舞斗は、現在お父さんと2人暮らし。
5歳上のお姉さんと、2歳上のお兄さん達はそれぞれ家を出て一人暮らしをしているらしい。
会社勤めの舞斗のお父さんは、まだ帰宅しておらず、現在私は舞斗と二人きりという状況。
そう考えると、若干緊張してしまうのは仕方がない。
「悪いな。うち父さんも俺もブラック派だからコーヒー用の砂糖とかミルクとかなくて。七彩、甘い方が好きだろ?」
「ううん。ブラックも飲めるから全然大丈夫だよ」
舞斗はコーヒーと、帰りがけにバイト先で購入したスコーンを持ってきてくれた。
「舞斗のお母さん、優しそうな人だね」
コーヒーを飲みながら、私は側に座る舞斗に声をかけてみる。
「あぁ。そうだな…。厳しい所もあったけど、家族のこといつも1番に考えてくれて。でも、病気のこともギリギリまで俺に隠してたんだぜ?まだ、俺も中学生だったし母さんなりに気を遣ったんだろうけど…。当時は、家族で俺だけ知らなかったことが悲しくて。八つ当たりしたりしてさ」
昔の反抗していた頃を思い出したのか、舞斗は苦笑いを浮かべた。
「そうなんだ…」
きっと、舞斗のお母さんは、末っ子の舞斗のことが可愛くて仕方なかったんだと思う。
かくいう、家の母も私と歳が離れた末妹(現在、中学3年生)にはめっぽう甘いし。
「そういえば、母さんに彼女紹介するのって、七彩が初めてだな」
…ッ。
照れたように、はにかむ舞斗の口から出たそんな言葉に、私は胸がキュッと締め付けられた。
舞斗のお母さん、私、舞斗のこと大好きです。
まだまだ未熟だし、今後も今日みたいにちょっとしたことで不安になったりするかもしれない。
けど、彼のこと支えていけるように頑張ります…!
これからも、どうか舞斗を近くで見守っていてくださいね。
心の中で私が舞斗の母親に対して、そう言葉を紡いだ時。
フワリ
私の横を通り抜けたのは、確かに朝舞斗から香った、甘いバニラの匂いだったー…。