高校に入学し、はじめましてのクラスメイトたちに私は気後れしてクラスの隅に縮こまっていた。中学までの臆病な私を封印して、高校からは自分から声をかけるぞと決意したはずだったのに、だ。

 昨日の夜に、身体中に詰め込んだ勇気はいつのまにか萎んでいたらしい。SNSですでに知り合って輪ができてることを知らなかった。だから、仲良さそうに会話してるクラスメイトたちを横目に、どうしようどうしようばかりが脳内に溢れていく。

「大丈夫? 俺は、神岡迎(かみおかごう)

 そんな私を、体調が悪いのかと心配してハンカチを差し出しながら声をかけてくれたのが迎だった。王子様みたいだって直感で恋に落ちた。恥ずかしいけど、一目惚れだ。

「ありがとう、大丈夫。調子悪いわけじゃないの」

 入学式以降に初めて出した声は、ぷるぷると震えて歪んでいる。それなのに、迎は笑顔で私の次の言葉を待ってくれた。

「名前は?」
「あ、上平(かみひら)マナです。よろしくお願いします」

 親切に話しかけてくれた迎に、うまく返事ができない。どうしても出てくるのは、他人行儀な言葉ばかり。

「緊張するよな! 初めての人ばっかりで」

 緊張してる雰囲気など一ミリも感じさせずに、迎が微笑んでくれる。私もつられて、唇が緩んでいた。高校生活が楽しくなる予感がして、胸が弾む。

「緊張しちゃうよね! みんな、もう仲良しだし」
「SNSでグループできてるなんて知らなかったからさぁ。よかった、マナが居て」

 すんなりと呼ばれる名前に、戸惑いながらも呼び返す。

「迎くん」
「迎でいいよ、友達になろっ」

 手を差し出して、まるでマンガの一幕みたいに握手を求めてくる。そっと握り返せば柔らかい感触が暖かくて心地よかった。