流れ落ちる涙を止めることもせずに、迎を失った事実を見つめる。迎の優しい手がハンカチで涙を拭ってくれた。
迎の右手に光る指輪をそっと撫でるように手を重ねる。
「迎、ごめんね……」
「大丈夫だって、言っただろ」
迎は結局、あのまま静かに息を引き取った。私は、迎を失った事実を忘れていたんだ。
「迎えに来てくれたの?」
会えたと言うことはきっとそう言うことだ。死んだ記憶なんてないけど、迎がいる。強く抱きしめようと腕を伸ばして、するりと通り抜けた。
どうして。アーンはできたのに。違う、あれは実際に合った記憶だったから?
「違うの?」
「ごめん、俺は今から優しくないことを言う。マナが好きになってくれた優しい俺じゃなくて、ごめん」
迎が真剣な表情で謝り出すから、続く言葉が想像できて息が詰まる。私も死んでしまえばよかった。迎と一緒に行きたかった。でも、望まないよ。
作り笑いで私が次は「大丈夫」と口にする。
「俺の分も幸せに生きて。ご飯はきちんと食べること。幸せなること。ちゃんと寝ること。お願いだから、生きててよ」
迎が言う言葉は、あまりにも意地悪だ。私に一人で幸せに生きろと、どうしてこんなに愛しい人に言われなくちゃいけないんだろう。
うん、とはすぐに頷けなかった。だって、私は、迎が好きで。大切で。私のこれからの未来は、迎が隣にいたから。
「でも、時々は俺のこと思い出して。ごめんね、一緒に未来に行けなくて。マナを置いて行っちゃってごめんな、本当にごめん、どんどん落ち込んでいくマナを見て、死んだのに、死にそうなくらい辛かった、いっそのこと忘れてくれればいいと思ったのに」
そう言いながら、迎は顔をくしゃくしゃにして、無理矢理な笑顔を作った。
「マナのこと好きだから、俺とマナの付き合ってた日々を無かったことにはしたくなくて。でも、生きてて欲しいし笑っていて欲しいんだ。ごめん。わがままで」
いつもとは反対な私たちに気づいて、今まで迎に貰った分の優しさを返す時だと思った。私のわがままを否定もせず、全て受け止めてくれた迎。
「ずっと忘れないし、ずっと大好きでいる。でも、ちゃんと幸せに生きるよ。ご飯も食べるし、眠りもする」
約束と小指を掲げて、こぼれそうな涙は飲み込んだ。迎の小指と私の小指は触れないけど、指切りをする。いつか、また迎に会える時に、いっぱい幸せな話をするよ。