エビのサラダを口にした瞬間、このお店に何回か来たことがある気がした。そんなはずはないのに。

「エビ、ダメだった?」

 固まってしまった私を前に、初めてできた彼氏の(ごう)は心配そうな表情をする。不安を解消しようと首を横にブンブンと振ってから、笑って見せる。

 エビはぷりぷりで口の中で弾けて、きちんとおいしい。それなのに、変な気分だ。このお店に来た記憶がないのに、来たことがある気がする。不思議な感覚で、自分の輪郭がぼやけてきた気さえした。

「どうしたの?」
「夢で見たのかも! 迎と一緒にこのお店に来て、ごはんを食べる」
「デジャブってやつ?」
「そう、それ! きっと運命だったんだね、迎と付き合うのは」

 自分で言って、恥ずかしくなって顔を隠す。初めて、好きになって、初めて、付き合った人。迎のことは、私はきっと死ぬ間際まで思い出す。たとえ、いつか私たちの道が別れに繋がっていたとしても。

 そこまで考えて、フォークを置いた。なんで、別れてしまうことを私は考えているんだろう?

「マナはこういうパスタが好きだろうなって、調べたんだ」

 迎の言葉に、嬉しさが胸に溢れていく。私のことを考えて選んでくれたという事実だけで、お腹がいっぱいだ。

 迎は出会った時から、私に優しさを惜しみなくくれた人だった。好きになった理由も優しさで、付き合うきっかけも同じだった。