総大将と同じようにあやかしとしての力を解き放った玉の姿は変わる。

それこそ、総大将の姿を上回ってしまうくらいに。

『これは……生かしておいて正解だった。これほどの捧げものならば喜ばれよう』

「なんだかわかんねーけど、俺はこれからひとりで生きていくんだ! 邪魔すんな!」

『なに、心配することはない。お前は我が一族の繁栄の礎(いしずえ)となるのだ。光栄に思え』

「やだぷー!」

ごうっと、玉が背中に背負った雷撃がはじける。

民家のない辺りまで一目散に走ってきてよかった。ここなら人間に影響はないだろう。

雷撃が総大将に向けて飛んだ。しかし、総大将の尾が一振りされただけで簡単に払われてしまう。

あやかしとして生きてきた年季と、そのまま実力の差だろう。

玉が異端のあやかしたぬきといえど、まだ子どもであることは否定できない。

「ふんっ、今まで俺と壱を散々痛めつけてくれたんだから、全部お返ししてやるからな!」

『お前にそんなことが出来ようか。幼く弱い、童よ』

「だから童じゃねー! 壱がくれた名前があんだよ!」

――壱がくれた『玉』という名前。その名前を呼ばれて初めて、玉は『存在』を手にした心地になった。

壱はたくさんのものをくれた。

だからもう、解放するんだ。

俺というお荷物から解き放たれて、千年以上続いた呪いから解き放ってくれた、たった一人の女の子と生きて行ってほしいから。

――幸せになってくれ。ふたりで。

「もう壱のお荷物にはなんねえ! ここであんたとも決別させてもらう!」

玉の背中の雷撃が、大きな球体となり力が凝縮される。

全身全霊の力をぶつけて、二度と自分のことなど構う気にならないように撃退しよう。

完全に倒せなくても、そのくらいなら出来るはずだ。

「今まで散々世話になったな!」

雷撃が放たれる。総大将に向かったそれは、先ほどとは違って払ったりはされなかった。

真正面から総大将にぶつかる。――いけ、と玉は念じた。だが――

『はっはっは。実に良い。良いぞ童。よくここまで育った。供物として申し分ない』

「なっ……」

玉は絶句するしかない。

総大将をたたきのめすどころか、傷一つつけられなかった。

壱に鍛えられた自負があったが、これほど差があったとは……。

『お前にまた逃げられてはことだ。だが、いつもそばにいた者はいないようだな……。なに、少し眠っている間にすべてが終わっている。恐れることはない』

「……くっそ……」