卒業式の5日前。高校三年生は冬以降ほとんど学校が休みで、この日も例外ではなかった。
俺──ユウマはバイトに行っていたが、その帰り道で突然ヒマリから電話がかかってきた。
『……ユウマくんですか?』
そこでヒマリの家族からヒマリが大きな事故に巻き込まれ、もう帰らぬ人になったことを知らされる。
何も見えない。何も聞こえない。何も感じない。
俺はまるで魂を抜かれたように過ごし、葬式でヒロたち3人に会った時でさえひとことも話すことができなかった。
そして時は流れ、昨日。ヒマリは突然俺の家の前に現れたのだ。俺にだけしか見えない幽霊となって。
「ユウマ、私、死んじゃったんだよね……?」
ヒマリは昨日突然目が覚めたという言い方も変だが、意識が覚醒したらしい。
困惑するヒマリだったが、きっとすぐに天国へ行くことになるとも言った。
「よくわかんないけどね、そんな気がするんだよね。たぶんそういうシステムになってるんじゃない?」
ヒマリにまた会えて嬉しいという感情は意外にも少しだけだった。ただ自然と彼女の存在を受けて入れていた。
そもそも俺はまだヒマリが死んだということを認めきれていないのだった。
それにまたすぐに別れが来ることがたまらなくしんどかった。
「ヒマリ、みんなに会いたい?」
「もちろん会いたいよ! みんな相変わらず元気かな」
「うちにみんな呼ぼうか。ヒマリは卒業式出れなかったし、卒業式をやり直すってことで。来てくれる?」
ヒマリは「絶対いくに決まってるでしょ!」と目をきらきら輝かせた。
「できるだけ早く、明日にでも」
ヒマリがまだ俺のそばにいてくれているうちに、少しでもヒマリの喜ぶことがしたい。そんな思いで提案した卒業式。
『ただみんなと高校時代の思い出話をしたいです』
今も未来も存在しないヒマリが、寂しい思いをしないように。
そして、俺が少しでもヒマリが死んだという事実から目を逸らしたくて、みんなにはこのメッセージを送った。
「ヒ、マリ……」
今、目の前ではヒロも、レナも、サユも泣いている。そしてそれを見つめるヒマリの笑顔を見た瞬間、なぜか急にその場から逃げたくなった。
「ユウマ?」
部屋をそっと出ると、ヒマリがすぐ隣に来て顔をのぞきこんでくる。
「大丈夫?」
「……情けないよね。俺、ヒマリがいなくなったことまだ受け入れられてないんだ。3人みたいに泣くことすらできない」
「しょうがないよ。私が死んでから1ヶ月も経ってないんだし」
「1ヶ月じゃないよ。────1年と1ヶ月」
ヒマリが固まる。
「みんな大学とか専門学校に通って、高校とは違う毎日を送ってるはず。でも、俺もみんなもまだ1年じゃ足りない……っ」
「ユウマ、別れよう」
「は?」
脈略もなくいきなりヒマリが言った。
「私たち遠距離恋愛は向いてないと思う。だから別れよう」
「……ヒマリ」
「好きだった人と別れても、いつか切り替えて次の人を探すことって普通でしょ? でも彼女を失ったなんて、なかなか切り替えずらいじゃん。だからこれは死別じゃなくて、ただのお別れ。ユウマにはこれから普通に恋愛してほしい」
ヒマリは訴えかけるように言う。なんて優しく辛いお別れだろう。
「それとみんなとはこれからも今まで通り仲良くして。今まで全然会ってなかったんでしょ? ずっとずーっとみんな一緒にいてください。できれば記憶の中の私も入れてあげて。
……どうかユウマも、みんなも、私に縛られないで生きてほしい」
私からの最後のお願いだとヒマリは言った。俺がゆっくり頷くのを見届けて、彼女は俺の背中をそっと押してくる。
「『わたしたちの卒業式』を続けようよ」
俺──ユウマはバイトに行っていたが、その帰り道で突然ヒマリから電話がかかってきた。
『……ユウマくんですか?』
そこでヒマリの家族からヒマリが大きな事故に巻き込まれ、もう帰らぬ人になったことを知らされる。
何も見えない。何も聞こえない。何も感じない。
俺はまるで魂を抜かれたように過ごし、葬式でヒロたち3人に会った時でさえひとことも話すことができなかった。
そして時は流れ、昨日。ヒマリは突然俺の家の前に現れたのだ。俺にだけしか見えない幽霊となって。
「ユウマ、私、死んじゃったんだよね……?」
ヒマリは昨日突然目が覚めたという言い方も変だが、意識が覚醒したらしい。
困惑するヒマリだったが、きっとすぐに天国へ行くことになるとも言った。
「よくわかんないけどね、そんな気がするんだよね。たぶんそういうシステムになってるんじゃない?」
ヒマリにまた会えて嬉しいという感情は意外にも少しだけだった。ただ自然と彼女の存在を受けて入れていた。
そもそも俺はまだヒマリが死んだということを認めきれていないのだった。
それにまたすぐに別れが来ることがたまらなくしんどかった。
「ヒマリ、みんなに会いたい?」
「もちろん会いたいよ! みんな相変わらず元気かな」
「うちにみんな呼ぼうか。ヒマリは卒業式出れなかったし、卒業式をやり直すってことで。来てくれる?」
ヒマリは「絶対いくに決まってるでしょ!」と目をきらきら輝かせた。
「できるだけ早く、明日にでも」
ヒマリがまだ俺のそばにいてくれているうちに、少しでもヒマリの喜ぶことがしたい。そんな思いで提案した卒業式。
『ただみんなと高校時代の思い出話をしたいです』
今も未来も存在しないヒマリが、寂しい思いをしないように。
そして、俺が少しでもヒマリが死んだという事実から目を逸らしたくて、みんなにはこのメッセージを送った。
「ヒ、マリ……」
今、目の前ではヒロも、レナも、サユも泣いている。そしてそれを見つめるヒマリの笑顔を見た瞬間、なぜか急にその場から逃げたくなった。
「ユウマ?」
部屋をそっと出ると、ヒマリがすぐ隣に来て顔をのぞきこんでくる。
「大丈夫?」
「……情けないよね。俺、ヒマリがいなくなったことまだ受け入れられてないんだ。3人みたいに泣くことすらできない」
「しょうがないよ。私が死んでから1ヶ月も経ってないんだし」
「1ヶ月じゃないよ。────1年と1ヶ月」
ヒマリが固まる。
「みんな大学とか専門学校に通って、高校とは違う毎日を送ってるはず。でも、俺もみんなもまだ1年じゃ足りない……っ」
「ユウマ、別れよう」
「は?」
脈略もなくいきなりヒマリが言った。
「私たち遠距離恋愛は向いてないと思う。だから別れよう」
「……ヒマリ」
「好きだった人と別れても、いつか切り替えて次の人を探すことって普通でしょ? でも彼女を失ったなんて、なかなか切り替えずらいじゃん。だからこれは死別じゃなくて、ただのお別れ。ユウマにはこれから普通に恋愛してほしい」
ヒマリは訴えかけるように言う。なんて優しく辛いお別れだろう。
「それとみんなとはこれからも今まで通り仲良くして。今まで全然会ってなかったんでしょ? ずっとずーっとみんな一緒にいてください。できれば記憶の中の私も入れてあげて。
……どうかユウマも、みんなも、私に縛られないで生きてほしい」
私からの最後のお願いだとヒマリは言った。俺がゆっくり頷くのを見届けて、彼女は俺の背中をそっと押してくる。
「『わたしたちの卒業式』を続けようよ」