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 迎は優しい。優しすぎるから誰に対しても、同じ態度を取る。そんな迎の態度に嫉妬して、告白をしてしまってから始まった私たちのお付き合いだった。

 付き合い始めてからも迎は他の女の子に対して、優しさを相変わらず見せる。私だけにしてほしい。冷たくしてほしい、ってわけじゃないけど。

「迎はいつもそう! 私はその他大勢と同じなんでしょ!」
「そんなことない。ごめん」

 高校生の恋愛にこんな嫉妬は重いと嫌われるだろうか。そんな考えが頭に浮かぶのに、私の口は言葉を紡ぐことをやめない。

 迎のことが好きなのに、不安で責め立てたくなる。

「迎はそんなに私のことを好きじゃないんだよね。私ばっかり迎のこと考えてるみたい」
「ごめん」
「ごめんはもういらないよ!」

 もう別れよう、の言葉が喉の奥まで出かかる。でも、私は迎とまだ別れたくない。わがまますぎる自分に、ため息を吐きそうになった。

「マナが一番好きだし、大切。でも、友だちもクラスメイトも、大切なんだ……」

 わかってる。痛いくらいにわかってる、だって、そんな迎だから、好きになった。見える範囲の人には、手を貸してあげたくなってしまう、優しい迎を好きになったのに。

 私以外の人に向いていく、迎の優しさに我慢できなかった。

「でも、マナが一番大切なことには変わりないから。マナが不安な時にはそばにいるし、マナを不安にさせない」
「ごめん、縛りつけたいわけじゃないのに、わがままを言って」
「言ってくれた方がいい! マナと別れたくないから」
「人生何度目よ! 人間出来すぎでしょ」

 感情が昂りすぎて、ポロポロとこぼれ落ちた涙をカーディガンの袖で拭い取った。こんな時でも迎は優しくて、ハンカチを差し出してくれる。

 入学式の時と変わらないポーズに、つい笑い声が漏れてしまう。

「迎はいつも私にハンカチを差し出してくれるね」
「マナが泣いたら、いつだって俺が慰めるよ」
「ありがと。私も迎に何か返せるかな」
「十分もらってるよ。隣に居てくれるだけで、支えられてる」

 何もしてあげられてない私に気を遣ってるんだと、その時は思った。

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