かなでだけは部室でそのまま執筆を続ける、というので私たち四人で夜の家庭科室へ向かう。非日常ということもあり、私たちは、はしゃいでいた。

 それもそのはずだ、私は夕陽に片思いをしていて、紗英とアタルは付き合っていた。ダブルデートのような感覚で、家庭科室で夜ご飯の準備を進める。

「アヤカ、お前料理もへったくそだな」
「なによ、繊細さのかけらも……って夕陽上手だねだいぶ」
「家で毎日作ってるからな」

 定番のカレーを作る予定で、始めた料理はなかなかうまくいかない。

 夕陽のまな板の上には綺麗に同じサイズに切り揃えられたじゃがいも。私のまな板の上には乱雑に散らかされた不揃いの人参。恥ずかしくなって夕陽の目を隠す。

「おま、人参触った汚ねぇ手で触んな!」

 乱雑に避けられた手は行き場を無くしている。紗英とアタルは仲良さそうにお米を研いで炊飯器にセットまでしていた。

「早く作らないとご飯だけ炊けちゃう!」
「俺じゃあもう炒めるの始めちゃうわ。アヤカは残りの野菜もよろしく」

 せっかくの共同作業だったのに、夕陽は効率重視といった様子でサクサクと玉ねぎとお肉を炒め始める。私は一人で不揃いなジャガイモを増やしていくだけだった。

「夕陽くんはそっけないよねぇ、俺も手伝うからさ、寂しそうにすんなってアヤカ。な、紗英もやろうぜ」

 玉ねぎの匂いが滲みて目に涙を溜めていた私に、優しくしてくれるのはアタルと紗英だった。

「早く素直になんなさいよ、アヤカも。まぁかなでのこともあるかもだけど」

 モゴモゴと口籠る紗英の言葉に、聞かないふりをする。誰かに取られたくなくて焦ってる気持ちもあった。私と夕陽は会えば口喧嘩ばかりだし。

「わかってる。そのためにみんなに口裏合わせてもらって合宿なんて企画したんだし……」




 懐かしいあの日々を思い出しながら、帰ってきた夕陽に手紙を見せる。夕陽の顔色がどんどん曇っていく。

「これ、いつ届いたんだ」
「今日の夕方。郵便局留の住所が書かれてたから、返事もそこ宛に書いて出した」
「は? なんで返事なんか」
「だって、今更どうしてかなでの名前を騙ってこんなのを送ってきたか気になるじゃない! それに、誰が書いた、かも。紗英とアタルに連絡しても同じのが送られてきたとしか言わないし」

 あの日からきっとかなでは、私たちを恨んでるんだ。私たちのせいで、死んじゃったから。

「あれは、事故だっただろう」
「私、かなでの様子がおかしいのに気づいてたの。でも、元々体も弱い子だし、ただの風邪かなって。それよりもあなたを優先しちゃったの」

 泣きながら呟くとまるで悲劇のヒロインみたいで、唇を強く噛み締めて涙を堪える。かなでの悲しみ、辛さに対する私の罪悪感はいつまでも消えることはない。泣くことすら、本当は許されないだろう。

「でも、最後は幸せでって」
「嫌味ってことよ! 私たちが結婚もして子供も産まれて幸せそうにしてるから。嫌味で、誰かから。でも誰から」

 息も途切れ途切れに言葉を出し切れば、夕陽は首を傾げた。

「でも、かなではこんなことを言うやつじゃない」
「なんでそんなこと、言い切れるのよ」
「かなでは……親友だったから」

 夕陽の言葉に今度は私が首を傾げる番だった。かなでも夕陽も部活仲間としては確かに一緒に過ごしていた。けど、特別仲が良いわけでもなく。

 ましてや部活内でもほとんど話していない二人が、親友という括りなことに違和感を覚えた。

「夕陽、何言ってるの? 全然そんなそぶりなんて」
「かなでは、ずっと俺たちが幸せになることを願ってくれていた。アヤカに好きだと早く言え、待ってるぞって急かしたのは、かなでだ」

 夕陽は懐かしそうに目を細めて、かなでを思い出してるようだった。じゃあ、この手紙を締めくくっている「私のことは忘れて幸せになっていてください。」という言葉は、かなでの本心だとでも言うのだろうか。

 私たちがアホみたいに恋に浮かれて、かなでが一人苦しんでいるのに気づかず時間を過ごしていたのに?


「それにしても、本当にかなでの字みたいだな。このアヤカのアの癖の字とか特に」

 手紙を見つめていた夕陽が呟く。だから、私はこんなに不安になっているのに。かなでは、アの字だけなぜか癖が強かった。了にも読めるこの()は絶対に、かなでの癖字だ。