チャイムの音に合わせて心臓の音も大きくなる。次は移動教室だ。用意していた教科書を掴み、机の波をかき分けて廊下まで急いだ。教室を出たばかりのチナとアヤに追いつくと微笑みを返される、よかった。

「これが昨日チナが言ってた人でしょ?」
「そう!実況中の声がかっこよくて」

 アヤがスマホをチナに見せている。きっと昨日チナが話していた動画配信者だ。どんな顔なんだろう、私からはアヤのスマホは見えない。広くない廊下は三人並んで歩くには適していない。だからいつも私が二人の背中を追いかける。二人が振り向くことは一度もないまま目的の教室まで辿り着いた。



 チャイムの音はいつも緊張する。二人がどう動くのか、最初の音が鳴った瞬間にうかがってしまう。二人は磁石みたいに吸い寄せられてお互いの元に向かう、自然と。そして二人揃えば、それで完成したように流れていく。
 私が窓際の席で二人が廊下側の席になってからは、休憩時間が始まるたびに身が固まる。たった十分のことなのに。今も二人は自然と目を合わせて、自然と寄り添って教室から出て行った。みじめだとわかっていても追いかける。
 必死だと気取られない程度の早歩きで追いつくと「どこ行くのー」と笑顔を作って声を掛けた。

「メイクなおそうと思って」
「私漏れそうでさあ」
「あはは。急げー」

 言い訳を作って個室に入り、笑顔を作った頬が痛くてみじめな気持ちを水と一緒に流した。…表情を作り直すのに少し時間がかかってしまった。二人はもう教室に帰ってしまっただろうか。もたつきながら個室から出ると

「千枝遅いー」
「踏ん張ってた?」
「ごめんごめん」

 待っていてくれた。こんなことでいちいち涙が出そうになる。笑い声でごまかしながら三人一緒にトイレから出た。
 大丈夫。嫌われているわけじゃない。ちゃんと私たちは三人組だ。無視されたり悪口を言われてるわけじゃない。ただ優先順位が低いだけ。必要とされていない存在、それだけだ。