言い切った榊を不思議に思って、壱は顔をあげる。

「何故?」

「あそこはお前が最初に降りた場所だろうが。神聖域になっていてもおかしくない」

「え? ………あ」

そういえばそうだった……と、壱は指摘されて思い出した。

舞弥が通っている高校がある場所は、確かに壱が、壱翁として最初に降りた場所だ。

昔過ぎて忘れていたが、神格にも劣らない『壱翁』の加護が勝手に加わっていたのだろう。

「そうか……なら学校は心配ないか……」

綺麗過ぎると思って構えていたが、それは気にしなくてよさそうだ。

「お前大変だな。朝倉舞弥を護ることに加えてちびの件も、自分の件もあって」

「舞弥を護ると決めたのも、玉を育てると決めたのも俺だ。自分のやつだけはいい加減にしろと思うがな」

最後をため息とともに吐いた。

「言って聞く相手でもねーからな。低級過ぎるのも考えものだ」

「それなりの格のやつなら焼けばいいんだけどな。低級だとむしろ効かなくて困る」

「お前の発言が不穏当過ぎるわ。だがまあ……」

言いかけた榊は、ふっと美也たちに方に再び目をやった。

「なんだ」

「いや、これはいーわ。そろそろ美也たちに声をかけて休憩にしよう」

言いながら、袖についた埃を払う。

「しかし神社の神格自ら働いているとは」

壱も榊とともに蔵をあとにしながら感想を言ってみた。榊はにやっと笑う。

「美也の負担を少しでも少なくしたいだけだ。出来ればいちゃつく時間が欲しいだけだ」

「下心か神格」

「否定はしないが、お前にも否定はさせない」

「……だからそういう段階じゃないって言ってるだろ」

「はいはい」

美也と舞弥を休息に誘うために、壱と榊は本堂に向かった。

――開斗や小さなあやかしと遊びながらも、舞弥の傍へ来た壱が舞弥に笑みを向けるのを、玉は視界の端にとらえていた。