「夕陽に、話したいことがある」
ご飯を食べ終わった夕陽に小声で囁いた時、夕陽は断るように首を横に振った。緊張で背中に嫌な汗が纏わりつく。
「どうしても、今日じゃないとダメか?」
「どうしても、今がいい」
らしくないとわかっていても、今日伝えようと意を決した気持ちを隠せないから。夕陽の問いに頷く。みんなはお腹いっぱいでうとうとと寝袋で寛いでいた。
「わかった」
みんなにバレないようにこっそりと屋上に二人で出れば、夕陽は手を擦り合わせて息を吐き出した。
一瞬の沈黙の後、夕陽と向き合う。私と夕陽は親友だ。だからこそ、背中を押すと決めたのだ。
「夕陽は、やっぱりアヤカさんのことが好きなんだよね?」
「なんだよ、その話かよ」
まるで告白でもされる様な空気感になってしまったのか、夕陽がほっと胸を撫で下ろした。私が夕陽をそういう目で見てないことは、知っているくせに。
「そうだよ、アヤカが好きだ。つい、憎まれ口とか叩いちゃうけどな」
「じゃあ、今日中に伝えて。じゃないなら、奪っちゃうよ」
困惑してるのがわかる。今まで発破をかけたことなんてなかった。それでも、どうしてだか、早く背中を押さなくちゃいけない気がした。
高校二年生の夏休みは、特別だからかな。3年生になって忙しくなって散っていく、わたしたちのモラトリアム。
「なんだよ、急に」
「アヤカさんだってずっと待ってる。区切りをつけないと言えないなら、わたしが引導を渡してあげる。早く言って!」
プルプルと握りしめた手を震えさせながらも、言葉を放つ。チャラいと言われる言葉遣いも、少し目の悪いところだって、それでも、真剣に言葉に耳を傾けてくれる夕陽が好きだった。
恋愛感情の好き、ではない。でも親友として夕陽と私は一生そばに居る、そんな確信があった。夕陽も多分そう思ってくれていた。だから、アヤカさんへの想いを素直に打ち明けてくれたんだと思う。
「わかった。どうしてそんなに急かすかは分からないけど、俺は今日アヤカに伝える。それで良いってことだろ」
意を決して約束してくれたのがわかったから、笑ったのに涙が溢れ出てきた。
「なんでお前が泣くんだよ」
「夕陽とアヤカさんの嫌味の応酬とか、でもどこまでとお互いが好きなこととか、そばで見ててとても好きだったから。二人には幸せになってほしいんだ」
もうそれ以上言うことはないから、夕陽を置いて戻る。星空に願いをかけるのもロマンチックでいいと思う。がんばれ、夕陽。