* * *
迎は優しい。優しすぎるから誰に対しても、同じ態度を取る。そんな迎の態度に嫉妬して、告白をしてしまってから始まった私たちのお付き合いだった。
付き合い始めてからも迎は他の女の子に対して、優しさを相変わらず見せる。私だけにしてほしい。冷たくしてほしい、ってわけじゃないけど。
「迎はいつもそう! 私はその他大勢と同じなんでしょ!」
「そんなことない。ごめん」
高校生の恋愛にこんな嫉妬は重いと嫌われるだろうか。そんな考えが頭に浮かぶのに、私の口は言葉を紡ぐことをやめない。
迎のことが好きなのに、不安で責め立てたくなる。
「迎はそんなに私のことを好きじゃないんだよね。私ばっかり迎のこと考えてるみたい」
「ごめん」
「ごめんはもういらないよ!」
もう別れよう、の言葉が喉の奥まで出かかる。でも、私は迎とまだ別れたくない。わがまますぎる自分に、ため息を吐きそうになった。
「マナが一番好きだし、大切。でも、友だちもクラスメイトも、大切なんだ……」
わかってる。痛いくらいにわかってる、だって、そんな迎だから、好きになった。見える範囲の人には、手を貸してあげたくなってしまう、優しい迎を好きになったのに。
私以外の人に向いていく、迎の優しさに我慢できなかった。
「でも、マナが一番大切なことには変わりないから。マナが不安な時にはそばにいるし、マナを不安にさせない」
「ごめん、縛りつけたいわけじゃないのに、わがままを言って」
「言ってくれた方がいい! マナと別れたくないから」
「人生何度目よ! 人間出来すぎでしょ」
感情が昂りすぎて、ポロポロとこぼれ落ちた涙をカーディガンの袖で拭い取った。こんな時でも迎は優しくて、ハンカチを差し出してくれる。
入学式の時と変わらないポーズに、つい笑い声が漏れてしまう。
「迎はいつも私にハンカチを差し出してくれるね」
「マナが泣いたら、いつだって俺が慰めるよ」
「ありがと。私も迎に何か返せるかな」
「十分もらってるよ。隣に居てくれるだけで、支えられてる」
何もしてあげられてない私に気を遣ってるんだと、その時は思った。
* * *