「雨の中、こうして傘を差して歩くの、ずっと憧れてたんだぁ」
「そう……まあ、どちらかというと今のあなたは『傘』そのものなんだけど」
「あはは。身体が軽くていい感じだよ!」
雨の日担当の死神にとって、傘は魂の受け皿にして保管場所。回収した魂の分だけ傘は成長し、やがてその下に人に似た身を作るらしい。
つまり、魂ありきの傘が本体なのだ。
だからレインの場合も最初に、一番力のあるくらげの姿が見えたのだろう。
「でも、わたしも無事に死神になれてよかった! レインがお願いしてくれたお陰だよ」
「勧誘も仕事。それに、早い段階から死神の姿を見るなんて、素質があるわ。……まあ、人の命を奪う仕事なんて、あなたには向いてないかもしれないけれど」
「素質があるなら最初から言ってよー……なんて。わたしの心配してくれたんだね。ありがとう! ……でもさ、レインのが向いてない気がする……優しいし」
「……優しくなんかないわ。結局、あなたをこの仕事に巻き込んだんだもの」
「巻き込まれたなんて、思ってないよ。わたしが願ったことだもん!」
雨音の響く中、わたしはレインと色違いのくらげを広げて、念願の水溜まりを踏む。けれど、そこにわたしの姿は映らない。
感覚的には傘を差して歩いているつもりなのだけど、レインに言わせると今のわたしは持ち手すら生えていないくらげの傘未満。寧ろ本物の半透明なくらげに近いようだ。
まだ自分の魂一個分の、未熟な存在だからしかたない。
「でも、わたしも同じ雨の担当になれてよかった!」
「……雨の担当は、少ないから。雨が好きなんて物好き、早々居ないもの」
「えー? わたしは好きだよ」
「……知ってる」
こうしてふたつのくらげの傘は雨の中、漂う気ままなくらげのようにふわりと浮かび、空を泳ぐ。
ガラスの外の自由な世界で、もう寂しくはない、新たな日々を始めるのだった。