「治療に霊力は使わない方がいい。それが出来る人間はたまにいたが、あまりいい例ではない」
「どういうこと?」
過去に舞弥と同じ力を持った人を知っているなら、参考までに聞きたい。
「治癒は神の能力に等しい。傷を治す代わりに、自分がその傷を引き受けたり、痛みを引き受けたりするのがよくある霊能者だ。そういう者たちは権力者からいいように扱われたり、民衆から力を求められたりして、文字通り身を削ってしまう。……悲惨な最期も珍しいものではないんだ。だから舞弥も、傷に敏感だからといって、迂闊に霊力で治療しようとしたりしない方がいい。持っている救急セットで対応仕切れないものは、病院などの人間の公的な機関を頼るべきだ」
壱はよどむことなく答えた。
舞弥は三度瞬く。
「なんか壱って、めちゃくちゃ人生の先輩って感じだね」
「舞弥。誤魔化すな」
「誤魔化したのは壱でしょ。でも、うん。そういう話はうっすら聞いたことあるから、気を付けるよ」
「ああ」
「ちなみに壱って何歳くらいなの?」
「何歳……忘れてしまったな……」
壱が遠い目をした。
壱と話していておじいちゃん感はないが、人生の先輩感と、玉の保護者感はすごくある。
遠い目をする壱とは反対に、またもや玉が胸を張った。
「人間、壱はすごいんだぞ。割と古参のあやかしが礼を取るくらいだからな」
「へー。そういや昨日行き倒れていた理由、結局聞かずじまいで気になってるんだけど」
「うむ。ちょーっとお偉いあやかしに反発して締められただけだ」
玉が、二個目のおにぎりに手を伸ばす。
無事両手に抱えたそれを、美味しそうに食べている。
「格上ってこと?」
「格上だな。実を言うと俺はあやかしたぬきの中では異端でな。普通は生まれてすぐに変化とか出来ないんだけど、俺は出来ちゃったわけだ。そういう『例外』が迫害されるのはあやかしの世も同じなわけだ。俺は迫害され続けていて、あやかしたぬきの総大将に睨まれてる。昨日は総大将の配下にやられて逃げたあとを、人間が見つけてくれたんだ。恩に着る」
ぺこりと頭を下げる玉。
舞弥は半ば呆然としていた。