返事を書こうと思い立って、便箋の前でまた固まる。何を書いたら、アヤカさんと夕陽は納得してわたしのことを忘れて進んでくれるだろうか。

 忘れないで居てくれたことは純粋に嬉しかった。でも、わたしに縛られて悪夢にうなされる事も、幸せになってはいけないと思い込む事もやめて欲しい。

 ただ、二人の幸せを側でずっと望んで見守りたいと思っていたから。

 拝啓、アヤカさんと書き出してから固まる。どうにも続く言葉が出てこない。わたしは、アヤカさんが好きだった。夕陽とアヤカさんのやりとりを見て恋というものは素晴らしいものだなぁなんて、他人事のように眺めていればよかったのに。

 好きになってしまった。……だから、これはきっと世界で一番幸せで、一番辛い罰なんだと思う。

 ふぅっと吐き出したため息の奥に霞むアの字に、アヤカさんも夕陽も信じてくれると思いを託す。

 まず、始まりから書こう。あの日の始まりではなくて、本当のわたしの二人への思いの始まり。そうしたら、わたしの本当の思いが伝わるはずだ。


 
拝啓 アヤカさん
   夕陽くん
 
わたしは、アヤカさんと夕陽が運んできたあの楽しい部活動が本当に大好きでした。ずっと一人で執筆していたわたしに明るい部活仲間を連れてきてくれて、かけがえのない青春時代でした。

あの日の思い出を振り返れば、お互いの齟齬が無くなるかと思い、あの日から書き出しましたが。伝えたいことが伝わらなかった様なので、本当の始まりから書きます。

わたしは人とうまく関係を築くことができない人間でした。色々な事情があって(ここは割愛させてください、明かしても良いことはないので)、人と距離を置いた小中学校の生活を送っていました。

高校でもひとりぼっちでただ小説を書ければ満足でした。だから、文芸部とは名ばかりの廃部寸前の部活に入部し、一人でひたすら書き続けていたんです。

そんな文芸部に二人がたまたま立ち寄って、「ここに入部しても良い?」と言ってくれたこと一生忘れません。ツンケンした態度を取るわたしに対して、二人が嫌な顔ひとつせず、わたしはそう言う子だからと相手してくれたこと本当に嬉しかった。

わたしの悪いところも、おかしなところも、全部わたしだからと言って、「それでもいいんじゃない?」なんて軽口で笑い飛ばしてくれて……わたしは、あそこではわたしになれた気がしました。だから、その始まりの二人には幸せになってほしかった。

あの日、たまたま体調を崩してしまって階段から足を滑らせたのは本当にただの事故です。みんなに気に病んで欲しくなかった。本当に事故なの。わたしをきちんとわたしにしてくれたみんなに感謝こそすれど、恨みなんてないんです。

誤解しないでほしいですが、覚えててくれたこと。夏が来るたびにみんなで、わたしを偲んでくれること。本当に嬉しかったです。でも、みんなを縛り付けたかったわけじゃないんです。

だから、早くわたしのことは忘れて。

そして、幸せに生きていて。