部屋に戻ると、3人は先ほどより少し落ち着いた様子で、また黙ってアルバムを眺めていた。

 俺に気づいて顔を上げたヒロがおもむろに口を開く。

「……俺さ、なんとなく気まずかったし、辛いこと思い出すのも嫌で、みんなに会おって言えなかった。でも大学行って結構楽しくやりながらも、本当はずっとどっかでヒマリのこと引きずってんだよ」

「私もそう。ずっと誰かが誘ってくれるの待ってた気がする。この気持ちどこにぶつけていいかわかんなくて、無性に泣きたくなることも多くて、辛かった」

 ヒロとレナが自分と同じような感情を持っていたことに驚いた。この辛さを共有できるのはこのメンバーだけなんだと再確認させられる。

 だからこそ分かち合うことが必要だったのに、誰もそれをしようとしなかった。

「───もうすぐ朝のホームルームが始まる。俺たちで集まって話してると、時間ギリギリになってヒマリが『おっはよー!』って入ってくるんだよね」

 俺はまた思い出話を始める。

「それだけで教室が急に明るくなる気がしちゃうんだよね」

 サユが涙を堪えながら答えてくれた。

「でもあの子結構ズボラだから、『忘れものしたどうしよう!』って何回聞いたっけね」

 レナが無理やり笑いながら言って。

「朝のホームルームで俺らうるさくて注意されたりしてもさ、ヒマリはちゃんと担任に謝ったあと、クラス巻き込んで笑いに変えてっちゃうんだよな。すげーよ」

 ヒロがそう語って、笑い飛ばした。

「今日はたくさんヒマリの話をしようよ。ヒマリとの思い出話も、ヒマリがいなくなった辛さも全部吐き出そう。そうやってたら、止まったままのあの日から少しずつ卒業していける気がする」

 黙ってヒロが俺の肩に腕を回してくる。そうやってなんとなく円陣ができあがった。

「それでまた何度でも集まって、今度はみんなが今何してるのか聞きたい。もしヒマリがここにいたら、なんて話もしたいな」

 今とそれから未来の話を。ヒマリのいない今と未来を、俺たちは進んでいかなくちゃいけないから。

「私もそろそろこの世から卒業みたい」

 ヒマリの声がする。でも姿がどこにも見えない。

「卒業おめでとう、ユウマ────」

 消えゆく声の僅かな余韻を追って、追って。

 その細い糸が切れた瞬間、俺はようやく涙をこぼした。長い長い親友たちの話を遠く聞きながら、いつまでも子供みたいに泣きじゃくっていた。




fin.