「っ」
玉が顔をしかめたので、舞弥はすぐに手を離した。
「壱も、玉ほどじゃないけど怪我あるでしょ。治るまでいていいよってこと」
壱にも指摘すると、壱は冷静な目で舞弥を見てきた。
「……どうしてわかった?」
「さっき言った私の霊感なんだけど、怪我と傷に反応するって言うか――わかっちゃうんだよね。妖怪も霊体もレベル高いのは視えもしないんだけど、人間であれ妖異であれ、怪我してるとわかるの。だから学校ではずっと保健委員やってるよ。バイト先でもいつも救急セット持ってるキャラで定着してるし」
――舞弥には生まれた時から霊感があった。
だがそれは『視える』というよりは『気づく』もので、怪我をしているものを察知するような感覚が近い。
怪我をしている対象が人間でも妖怪でも、舞弥は『気づく』のだ。
玉が、ふむ、とうなずく。
「特殊な霊力なんだな、人間。まあ怪我してるのは本当だから、養生していいのなら助かるのも本当だ」
「なんで玉っていちいち偉そうなの?」
玉は態度が尊大だなあ、と舞弥は感じていた。
テンションのあがり下がりが、見ていて面白いタイプだが。
「すまない舞弥、怪我が治るまで世話になってもいいだろうか。もちろん、たぬきの姿でいる」
「えっ、変化しちゃダメなのか!?」
衝撃を受けた顔をする玉に、舞弥は言った。
「人間とか、誰かにわかる姿は駄目だよ。たぬきとかそれより小さいものならいいけど」
「え~、俺、人間の食べ物食べたいのに~」
あくまで玉の基準は人間のご飯を食べるとこにあるらしい。
「ご飯は人間の作るよ。じゃあご飯のときだけは人間の姿でいいよ」
「舞弥……俺たちにありがたい提案ばかりだが、いいのか? 家計もあるだろう」
「さっき言った通り、正直別に高校卒業まではバイトしなくても余裕で食べていけるくらいはあるんだよ。でもバイトしてるのは、卒業しても何かしら勉強続けていきたいからなの。まだ進路も決めたわけじゃないけど……亡くなったお祖父ちゃんからね、人助けは出来るうちにしとけって言われてるんだ。無視し続けて、相手の視界から消えちゃってから手を差し出しても遅いよ、って。だから今、壱と玉にもそうするの」
「舞弥……」
「人間……」
ぽんっと、玉の姿が消えた。
舞弥が玉のいた辺りをよく見ると、机の影になっているが、つい今しがたまでのたぬき姿より一回り小さな子たぬきがいた。