「七彩が言ってたバニラの匂いは…たぶん、俺の母さんだ」

フッと曖昧に微笑んだ舞斗。

「お母さん…」

え、ちょっと待って?
でも、確か舞斗のお母さんって…。

目を丸くする私に向かって。

「命日なんだ、今日が…。母さんの」

そう、舞斗から付き合ってすぐに聞いていた。
数年前に病気でお母さんは亡くなってるって。

「母さん、バニラ系の香水を好んでつけたてんだ。だからたぶん…な。それに、俺の周りだと他に心当たりないから」

「…そう、なんだ」

こういう時、なんと声をかけていいのかわからない。

それに、どうしてだろう。
普段であれば、こんな突拍子もない話、信じないはずなのに…。
妙に納得してしまった自分がいて。

「舞斗、行こう」

気づけば、ギュッと舞斗の手を掴んで私は走り出していた。

「七彩?行くってどこに…」

「舞斗の家」

「俺の…?って、ちょっと待てって」

慌てる舞斗を無視して、私はグイグイとヤツの手を引く。

行かないといけない。

なぜかその時の私は、その気持ちで頭がいっぱいになっていたー…。