ジッと舞斗の瞳を見つめる私。

そして、とうとう黙りこくるヤツに痺れを切らして…。

「今日、舞斗から知らない香りがしたの。いつものシトラスの匂いじゃなくて…バニラみたいな甘い香り」

ムスッとした表情で、吐き捨てるように口を開く。

「…え」

一瞬、舞斗の瞳が揺らいだのを私は見逃さなかった。

やっぱり、何か思い当たる節があるのね。

「バニラ…?七彩、今はするか!?」

自分の腕に顔を寄せ、慌てた様子で匂いを確認しだす舞斗に私はポカンとした表情を浮かべる。

な、何…?

「今は…しないけど。そもそも香水なんだならそんなに長く香るわけないでしょ。匂いがしたのは朝の講義の時だし」

「そっか…」

もう。何なのさっきから…。

いつもと違う舞斗の行動に戸惑いつつ、私は小さくため息をこぼした。

「あのさ。結局、どういうことなの?バニラの匂いもそうだけど…。私にナイショでバイトしてるし…やっぱり…」

「浮気なの?」と言いかけて私は咄嗟に口をつぐむ。

少し遠くを見つめるような舞斗の寂し気な表情に私は息を呑んだ。