?」
悪魔のムーシュにとって、教会は永遠の敵であった。彼女は不機嫌そうに奥に佇む司祭たちの姿を鋭くにらんだ。
広場に行くと、脇の方で少年が号泣している。不審に思った蒼はとっとっとと駆け寄ると声をかけてみた。
ムーシュはそんな蒼の様子を一顧だにせず楽しそうに笑うと、倒れてる男の懐から財布を取り出して中を覗いた。
「え……? 何やってんの……?」
「何って戦利品を集めてるんですよ。魔物を倒したら魔石をもらい、人間倒したら財布をもらう、この世界の常識ですよ?」
ムーシュはキョトンとして小首をかしげ、蒼が何を言ってるのか分からないようだった。
「いや、人の命は尊くて……」
「何言ってんですか、人も悪魔も魔物も命は同じですよ。殺さなきゃ殺される。揉めたら殺した方が正義。常識ですよ?」
ムーシュは鼻でフンと笑うと、倒れている山賊どもの懐から財布を次々と集めていった。
「お、このオッサン金持ちだなー」
財布から金貨を取り出し、ムーシュはムフフと笑った。
「あ、悪魔だ……」
蒼は青い顔をして首を振る。
「クフフ……。ムーシュは悪魔ですよぉ」
ムーシュは楽しそうに財布の中身をマジックバッグへと移していった。
◇
山賊たちを簡易に埋葬したあと、二人は改めて街を目指す。
ムーシュは暗い顔をしている蒼を抱きあげ、トントンと背中を叩いた。
「さぁ主様、レッツゴー!」
楽しそうにこぶしを突き上げるムーシュ。
予想外のお金も手に入ってしまったし、結果的に言えば山賊は二人のために金を運んできてくれたかのようである。
蒼はふぅとため息をつくとムーシュの温かな胸にもたれた。蒼は何度も折れそうになる心をこの柔らかな胸に包まれて癒されてきている。知らぬ間に蒼にとってムーシュの存在は大きくなっていたようだった。
◇
しばらく歩いていると馬車が通りがかる。
街まではまだ距離があるとのことだったので、お金を渡して乗せてもらうことにした。
「なんであんなところ歩いとったんじゃ?」
御者のおじいさんは手綱を握りながら声をかけてくる。
「森の方で暮らしてたんですが、街に行きたくなって……」
ムーシュはそれらしき嘘をつく。
「おぉ、そうか。先週火山の大爆発があったから街に逃げようってことかな? 子連れで大変じゃったのう」
「そ、そうなんですよ。うちの子はわがままだし……」
蒼の頭をなでるムーシュ。
蒼はムッとして脇をキュッとつねった。
くっ!
顔をしかめるムーシュ。
「あー、そんなにひどかったか。ただ、この辺は山賊もおって危ないんじゃぞ?」
「えぇっ!? 山賊!? 恐いですねぇ」
わざとらしく驚くムーシュ。
「わしらの仲間も次々やられとって商売あがったりじゃよ。今じゃ懸賞もかけられとるが手ごわい奴らでまだ捕まえられんのじゃ」
「け、懸賞!?」
「ボスの腕のタトゥーを役所に持ち込むと金貨五十枚じゃと」
「ご、五十枚!?」
ムーシュは目を真ん丸に見開いて蒼を見た。
蒼はしまったという顔で首を振る。
「でもあんな強い山賊、誰が倒せるんじゃろうな? はっはっは」
おじいさんはあきらめ気味に笑った。
「うちのご主人様なら倒せるかもですね。ねぇ蒼ちゃん?」
ムーシュは蒼を抱き上げてニヤニヤしながら蒼を見る。
蒼はジト目でムーシュをにらんだ。
「ほう、その方は強いんかね?」
「そりゃぁもう、魔王よりも強いと思いますね。頼んでおくからこの道はもう安全になりますよ」
「魔王よりも? はっはっは! それは頼もしい」
おじいさんは楽しげに笑い、蒼は沈んでいた気持ちが少し救われる思いがした。
◇
簡易な宿で軽く休み、翌朝馬車がたどり着いたのは王国の首都、王都だった――――。
歴史を感じさせる石造りの壮麗な城壁に囲まれた中世ヨーロッパを彷彿とさせる街で、馬車はドラゴンの美麗な彫刻が施された城門へと向かって進む。
蒼はその巨大な彫刻を見上げ、石造りのドラゴンが動いていることに気がついた。ドラゴンはゆったりと動きながら通過していく馬車たちを睥睨し、時に炎を軽く吹きだしている。魔法で動いているのだろう。
おわぁ……。
蒼はそのドラゴンに釘付けとなり、異世界の深遠な文化の魅力に心底圧倒される。
「主様、人間の街ですよっ!」
ムーシュもウキウキとしてキュッと蒼を抱きしめた。
馬蹄の響きと歩道を埋め尽くす人々の声が絶え間なく響き渡る。この地域の首都としての賑わいと活気は圧巻の一言だった。
下ろしてもらった荷捌き場を後にした二人は、古びた街の中心へと足を進めた。夜明けの露が石畳を濡らし、朝日がそれを温めて微かなもやを上げていた。この異世界の街の美しさに心を奪われる蒼は、好奇心旺盛に各所を眺めながら、荘厳な石造りの建築物の間を進んでいく。
やがて石組みのアーチがあり、奥が広場となっていた。見ると、人々が集まって何か儀式を上げている。
「朝から何をやっているんだろ?」
蒼はムーシュに聞いてみる。
「何だか教会の催しみたいですよ?」
悪魔のムーシュにとって、教会は永遠の敵であった。彼女は不機嫌そうに奥に佇む司祭たちの姿を鋭くにらんだ。
広場に行くと、脇の方で少年が号泣している。不審に思った蒼はとっとっとと駆け寄ると声をかけてみた。