*  *  *

 一周年記念と二人の専用アプリに表示されてる文字を、朝から何度も繰り返し見てしまう。迎とここまで付き合えると思ってもみなかった。

 私は嫉妬深くて、重たい女だから。いつか迎は嫌になっちゃうんじゃないか。そんな不安がいつも付き纏っていた。だからこそ、迎が望むことはなんでもしてあげようと心に刻む。

 甘やかすことではなくて、迎にとって必要な人になりたかったのだ。

「おはよ、マナ」

 少し早く着きすぎてしまったはずなのに、数分と経たずに迎が現れる。驚いていれば、手で目隠しをされて急に歩くように指示された。

「迎?」
「まずはーまっすぐ!」
「何、急に」
「サプラーイズ!」
「怖いんだけど……」
「悪いことはしないって」

 迎がそう言うならと、指示に従って歩く。迎の指示は下手くそで、時々電柱に足をぶつけてしまった。

「あぁ、待って! ぶつかるぶつかる!」
「もう、遅いよー!」

 迎の言葉と同時に、つま先は電柱を蹴り上げるようにぶつかってしまう。ジンジンとするつま先を我慢しながら、歩く。

「じゃーん! ここです!」

 着いたのは、迎のお家で。いつもと変わり映えしない光景だ。サプライズというから少し、ドキドキしてしまったのに。

 手を引かれながら、迎の部屋にお邪魔する。部屋には、アニバーサリーと書かれたケーキ、風船。可愛らしい飾り付けがされていて、迎が用意してくれた気持ちが嬉しかった。

「はい、読んで」

 渡された手紙には、なぞなぞが三つ書かれていた。じっくりと読んで答えを探る。謎を解くのはあんまり得意じゃないけど、わくわくとしてる迎の顔を見てたら頑張らなきゃと思った。

問題1:仲間はずれを一つ見つけてください
   緑  赤  黒  青
        |
問題2: ?に入るアルファベットは何でしょう
   ?O T T F F S S E N

問題3:問題1と2を繋げた場所を開けてね!

「ヒントはもらえるの?」

 迎に問い掛ければ、にまぁと唇を緩める。問題1からなんのことかさっぱりで、全然思いつかない。色に関連してることはわかるけど……

「ヒント欲しくなったら言って。あ、部屋にもヒントは用意されてまーす! 俺はジュースでも用意してこよーっと!」

 部屋を出て行った迎の背中を見送ってから部屋をぐるりと見回す。いつもと違うところ……かな? いつもは整理整頓されてる机の上に教科書が出しっぱなしで、開いたままになっている。あとは、飾り付けに色とりどりの光がキラキラ輝いてることぐらい?

 他にはいつもと違うところが見つけられずに、英語の教科書を眺める。よく見れば、高校の教科書ではなくて、中学時代の教科書みたいだ。数字の読み方が並んでいて、こんなの今更勉強しなくても……と言いかけて問題2が解けた。

「Z」

 ジー? ゼット? 机の上にあったペンで、問題の答えを書き込む。問題1は……英語で発音してみるも違う。

 レモネードと炭酸ジュースをお盆に乗せて戻ってきた、迎が手元を覗き込む。

「おおっ!」

 反応を見る限り、正解ってことだと思う。レモネードを渡してくれる迎に、ヒントをねだる。

「問1のヒントちょうだい!」
「いいよ、ヒントはね、一年生の頃に授業で習いました!」

 一年生の頃に、授業で習った……緑と赤と黒と青。レモネードを口に含めば、酸っぱさに目が覚める気がする。

「もっと大ヒント、手に持ってるやつだとダメなんだよね」

 手に持ってるやつだとダメ……? 黄色だと、ダメ……? あ……!

「三原色!」
「せいかーい!」

 もう答えを隠す気はないらしい、青緑赤を除いた黒。黒が仲間はずれだ! 黒とZ。問題文の間に、印字ミスのように見える棒線。

 黒ーZ。クローゼット!

 行き慣れた彼氏の家とは言えど、開けるのには少し抵抗感がある。ちらっと迎の方を見れば、どうぞとでも言うように手を広げていた。

 パッと開けば、小さな箱と手紙。持ち上げた瞬間、箱を迎に奪われて右手を握られる。

「一年間ありがと。俺優柔不断だし、マナを不安にさせたこといっぱいあったと思う。それでも、俺でいいって言ってくれてありがとう。これからも、一緒にいてください」

 私の方が迎を困らせることたくさんあったのに。私の右手の薬指に、リングをはめてくれてから、私に右手を見せつける。ペアリングにはハートが彫られていて、可愛さと迎のサプライズのせいで、飛び跳ねてしまいそうになる。

「ありがとう、私の方こそ何回も困らせてごめんなさい。大好き、です」
「手紙は、恥ずかしいから帰ってから読んで!」
「うん……」

 私も迎のために作ってきたお揃いのキーホルダーを差し出す。迎と私のイニシャルをあしらったキーホルダーだ。手紙だって私も書いてきた。

「いいの?」
「同じようなこと考えてたんだね、私たち」
「恋人って似てくるらしいからね」

 大事そうにそっと掴んで「何につけよう」と呟く。喜んでくれたことと、同じようなことを考えていた事実に胸がいっぱいだ。

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