ドリアを飲み込んで、迎にまたデジャブしたことを言おうと顔を上げる。迎は私のドリアを欲しそうに見つめていた。

「ドリア一口食べる?」
「いいの?」
「はい」

 スプーンに一口分掬い取って差し出す。受け取らない迎に首を傾げれば、口を開ける。言いたいことはわかったけど、恥ずかしさが頭のてっぺんまで込み上げてくる。

「してくれないの?」
「だって……」
「誰も見てないって」

 緊張を誤魔化すように、深呼吸を繰り返す。迎と付き合う時に決めた。迎の望むことは私がしてあげようと。思い出して、心を決めて口にする。

「あーん」

 すごく嬉しそうな顔で迎は口を開ける。可愛いなと思いながらスプーンを口の中に突っ込めば、「あふっ」なんて言いながらハフハフする。

「熱いに決まってるじゃん、ドリアだよ」
「でもおいしいね」
「よかった」

 ふわふわと浮かれていて、現実感が薄い。迎と付き合えるという奇跡が起きた後だからかも知れない。

「さっき何で固まってたの?」
「そう! またデジャブ! 迎とケンカなんてしたことないのに、ケンカした記憶がふわって」
「マナは未来予知にでも目覚めたの?」

 茶化すような言い方に、ぷっと笑う。ありえない。たまたま、だ。最初はサラダ。次はドリア。スープ、お水、デザートのプリン。目の前に並ぶメニューに、少しだけ変な予感がする。

 また、私が体験していない記憶が、ぼんやりと浮かぶような。

 もしかしたら、この初デート自体が夢なのかもしれない。迎が好きすぎて、付き合ったと妄想してるうちに、眠って夢を見てるのかも。

「私夢見てるのかな……」
「俺も一緒に夢見てるってこと?」
「迎と付き合えたのが夢オチでした、とか?」
「ないない」

 迎は笑いながら、スープのカップに口をつける。反応を窺っても、特に何も起こらないらしい。デジャブが起こるのはどうやら私だけ、みたいだ。

 恐る恐る、スープを一口飲み込む。予想通り、ふわりと体験してないはずの記憶が脳内を通り過ぎていく。あまりに幸せすぎる記憶に、涙が出そうになった。

「またデジャブ?」
「一年記念日のプレゼントは、お揃いの指輪がいいな」
「そんなデジャブだったの?」