できれば、わたしだってこんなこと思い出したくはなかった。けれど、思い出さなければみんなあの日の不幸な思い出に縛られたままだった。

 だから、これで良い。これ以上はもう良いんだ。わたしも解放されて良いはず。
 もう、忘れよう。あの日の出来事も、恋心も、楽しかったことを忘れるのは少し寂しいけど。

 玄関が開いた音がして、お父さんとお母さんが帰ってきた気配がした。部屋から出て笑顔を無理矢理作って笑う。

「おかえり、お父さん、お母さん。墓参りはどうだった……?」

 久しぶりに呼んだお父さんとお母さんの言葉は少し震えていたけど、二人の表情は明るかった。

「ただいま、奏多。墓参りだって言ってたか? 無事終わったよ、うん」
「ただいま、奏多。それより、反抗期は終わったの?」
「アヤカは、また余計なことを」
「なによ!」

 二人の元気そうな喧嘩腰の口調にくすりと自然と笑いが溢れた。私はもうかなでじゃない。

「もういいんだ、反抗期は終わりました。ごめんなさい、お父さんもお母さんも。許してくれる?」
「奏多は今まで良い子すぎたからな。わがままくらいいくらでもいいんだ。怒ってないよ」
「できれば口は聞いてほしいけどね、私も怒ってないよ」

 嬉しそうな二人に抱きしめられて目を閉じる。胸の内で、昔のわたしに別れを告げる。

――さようなら、かなでだった、わたし。

 あの不幸な事故も、かなでの気持ちも、あの記憶もさようなら。

「わたし、ううん、僕、今日はカレーが食べたいな、お母さんのカレー」
「もちろんよ、すぐ作っちゃうからね」

 あまりにも幸せな光景で、自然と涙が溢れ出た。

 <了>