「あ、見て、入学式の集合写真だよ」
サユが指した写真を覗き込んで、4人の顔を探す。
「うわ、この金髪の男子もしかしてヒロ?」
「懐かしーな。教頭と担任と学年主任に初日から絞られまくったっけ」
「レナちゃん覚えてないんだ。うちの高校、校則厳しかったからすごく目立ってたのに」
サユが驚いた顔をする。
「そんで教室行ったら隣の席がヒマリだったんだけど、『やば、え、やば! こんな初日から金髪とか勇気あるね、バカすぎ』って爆笑されたのは忘れられねえ……」
「さすがヒマリ。高校初日からテンションお化けだわ」
「あそこからみんなで仲良くなり始めたんだから、いいでしょ? 感謝してよね」
私はヒロとレナに向けて、投げキッスを飛ばす。
「そうだね。そのあと急にヒロが近くにいた俺に話振ってきて、レナさんがぼそっと突っ込んできてー」
「私は次の日、部活見学でヒマリちゃんとレナちゃんと仲良くなって、みんなと一緒にいるようになったんだよね」
ユウマとサユが順番に語り、私たちも頷く。
「へぇ、文化祭のページは3年間分載ってるんだ。私たち2年生の時やったコスプレカフェの衣装で写ってるんだけど、恥ず」
レナが顔を顰めて、次のページをめくろうとする。
「レナちゃんメイド服だったもんね。ちゃんと見せて、可愛かったんだから」
「こういうのはあんたみたいに可愛らしい子がやるもんでしょ。なんでサユはただの猫耳なの、意味わかんない」
「しょうがねえじゃん、コスプレはくじ引きで決定だったんだから」
そう言ったヒロを全員で睨みつける。
このコスプレカフェはくじ引きでほぼ強制的にやりたくない衣装を着せられる、最悪の企画だった。
そしてその発案者は実行委員だったヒロで、調子に乗った男子たちと一緒に、勝手にそのまま企画書を提出したのだ。
調理班に回るつもりだった私たち4人も無理やり参加させられてしまった。
「言い出しっぺのヒロは苦しそうなうさぎの着ぐるみだったから、それよりはメイド服の方がマシだった気がするけどね」
「げえ〜、私は着ぐるみの方がよかった」
そう言う私もメイド服。あんな甘ったるい声で『お帰りなさいませご主人様♡』と言わされた悪夢は忘れられない。
「一番嫌だったのは俺だよ……」
ユウマが泣き真似をしだす。
5人で並んで撮った写真の一番右には真っ白なドレスの美少女──もといユウマの姿があった。
「泣くなって。この時のユウマほんとに結婚してほしいって思うくらい綺麗だったぞ」
「うるさい、全然褒められてる感じしないんだよ」
あのクラスで女装させて一番似合うのは、どちらかというと中性的で整った顔立ちのユウマだった。その意味ではくじ運がよかったと言えるかもしれない。
「次のページは体育祭だけど、私たちが写ってる写真はなさそうね」
「あ、レナ、待て待て。ここに伝説のあのシーンがちらっと写っちゃってんだよ」
ヒロがニヤニヤしながらページの端の方を指さした。
「借り物競走で彼女さんお姫様抱っこしながら爆走するユーマくんがね」
高3の秋、付き合い始めてちょうど一年と二ヶ月。だいぶ初々しさも抜けた頃だったが、さすがにこれは恥ずかしかった。
そう、ユウマの彼女さんというのは私のこと。
私たちは似ても似つかない正反対のふたりだった。それなのにと言うべきか、だからこそと言うべきか、見えない糸に引かれるように彼に惹かれた。
両片思いの果てに実った恋を、私は今も続けている。
「『大好きな人』って書かれてたのに、ヒマリ以外選ぶわけない」
「こんの天然め、ムカつく」
急に爆弾投下されて赤面してしまった顔を誤魔化すように毒づいた。
「はーいなんかユウマうざかったから次行くよ」
「なんでだよ」
「わぁ〜、修学旅行の写真いっぱいだね。京都で着物着てる写真と新幹線に乗ってる写真写ってるよ」
私たちはもちろん修学旅行も同じ班だった。部屋こそ男女で別れるが、他の場所はほとんど5人で回った。
「修学旅行と言えばあれだよね、喧嘩」
サユが言うと、他のみんなも苦笑いで頷いた。
まず事の発端は私とユウマの喧嘩から始まる。
この日、修学旅行の集合場所だった学校へお兄ちゃんに車で送ってもらった。そしてユウマに『誰?』と聞かれた私は『仲良しの友だち』と答えた。
ちょっとふざけてみただけだったのに、ユウマは大激怒。冗談でもありえないとお説教をくらった。
「ユウマ怖かったな、思い出しても泣けてきちゃう」
「あれはヒマリが悪かっただろ」
私は肩を竦めて、べーっとやって見せる。
「そこのカップル喧嘩は別にどうでもよかったのよ。問題はヒロ。修学旅行に遅刻とか意味わかんないから」
「いやー、そんなこともありましたっけねぇ」
とぼけるヒロをレナが軽く睨みつける。
あろうことか集合に間に合わなかったヒロにレナがこれまた大激怒。
結果的にはギリギリ新幹線の時刻には間に合ったわけだが、車内で言い合い勃発になることは言うまでもなく。
『いい加減にしてよ! こっちがどんだけ心配したと思ってんの?』
『まあまあレナ落ち着いてってば、ほら富士山だよー、おっきいよー』
『なんでそんなヘラヘラしてんだよ、俺だってヒマリに怒ってんだけど』
『結果的には間に合っただろ? ヒマリだって結果的には実のお兄さんだったんだからいいんじゃね? ふたりとも怒んなよ』
『そーだそーだ!』
こうして謎のユウマレナ対ヒロヒマリという構図が生まれ、サユは隣で号泣。
まあ元はと言えばヒロと私が悪いので謝ったが、その微妙な雰囲気でなぜか全員がふて寝をし始める。
「この新幹線の写真、ちょうど私たち全員の寝顔写真だよ」
「もう、誰が撮ったの? いやーん、貴重な寝顔公開しちゃった、照れるー」
「全然需要ないね」
口に手を当ててぶりっ子っぽくしてみたが、ユウマにふわっとした笑顔であしらわれた。ひどい。
「行事のページはここまでっぽい。次からはクラスのページ」
レナが一枚一枚丁寧にページを進めていき、やがて手を止めた。
『3年5組』
そう書かれた下には私たちの青春の舞台である教室が、夕暮れ色の哀愁をまとって写されていた。
サユが指した写真を覗き込んで、4人の顔を探す。
「うわ、この金髪の男子もしかしてヒロ?」
「懐かしーな。教頭と担任と学年主任に初日から絞られまくったっけ」
「レナちゃん覚えてないんだ。うちの高校、校則厳しかったからすごく目立ってたのに」
サユが驚いた顔をする。
「そんで教室行ったら隣の席がヒマリだったんだけど、『やば、え、やば! こんな初日から金髪とか勇気あるね、バカすぎ』って爆笑されたのは忘れられねえ……」
「さすがヒマリ。高校初日からテンションお化けだわ」
「あそこからみんなで仲良くなり始めたんだから、いいでしょ? 感謝してよね」
私はヒロとレナに向けて、投げキッスを飛ばす。
「そうだね。そのあと急にヒロが近くにいた俺に話振ってきて、レナさんがぼそっと突っ込んできてー」
「私は次の日、部活見学でヒマリちゃんとレナちゃんと仲良くなって、みんなと一緒にいるようになったんだよね」
ユウマとサユが順番に語り、私たちも頷く。
「へぇ、文化祭のページは3年間分載ってるんだ。私たち2年生の時やったコスプレカフェの衣装で写ってるんだけど、恥ず」
レナが顔を顰めて、次のページをめくろうとする。
「レナちゃんメイド服だったもんね。ちゃんと見せて、可愛かったんだから」
「こういうのはあんたみたいに可愛らしい子がやるもんでしょ。なんでサユはただの猫耳なの、意味わかんない」
「しょうがねえじゃん、コスプレはくじ引きで決定だったんだから」
そう言ったヒロを全員で睨みつける。
このコスプレカフェはくじ引きでほぼ強制的にやりたくない衣装を着せられる、最悪の企画だった。
そしてその発案者は実行委員だったヒロで、調子に乗った男子たちと一緒に、勝手にそのまま企画書を提出したのだ。
調理班に回るつもりだった私たち4人も無理やり参加させられてしまった。
「言い出しっぺのヒロは苦しそうなうさぎの着ぐるみだったから、それよりはメイド服の方がマシだった気がするけどね」
「げえ〜、私は着ぐるみの方がよかった」
そう言う私もメイド服。あんな甘ったるい声で『お帰りなさいませご主人様♡』と言わされた悪夢は忘れられない。
「一番嫌だったのは俺だよ……」
ユウマが泣き真似をしだす。
5人で並んで撮った写真の一番右には真っ白なドレスの美少女──もといユウマの姿があった。
「泣くなって。この時のユウマほんとに結婚してほしいって思うくらい綺麗だったぞ」
「うるさい、全然褒められてる感じしないんだよ」
あのクラスで女装させて一番似合うのは、どちらかというと中性的で整った顔立ちのユウマだった。その意味ではくじ運がよかったと言えるかもしれない。
「次のページは体育祭だけど、私たちが写ってる写真はなさそうね」
「あ、レナ、待て待て。ここに伝説のあのシーンがちらっと写っちゃってんだよ」
ヒロがニヤニヤしながらページの端の方を指さした。
「借り物競走で彼女さんお姫様抱っこしながら爆走するユーマくんがね」
高3の秋、付き合い始めてちょうど一年と二ヶ月。だいぶ初々しさも抜けた頃だったが、さすがにこれは恥ずかしかった。
そう、ユウマの彼女さんというのは私のこと。
私たちは似ても似つかない正反対のふたりだった。それなのにと言うべきか、だからこそと言うべきか、見えない糸に引かれるように彼に惹かれた。
両片思いの果てに実った恋を、私は今も続けている。
「『大好きな人』って書かれてたのに、ヒマリ以外選ぶわけない」
「こんの天然め、ムカつく」
急に爆弾投下されて赤面してしまった顔を誤魔化すように毒づいた。
「はーいなんかユウマうざかったから次行くよ」
「なんでだよ」
「わぁ〜、修学旅行の写真いっぱいだね。京都で着物着てる写真と新幹線に乗ってる写真写ってるよ」
私たちはもちろん修学旅行も同じ班だった。部屋こそ男女で別れるが、他の場所はほとんど5人で回った。
「修学旅行と言えばあれだよね、喧嘩」
サユが言うと、他のみんなも苦笑いで頷いた。
まず事の発端は私とユウマの喧嘩から始まる。
この日、修学旅行の集合場所だった学校へお兄ちゃんに車で送ってもらった。そしてユウマに『誰?』と聞かれた私は『仲良しの友だち』と答えた。
ちょっとふざけてみただけだったのに、ユウマは大激怒。冗談でもありえないとお説教をくらった。
「ユウマ怖かったな、思い出しても泣けてきちゃう」
「あれはヒマリが悪かっただろ」
私は肩を竦めて、べーっとやって見せる。
「そこのカップル喧嘩は別にどうでもよかったのよ。問題はヒロ。修学旅行に遅刻とか意味わかんないから」
「いやー、そんなこともありましたっけねぇ」
とぼけるヒロをレナが軽く睨みつける。
あろうことか集合に間に合わなかったヒロにレナがこれまた大激怒。
結果的にはギリギリ新幹線の時刻には間に合ったわけだが、車内で言い合い勃発になることは言うまでもなく。
『いい加減にしてよ! こっちがどんだけ心配したと思ってんの?』
『まあまあレナ落ち着いてってば、ほら富士山だよー、おっきいよー』
『なんでそんなヘラヘラしてんだよ、俺だってヒマリに怒ってんだけど』
『結果的には間に合っただろ? ヒマリだって結果的には実のお兄さんだったんだからいいんじゃね? ふたりとも怒んなよ』
『そーだそーだ!』
こうして謎のユウマレナ対ヒロヒマリという構図が生まれ、サユは隣で号泣。
まあ元はと言えばヒロと私が悪いので謝ったが、その微妙な雰囲気でなぜか全員がふて寝をし始める。
「この新幹線の写真、ちょうど私たち全員の寝顔写真だよ」
「もう、誰が撮ったの? いやーん、貴重な寝顔公開しちゃった、照れるー」
「全然需要ないね」
口に手を当ててぶりっ子っぽくしてみたが、ユウマにふわっとした笑顔であしらわれた。ひどい。
「行事のページはここまでっぽい。次からはクラスのページ」
レナが一枚一枚丁寧にページを進めていき、やがて手を止めた。
『3年5組』
そう書かれた下には私たちの青春の舞台である教室が、夕暮れ色の哀愁をまとって写されていた。