不思議な現象に、少しだけ怖くなってきた。あまりにも鮮明に、あるはずのない記憶が思い浮かぶから。水を一口飲んで落ち着こうとして、手を止めた。
「どうしよう」
つい不安を口にしてしまう。迎は、いつものように心配そうな顔でハンカチを差し出してくれる。気づかないうちに、涙が溢れていたみたいだ。なんで、泣いてるのかも。どうして怖いのかも、私自身わからないのに。
涙は止まらない。
「とりあえず水飲みなよ」
水を飲んで、変な記憶がまたありもしないのに浮かんだら。そう思うと、コップを持つ手が震える。
「大丈夫だから」
迎が自信満々に言うから、ごくんっと飲み干す。変な幻はいつまで経っても現れない。
「二回も起きたから、また、起こるかと思っちゃった! さすがにないかぁ。私の超能力かと思ったのに」
わざとらしく笑って声に出せば、少しだけ安心した。理由もわからない不安が、胸の中で渦巻く。どうしてこんなにソワソワするんだろう。
「大丈夫だよ、だから全部食べてから帰ろう」
「迎の大丈夫って、本当に大丈夫な気がしてくるんだよね」
「大丈夫だから、言ってるんだよ。あたりまえだろー」
迎の笑顔に安心して、プリンを口にする。口の中に広がったのは優しい甘さで。頭の中に広がったのは、あまりにも辛すぎる。想像だけでも泣いてしまいそうな幻だった。